悪いこと。
1
4月26日。雲一つない晴天の昼頃のこと…。
六年二組の教室。大掛かりな職員会議があるらしく、給食が終わってもう終わりのホームルームをしていた。
「……」
険しい顔をする正夫。
ホームルームが終わり、ランドセルを背負うと…多くの生徒が下校を始める。
隅に集まっている
「あの…ッ!?」
突然の声に驚く三人。
「僕も…オマワリさん探しに参加してもいいかな?」
困惑しながらお互いの顔を見合う三人。
「いいよ、来いよ!」
「ありがとう」
正夫はホッとした顔をした。
四人で教室を後にする。
2
昼頃。人通りがそこそこ多い商店街。
シャッターが閉まった店の前で集まる四人。
「どうやってオマワリさんを見つける気なの?」
気になっていたので、リーダー格の義樹に尋ねた。
「悪い人が出るのを待つ」
「…え?」
呆気にとられた。クラスの人気者のアイデアとは思えなかった。
「夕方になるまではここで待つぞ…!?」
「えぇ…」
「うるせぇ!瞬はコンビニで俺らのおやつ買って来い!」
お金を差し出す義樹と太郎。困惑する瞬。
「わかったよ…」
コンビニに向かう瞬の顔は悲しそうだった。
瞬がコンビニに入ったのを見届けると…
「きゃぁあぁあああああああ!!?」
「ひったくりだッ!?」
女性から鞄を奪った男がいた。
「追いかけるぞ!?」
「で、でも瞬が…!」
「仕方ねぇよ!」
走り出す三人。
正夫はコンビニの方を見る。
瞬はまだコンビニの中のようだ…。
「ごめんね…」
正夫は走り続けた。
3
ひったくり犯は施設の中に入ろうとした。
ガシャンッ
大きな金属音が鳴り響いた。
物陰に隠れる三人。
「あれは…なんの音だ?」
「うぉおああああああああ!!?」
強盗が施設の外へ飛び出してきた。
ひどく怯えている様子だ。
「か、鞄は返しますから…ッ!助けてぇ!?」
「………」
施設の陰から現れたのはオマワリさんだった。
「で、出た…」
息をのむ三人。
「あ…あへ……」
気が狂ったのか、動かなくなったひったくり犯をオマワリさんが手錠で捕まえ…
身体に取り込んだ。
「…嘘だろ」
声が漏れる義樹。
怖くなって蹲る太郎。
「………」
立ち尽くすオマワリさんはゆっくりと義樹たちの方向に顔を向けた。
「な…ま、なんで!?」
逃げ出そうとする義樹と太郎。
しかし、オマワリさんの身体から大きな二つの手錠が繰り出された。
「う、うぁあああああ!?なにもしてないよぉお~!!!?」
必死に逃げるが、呆気なく捕まってしまう二人。
「…そんな」
正夫はただ見ていることしかできなかった。
二人は闇に引きずり込まれてしまった。
オマワリさんが正夫のところに近づいてくる。
「おじいちゃん…」
涙があふれ出す。
祖父の殉職を知り、悪への怒りがこみ上げた日を思い出す。
「おじいちゃん…」
オマワリさんに手を伸ばす正夫。
「……」
伸ばされた手に手錠を近づける…
ガキィンッ!?
一本の蒼銀の槍が貫いた。
4
手錠を砕いた槍が背後の方へ戻っていき、手で掴まれた音がした。
「あ、あなたたちは…」
振り向くとそこには、刀を持った
「君に渡したお守りのおかげでここまで来れたよ…」
そう言いながら
「一緒に行くぞ、イルミナ!」
よし、と茶髪の少女が腕を構えた。
「さぁ、正夫君は僕たちと来て!」
桃色髪の少年が手を差し出す。
「う、うん…」
少年の手を掴む。
「僕は桃香…今からサリィと君の呪術を解くよ」
呪術…?
正夫は頭の中が混乱した。
「あの怪物はあなたをマーカーにして出現しているの…この場に来るまでは完全に憶測だったのだけれど……」
「君以外が真っ先に狙われたであろう状況から、確信に変わったんだ!」
二人の言うことが理解できない。
「おそらく、あなたが対象者に抱いた感情なんかがトリガーになっていると思うの…心当たりはない?」
心当たり…
そんなのない、そういおうと思ったとき…
「うぉい!なんかこいつ俺ばかり狙ってないか?」
「…あ」
紙袋を隠す
レジで怒鳴る、歩きたばこ、仲間を置いてけぼり……
一気に思い出す。
「僕が悪いことだと思ったから…」
「僕が
泣きそうになりながら叫んだ。
「おいおいおい!俺は悪人かよ!?」
「ねぇねぇねぇ!お菓子隠したの!?」
急に口論を始める二人。
「だってお前、すぐに他人の分まで食べちゃうだろうがよ!?」
「バカバカバカッ!」
「なんだよバカって!…あっ」
足を鎖でとらえられてしまった。
「うぉおおおおおお!?」
イルミナがその鎖を掴んだ。
そしてそのままぶん回し、
「なにしやがる!」
「うっさい!」
二人の様子に困惑する正夫。
「馬鹿は放っておいて…解術するわ」
「そのためには君にはできる限りポジティブな気持ちになってほしいんだ…」
ポジティブな気持ち。
おじいちゃん…。
祖父と散歩をしている幼児のころの正夫…。
「正夫は将来なにになりたい?」
「おじいちゃんと一緒に悪い人をやっつける!」
満面の笑みで答えた。
祖父も微笑んだ。
「正夫は良い子だ。でもな…おじいちゃんは人をやっつけるんじゃなくて、人を守りたくて仕事をしてるんだ…」
「どういう意味…?」
「いつかわかるよ…」
祖父は大声で笑いながらそう言った。
「なんで忘れてたんだ…」
「気持ちが高ぶっている…でもこれは…」
正夫の胸が輝きだした。
サリィは槍を地面に突き立て、唱え始めた。
「これなら行ける…!」
正夫の足下に魔法陣のようなものを刻んでいた桃香が言った。
突如苦しみ始めたオマワリさん。
「行けたみたいだな!」
オマワリさんの肉体が消滅し始めた。
「ごめんねおじいちゃん…でも僕、もう間違えないよ!」
涙をこぼしながら笑顔を見せた。
「…ゥ……」
消滅の間際…
オマワリさんの顔が微笑んだような気がした。
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