79話 セペトと閻魔女王


 俺は廃墟の街アーリマンと、それを逸れる回り道への、Y通りになっている場所で、


 『 HELP ME !! 廃墟の街アーリマンを通りたい!! 』


 と、書き上げて作ったプラカードを足元に置き、

 バベルの塔を目指しているという『イブ』『モリガン』『閻魔女王』を地べたに座って待つ。


 乗って来たアルトは燃料切れでもう走れない。


 向こうからトラックが見えた。

 立ち上がり、プラカードを上下に揺らす。


 凄い速さで運転していた黒のショートヘアの女はチラッとプラカードを見たが…回り道の方へ、走っていく。

 

「まあ… 先頭トップの車は無理か」


 また座り待つ。

 他にすることもない…

 タバコに火を付けた。


 10分後…


 向こうから、これまた凄い速さでバス近づいて来た。 2台?


 またプラカードを掲げ、上下に揺らすが…

 先頭のバスを運転していた剣道面ババア、回り道へ行く、後ろのバスもそれに続く。


「2台に分けて兵隊が乗ってたな、今のがイブのバスか?」


 

 またタバコに火を付ける。 


 10分後…


 黒のミニバンが見えた…

 これも凄い速さで近づいて来る…


 次が閻魔女王か?


 これが最後だ…


 俺は今まで一番激しくプラカードを揺らす!


 しかし…

 残酷にも…

 いや、少し予感もしてたが、

 車の中の白装束の女2人は、俺から目を逸らすように回り道へ行ってしまった…


 終わった…


 凄い速さで通り過ぎた車は、間違いなく『イブ』と『モリガン』と『閻魔女王』。

 その誰かの力を頼り、大都市カーリーを救うという希望は途絶えた…


 ティアマトの町に戻る燃料も無い…


 俺は眼鏡を外し、両手で顔をゴシゴシして、


「しかたない…もう死ぬか…最期はカーリーの街で死のう…」


 眼鏡を再びつけて、歩いてカーリーの街へ、行こうとした時…


 エンジン音が聞こえる…?


 振り返る…


 白いパジェロが近づいて来る。


「まだなんかいた?」


 4度目のプラカードを掲げ!

 今までで一番! 力強く揺らす!

 思いを届けるために!!


「たのむ―――!! 俺を!! カーリーに連れて行ってくれ!!」


 思いが伝わったのか…


 パジェロは速度を弛め… 少し遠くで停めてくれた。


 運転している金髪のベリーショートの女がジ―っと俺を吟味するように見ている。


 俺は女を警戒させない様に、ゆっくりとパジェロに近づく。


 しかし…


 女は… 俺の顔や体型を気に入らなかったのか?

 プラカードを見てか?

 凄くイヤな顏をした後に、

 凄い速さで去っていく…


 そりゃそうか…


 俺の風貌では…


 乗せたくないよな…




 こんな俺を、一回り下の妻は大好きと言ってくれた…

 こんな俺を、カーリーの守り神と思ってくれた…

 結婚もしてくれた…

 たとえ… 色々あったとしても…


「くっくっくそおう……」


 泣きじゃくる…



 1時間経った…


 少し、まだ誰かが通るのではないかと甘い期待もあって待っていたが…


 もうたぶん…


 求めているモノは来ないだろう…


 今度こそ、死ぬためにカーリーに行こう…


 最後の最後3分だけ待って…


 最後のタバコの一本に火をつけ…


 ボ~っと、吸い終わり、


 3分が過ぎる…


 その時…


 黒い車が凄い速さで近づいてきた。


「これがラストチャンスか…」


 新たに少し書き足していた、プラカードを掲げる。


 『 HELP ME !! 廃墟の街アーリマンを通りたい!! ショートカットできる 1時間15分前に通ったイブより先にバベルの塔にいける 』


 

 👤□            🚙===



 極寒地獄を通るためのチェーンの取り付けで、とてつもなく時間を喰ったワタシ達のSMX(クルマ)は全速力で飛ばす。


 前に標識が、


 ⇦『永久立ち入り禁止区域アーリマン』 『アーリマン迂回安全経路』⇨


 その下に…


 なにあれ?


 図体がデカい、ハゲた眼鏡のなかなかブサイオッサンがプラカードを掲げている…


 何を書かれているか、気になったから、速度を弛める…


 ん?


 『 HELP ME !! 廃墟の街アーリマンを通りたい!! ショートカットできる 1時間15分前に通ったイブより先にバベルの塔にいける 』

 

 マジか?

 車を止めた。

 ワタシはよく見ると、眼鏡が割れている作業着のプラカードオッサンを見ながら、セントに、


「アーリマンを通ればバベルの塔に近づく?」


「最短ルート☆ でもダメ☆ アーリマンだけはダメ☆」


「そんなにヤバいの?」


「入れば2度と出て来れない☆ 死の地と呼ばれている☆」


「ならなぜ…あのオッサンは『HELP ME !! 廃墟の街アーリマンを通りたい』と書いている?」


「しらない☆ でも絶対に止めた方がいい☆ 姿は確認されては無いけどアーリマンはとても邪悪な存在☆」


 ワタシは割れた眼鏡の目で、ジッとワタシを見ながらプラカードを掲げているオッサンを見ながら、


「ちょっと聞いて来るわ…」

 

「ユキノ様☆ やめてって☆」

 セントを無視して、車を降りる…


 ゆっくり歩み、プラカードを掲げままのオッサンの前に、


「ワタシは閻魔女王ユキノ」


「あんたが閻魔女王? 俺はセぺト」


 ワタシはもう一度、プラカードの文字を見た後に、背の高いセぺトを見上げ、


「セぺト… 1つだけ聞きたい事があるの」


「なんだ?」


「なぜ… 割れた眼鏡をつけているの?」


「2年前のサイレンの異変の時、妻と子を残し、街から脱出した時に割れた眼鏡だ…俺にとって時間はカーリーの2年前の異変から止まっているからコノ眼鏡をずっとつけている…それと、異変の起きた時から、毎日…悪夢にうなされている…」


「悪夢?」


「ああ… 街が狂ったサイレンの音と、俺を呼ぶアーリマンの声が」


「ユメにアーリマンの声?」


 初めて、セぺトはプラカードを下ろして、デジタルの腕時計を見て、


「2時間後の、14時に…俺が廃墟の街アーリマンの中央にある鉄塔のサイレンを鳴らせば、街は元のカーリーに戻る…そうなれば通過が可能だ…」


 セぺトの顔を見上げる…


 顔がどうこうじゃなく…


 彼の言っている事と…

 そのジッとワタシを見つめてくる割れた眼鏡の目に、なにか一抹の不安を感じるけど…


 イブより先に、バベルの塔に入るには…



「SMXの後ろに乗ってセぺト、ワタシがあんたの言う、鉄塔まで連れて行く」



 セぺトは大きく安堵の息を吐いた後に、


「こんな俺を信じてくれて、ありがとう閻魔女王… 最後に一つだけ約束して欲しいことがある」


「なに?」


「カーリーの街では誰一人殺さないで欲しい約束してくれ。 俺はぜったいに誰も殺させない」


 セぺトの割れた眼鏡の向こうの目を見つめ…


「分かった… カーリーの街の人間は誰も殺さない」


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