22話 イブの鎖蛇(1)


  -- 最上階のデラックススイートの階 --


 黒い鎖のドレスをまとった剃髪のイブ。

 カツンカツンとヒールを鳴らし、自分の部屋の前に立つ。


 ドアは勝手にカチャっ、スーッと開き部屋に入る。


 20人くらい寝れそうな、とても大きな部屋。


 部屋の中心のテーブルへヒールのまま歩き、両手で手に持っていたティファニーのバッグをテーブルの上に置いた。

 イブはその前で膝を落とし座る。

 顔を近づけてバッグの中を覗き込んだ…

 口角が上がり、キラキラとした目は垂れた…


「アダム…」


 バッグの中に手を入れると、


「噛んだ? 怒っているの?」


 黒い鎖のドレスのスカートの中から…

 鎖の先が浮き上がり…

 イブの顔の目の前に来る…


 黒い鎖の先は『蛇』。

 黒い蛇はイブに向かい、口から唾は散らしながら、

「イブの顔を見たくないくらいに! アダムは怒っているんだよ!!」


「アダムが怒ってる?? ワタシにまとわりつく蛇? どうしてか分かる?」


「エレベーターで気づかなかった!? 20歳の女で黒のロングへアー、黒光りするムチにボンデージにニーハイブーツ! アレが閻魔女王ユキノだっての!!」


 イブは呆れた顔で、

「まとわりつく蛇… 見た事も無いのに、? …というか、気づいていたなら? お前が殺ればいいじゃないの?」


「オレは目立ちたくないの! オレはイブの武具でいいの!」


「なら、閻魔女王は14階のどこかに居る。 まとわりつく蛇、さっさと殺してこい」


「おやすいごようで!」


 シュルシュルシュルっとイブの体から離れ、黒い蛇はガチャっと窓に丸い穴を開け消えた。


 外の黒い蛇はいったん動きをピタッと止め、

「もっと鎖を伸ばさないとダメだな… 気合だ――!!」


 グイ―――――――――――――――――――――


 チートスキル『気合』で黒い鎖は伸びる……


 その頃、イブはバッグに、ほおづりを始め、

「怒らないでアダム~♪ ワタシ自ら行ってもいいんだけど♪ すぐにワタシの武具の鎖蛇が閻魔女王を殺してくれるからね~~♪」


 外から14階の幾つかの窓を吟味する鎖の先の黒蛇…どの部屋もカーテンが閉まっており…

「どの部屋だぁぁ? ちっ面倒だな…」


 最上階を見上げ、

「イブ!! アダムのチートスキルを借りるぜ!!」


 イブにまとわりつく、もう一つの鎖の先が動き! ティファニーバッグの中に!

 バッグにほおづりしていたイブは、

「ちっ…レンタルスキルか? ヘビめ…2人の愛を邪魔しよってぇぇ…」



 鎖蛇は超大声で叫ぶ、

「オレはアダム!! 14階の客全員!!! 窓から飛び降りろ!!!」


 すぐに窓が開き、無表情な金持ちそうな人間たちが直立でジャンプして外へ身を投げる。

「反応の無い……あの部屋か!?」


 ビュ―――ン!!

 鎖蛇は窓を突き破る!!

 無人…

 しかし、人がいた形跡はある。

 細い舌を出した後、部屋の中を上下左右に見て、

「逃げた? ちっ」


 鎖蛇は窓の外へ出るとホテルの周りを一望した後、

 ス~~~っと思い切り息を吸って! また超大声で!


「オレはアダム!! 街中の人間共!!! 黒いボンデージに黒いニーハイブーツの女を見つけたら!!! 居たと叫べ!!!」


しかし、無反応…

「ちっ…どこに隠れやがった!!  街中の人間共!! 黒いボンデージを探し続けろ!!!」





 ワタシは、リュウトが急いで逃げろと言ったから、三体鬼ケルベロスと一緒に、中年奴隷の居るホテルの庭園の木陰に来た。

上を見上げ、大声で叫ぶ鎖を見つめながら、物知り赤鬼セントに、

「セント、あの鎖はなによ?? アレが命じたら何人もの人が飛び降りた」


「あの鎖は知らない…だけど☆ 飛び降りたのは間違いなくアダムのチートスキルだよ☆」


「チートスキル?」


「スキル『王様ゲーム』。 アダムはそのスキルを使い、数えきれない人間にバベルの塔を建設させているし、イブの兵にしている。ユキノ様の後輩の卑弥呼メロンレディもたぶん…☆」


「ワタシは人間だけど大丈夫なの?」


「たぶんユキノ様と☆ コレ(中年奴隷)は☆ 閻魔大王から『S』『M』パワーを貰っているから人外扱いなの☆」


「ふ~ん」


 周りが騒がしくなってきた…


「黒いボンデージを探せ!! アダムの命令だ!! 探せ!」

「5000円先払い! 早く払ってよ!!」

「パチであんだけ負けて金あると思うか!? それにテクもヘタクソのくせに!! 探せ!」


 まずいわね… 見つかるのも時間の問題…


 ワタシは四つん這いで眠る中年奴隷の背に足を組み座り、

「zzz( ˘ω˘)スヤァ」


 首輪のリードをグイっと引っ張る。

「ぼっ(^ω^)」


「コレに乗ってホテル最上階にいるラスボスのイブを一気に倒す」


 慌ててケルベロスが、

セント 「イブを!? まじ!☆ ちょっと!☆ まって☆」

ショウ 「凄腕助っ人のオーデイン、ワルキューレが来ないと勝てないって!」

リュウト 「アダムは戦闘系じゃないけど! イブは強すぎるから止めて!」


 ケルベロスを無視して、

「いけ」


「ぼいっす(^ω^)」


 フラフラと離陸。


 ワタシは光る最上階の部屋を見上げながら、

「アダムが戦闘系じゃないなら、エレベーターで見たスキンヘッド女を殺せばいいのね。ワタシと中年奴隷の『S』『M』パワーならきっと倒せる…」


 その時、下からセントが、

「イブはベルゼブブより遥かに強い!☆ お願いやめて!☆」



 え??


 あれより??


 あの女が?

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