78話 廃墟の町アーリマン


 2年前



 俺はセぺト。


 この地獄の大都市カーリーは地獄で唯一の歳をとれ子供を生める街。

 その街には、ある決まりがある。


 1日3回。

 6時、

 14時、

 22時、

 8時間毎に、街の中央に古くからある鉄塔からサイレンを鳴らすというもの。

 自動操作ではダメで、選ばれた血筋の人間が、定められた時間にレバーを下ろす。

 理由はカーリーの街の土地は呪われていて、

 サイレンの音で『アーリマン』と呼ばれる邪悪なモノを封じているらしい。

 その強大な『アーリマン』のチカラで、この地の住民は時間の流れで年を取り、子を産むことができるという。


 俺はそのレバーを下ろす宿命の一族の者で、

 今は鉄塔の2階のレバーの目の前にいる。


 オレは正確なデジタル腕時計を見る。


 05:59:34


 壁にかけられた3つのデジタル時計も同じ時間。



「3・2・1」


 ガシャン!


 ブウウー――――――――――――――――――――!!!


 街中に届くレベルだから、耳栓してても、やかましい音だ…

 頭が割れそうなくらい…


「次は8時間後か…」


 鉄塔から出ると、すぐに俺の家がある。

 入り、妻が用意した朝食を食べる。


 子供が起きてきた。


 愛する我が子、1人息子6歳の『ガイラン』


 レバーを下ろす宿命の一族の血は、俺とガイランのみになっている。


 ガイランは俺を見て、


「おはよう! パパ!」


「おはようガイラン」


 一回り年下の妻が俺に、


「ワタシ今日の昼、美顔教室に行くからね? ガイランを頼みますね?」


「はいはい」


「パパ、あとでキャッチボールしよ!」


「はいはい」


 その日、なんだかんだで、13時45分になった。

 キャッチボールをしてたが、止めて、


「ガイラン、仕事しないとダメだ、キャッチボールはまた後な?」


「サイレンを鳴らすの?」


「ああ」


「僕にレバーを下ろさせて!」


「はは、オレも昔、ガイランぐらいの歳に父にレバーを下ろさせてもらったな」


「いいの?」


「いいよ、来い。 俺とお前の血は街の守り神だ」


「うん!」



 13:59:45



「いいかガイラン? 3・2・1で思いっきりレバーを下ろせ」


 俺に抱きかかえられている耳栓をしたガイアンは、


「うっうん」


 緊張しているな…? ふふ


 俺と息子は声を揃えて、


「3・2・1!」


 息子はレバーをガッチンっと下ろす。



 え?



 鳴らない?



 なにが起こる? それに息子… まさか血が繋がってなかった?


 と思った時、


 チ――――――――――――――――


 今まで聞いたことのない音が… 時が止まるような音…?


 抱いているガイアンの後ろ頭が大きく揺れる。


「ぎざあまあああ!!」


「ガイアン!? どうした!」


 ガチン! 噛みつかれ離す!

 見上げる息子の顔は… 白目で血管があちこち強く浮かび上がっている。 涙目で俺を見上げ、

「イシュラビィィバロウムカァァァ…サイレン…」

 俺は頭が混乱して、急いで部屋から出てドアを閉めると、


 中からカチン… 鍵がかかる。


《 ランララ~~ ビジンニナッタァ~~ 》

 階段の下から妻の鼻歌の声?

 下を見ると、血管の強く浮き出た妻が首でリズムを取っている。

 ゆっくりと上がってきて。


「イシュウラビィィィ…バロウ…ムゥカァァ…」


 俺は構えて警戒していたが…

 俺を素通りして、子の居る部屋のドアを、両手でガンガンと叩きつける。


 ドアが開き、


 妻はコッチに白目の不気味な笑みを向けながら、

 サイレンを鳴らすレバーのある部屋に入って行った。


 妻と子と同じ様な症状の、無数の群れが鉄塔に歩み寄って来だしていた。


 逃げる様に、バイクをまたぎ、

 

 そのバイクで街を走り回る。

 街中の住民全て、狂ったような言動。

 俺はカーリーの大都市を、命からがらで街を出れた。

 俺が唯一、街から出れた者。


 

 1か月後…



 人口400万の、この地獄一の大都市カーリーは立ち入り禁止区域となり、『廃墟の街アーリマン』と呼ばれる様になる。

 街の気が狂った住民は、カーリーの街を出ることはなかった。


 俺はカーリーから、一番近くの町ティアマトで、

 セぺタと名を偽り、ずっと治水の仕事をして暮らしていたが…



 毎日、ユメに…


 ガイアンがレバーを下した時のサイレンの音が鳴る…


 その忌まわしい音の最中に現れる…


 赤い影が…   

 

⦅🔴 🔴⦆

   🔶  { 来いよセぺト… おまえのサイレンを鳴らしに…


 いつも言ってくる。

 

 

 昨日、街の居酒屋のカウンターで飲んでたら、後ろから妖怪同士の話が聞こえた。


「閻魔女王? だれだそれ?」


「空にワイバーンが大量発生したせいで、陸路を車で、その閻魔女王とかいう新米と、イブとモリガンでなんか競争してるらしいぜ、『バベルの塔』を目指してな?」


「マジか? ならキーポイントは『バベルの塔』間近の廃墟の街アーリマンだな? あそこ通れたら『バベルの塔』まで相当ショートカットになるもんな」


「まあ… ビリケツが通るかもしれねえな。 一発逆転を狙うために」


「でもアーリマンを通るの無理じゃないか? アーリマン…入ったら2度と出れないし?」


「そうだな」



 俺は飲んだ分のお金を置き、店を出て、車アルトに乗る。


「極寒地獄… 無事に通れるといいが」



 廃墟の街アーリマンを通る方法はある。


 俺が、あの失われた時間… 14時に鉄塔のサイレンのレバーを下ろすことだ。



 イブ、モリガン、閻魔女王の誰かの力を借りて…





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