第6話
「────客観視するためですよ」
「客観視……ですか?」
俺が出した答えに、渡里さんが首を傾げる。
まあそれだけで納得できるわけがないわな。
「俺が今、何をするのか、何を発言するのか、俺が見て僕が実行する。そんな風にすることで、頭の中でワンクッションを作ってるんですよ」
「……解離性障害とかではなく?」
「ないない。そうやって『良い子の僕』を作っているだけです」
俺はそう言って笑みを浮かべる。いや、たぶん上手くできてないなこれ。なんか渡里さんも複雑な表情してるし。
これは更に言葉を重ねないといけないなと思い、表情を作るのをやめて話を続ける。
「他人への迷惑を減らしたいんですよ。俺、思考回路グチャグチャなので」
「……自己防衛の一環だったりはしないんですか?」
「っ────」
あ、しまった。これは表情に出たな。
いや、マジで厄介だ。嘘は言っていないけど、全部は語っていないのバレちゃった。渡里さんの「やっぱり……」って感じの視線が痛い。
仕方がないので、問いに対して答えることにする。
「────はぁ……確かに自己防衛の意味もありますよ。僕が嫌われてるって思えば、俺にはダメージ少ないので」
「……それだけですか?」
「それだけです」
嘘だ。深いところまで掘り下げれば、追加で理由が出てくる。
でも全ては語らない。差し支えない部分だけを語る。
そのことに渡里さんも気づいているだろうが、それでもこれ以上は話さないことを目つきで伝える。
「わかりました。これ以上はもっと仲良くなってからってことですね」
「……めんどくせ」
しかし渡里さんから返ってくる返答は、いつか聞かせろと言うような言葉だった。
いや、マジで面倒くさい。でも昔のことを自分から話すのは心地が悪い。
そんな時、ふと思いついた。
アイツなら、俺の過去について面倒くさがらず、全てを語ってくれるかもしれない。
細かい判断は任せられるし、何より人を見る目はアイツの方が上だ。
「……これ以上は俺の口からは言いません」
「いえ、いつか聞かせてもらいますよ。絶対に」
「でしょうね。でも俺から話すのは絶対に嫌なので、任せることにします」
「任せる……誰にですか?」
渡里さんからの疑問符を横目に、通話アプリで連絡を取ってみる。そして十秒もせずに『了解です!』というアニメスタンプが押された。
はえーよ。ゲーム中ならここまで早くないだろうし、漫画でも読んでたな
「俺の親友。唯一……ではなくなったか。まあ一人称を偽らずに話せる相手ですよ」
俺の言葉に、渡里さんが目を見開く。
「え、親友と呼べる方がいらっしゃったんですか!?」
「失礼すぎない?」
*
と、軽々しく親友を紹介することにしたわけだが、家に帰ってから考えが足りなかったことに気づいてしまった。
いや、マジで。アイツに頼んじゃダメじゃん。
「アイツ……絶対に俺の初恋のこととかまで暴露するじゃん……!」
赤裸々に暴露されるだろうことに気づき、しかし今更キャンセルしたら渡里さんにもアイツにも文句を言われるだろうと、延々と悶絶した。
「あー……かえりたい……」
土に。
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