第11話
*渡里千代サイド*
……土曜日に彼女から訊いた話は、私にとって衝撃の連続だった。
『貴女は優人を────殺せる?』
『何かの拍子に自殺しかねないアイツに告白してるんだから、もうその覚悟は必要なんだよ?』
『優人は小学五年と六年でイジメられてた。周りの連中から毎日のように「キモイ」って言われる形で』
『小学生のころから仲の良かった私が好きで、中学生の時に友人が優人の悪口言ってたもんだから、その場の勢いで「アイツは私の親友なの。ふざけてるとコンパスぶっ刺すよ?」なんて言ったんだけど、そしたら優人がそれを聴いてて親友という関係に落ち着いたってだけ』
『アイツだって、「気が付いたら好きになってた」って笑ってたし。ほら、あれじゃない?「俺は俺を好きなやつが好きだ」ってやつ』
『恋愛的な目で見てたよ』
『優人はね、元々一人称が『僕』だったんだ』
『芯の部分は『俺』なのに、滅多なことがない限りは『僕』って一人称を使うの』
『……人ってさ、自分より下がいると安心するの』
『……だから、アイツはその底辺に居続けることにしたんだよ。今更這い上がろうとするのは面倒くさいから、ってさ』
『アイツ一回だけ傷害事件を起こしかけてるんだ』
『ま、許容量を溢れちゃっただけだよ。きっかけは幻聴で、キレた結果ハサミで刺そうとしたんだ』
『下手すれば少年院行きだったかもなんて言って話してくれたのは、中学二年の後半辺りだったよ』
……日和さんから聞いた主な話はこんなところだろうか。彼の初恋関連の部分だけ詳細に鮮明に思い出しているが、まあ致し方ないと思ってほしい。
ともかくこれらのことからわかる事は────彼は決して、温厚な優しい人物でないということ。
それに日和さん曰くお兄さんに対して余程のことをしてきたようだし、本質的な面も決して良い人物ではないらしい。
これらを踏まえてなお、彼を好きであり続けているのが私だと。
「……こうして整理してみると気持ち悪いな私」
客観的に見たら圧倒的に狂人寄りだ。キチガイと呼ばれても否定できない。
自分のことを比較的常識人と思っていたが、そうでもないのかもしれない。
まあそんなことはどうでもいいんだけども。問題は────
「────余計な事言ってくれたなぁ……」
当時の同級生が彼に対して告げた、『一言』。
そりゃ躊躇なんて無くす。既にタガが外れてる人間に聞こえるところで、なぜそんなことを言ってしまうのか。
それが聞こえてなかったら、もうちょっと楽な人生を歩んでいたかもしれないのに。
…………などと言ってはみたものの。
「気持ちはわかるんだよね……」
そう、わかるのだ。
その彼らが言った言葉は、通常の精神状態であれば当然のことで、さらに言えば良い子だったという彼に対する評価としては至極真っ当なものだった。
だからこそ彼らはその言葉を口にしてしまった。
それが人間性を大きく変える一因になるなど、思いもせずに。
「…………たぶん、わかった」
萩村くんを諦めさせるための、向けるべき言葉。
それは彼が既に日和さんに向け、なんなら藤倉くんにだって向けている感情だ。
異常なまでのそれを私は既に見たし、日和さんの話で確信に変わった。
だから残る問題は────
「────私だけ」
本当に面倒くさい人ですよね、萩村くんは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます