第10話

 近場の古本屋で立ち読みすること二時間、日和から『繋がり』で話が終わったことと、渡里さんは先に帰ってもらったこと、そして話があるからもう一度部屋に来るようにと連絡を受けた。

 そして言われたとおりに部屋に行き、ちゃぶ台に座ったところで面談開始。


「千夜ちゃんについてどう思ってる?」

「物好きな変態」


 そんな質問と回答から始まり、そして二十分ほどで終わると、最後に日和は話してくれた。


「とりあえず、優人の過去について大体話したよ。イジメを受けていたことも、幻聴聞くほど追い詰められたことも────連中の余計な一言も」

「…………そっか。あの人、お前にそこまで話させるほどの人だったか」

「うん、良い子だった。

「……期待しないでくれ」

「期待してるなんて言ってないよ。ただ希望に縋ってるだけ」

「それはそれで失礼だな」

「あ、勿論初恋の相手が私だったことも、しっかりと話しておいたから」

「ガッデム!」


 *


 と、こんな経緯を経ての日曜日。家でゲームをしながらのんびりしていると『繋がり』にて渡里さんからメッセージが届いた。


『昨日は色々と話を聴けてよかったです。結局萩村くんに対する好意は大きくなったので、明日以降も積極的にアタックしていくつもりです。覚悟しておいてくださいね!』


「……ハハ」


 文字列を眺めてから一拍置いて、表情が苦々しさと笑みで八対一くらいになっているのを感じた。

 あんな言葉を今でも気にしているゴミメンタルしている俺なんかに、なんでそんな好意を向けられるんだ?

 それともあえての嫌がらせか何かか?


「……あ、操作ミスった」


 仮に嫌がらせだとしたら、成功したと言えるだろう。よそ見をしていたら入力をミスり、しかもそれは致命的なコマンドミス。三ターン後に無事全滅した。


「……はー、めんどくさ」


 生きるのも面倒だし、死ぬのは怖いし。こう言っちゃ不謹慎だけど、自殺できた人ってホントに凄いよなぁ……

 ────ホント、めんどくせえガキだよ俺は。


「……クソったれ」


 苛立ちの言葉を吐き捨てながら、『そうですか』と返信を送ってゲームの電源を落とす。

 真っ暗になったゲーム画面に、俺の仏頂面が反射されている。これがお前だと言うように、気持ち悪い目で睨みつけてくる。


「……死ねよ」


 俺自身に告げたその言葉は、果たして心の底から零れたものなのか。

 そんなこともわからないくらい、きっと俺は何も考えていない。


 *


 私はわかってる。

 アイツはどこまでも寂しがりやで、ある言葉を求めて日々を過ごしてる。

 グチャグチャでドロドロで、一周周って美しいと錯覚してしまうほどに醜い言葉すくいを待ってる。

 だがその言葉は、あくまでも明確にアイツ自身に向けられないといけないもの。

 だからアイツは、普段から自分の最低さを前面に出す。


 「にその言葉をください」って本質を曝け出しているんだ。


 きっとアイツ自身すら正しく認識してない、私だって五年かけてようやくわかったこと。

 そしてもう、私が言うんじゃ意味がなくなっている言葉だから。

 だから私は願い、彼女の本心を尋ねた。

 本音で語れないのであれば、アイツを任せられるはずも無いから帰ってもらうつもりだった。

 アイツの無意識部分の本能は大概鋭い。

 意識してなくても、自覚していなくても、他人の本音を感じ取る。彼女を拒絶しきれないのだって、それが原因なのだ。

 彼女の好意が本当だから。彼女の善意が本当だから。そして、彼女が本気で救いたいと願っているから。

 だから私は願いを託した。……いや、違うか。


 「優人を救って諦めさせてほしい」という身勝手な願いを、千代ちゃんに押し付けたのだ。








《作者からの謝罪》

 長らくお待たせして申し訳ございませんでした。

 今後もこんな感じで不定期の投稿になるので、気長にお待ちいただけると幸いです。

 正直最後の終わり方は決まっているのですが、過程が全然進んでいないです()

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