第44話ユリアナ

●ユリアナ

「来ますよ!」


 私は叫びました。


 リヒトたちは、はっとしました。私は咄嗟にマサネを庇います。今まで五人で囲んでいた食卓はあっという間に二つに割られていました。


「ユリアナ!」


 私は、叫びます。


 そこにいたのは大柄な女性でした。長い髪の女性は、大きな手でフィーネの顔を掴みます。リヒトは咄嗟に剣を引き抜き、フィーネとユリアナを引き離しました。


「おい、いきなりなんだよ」


 尻もちをついたフィーネをゼタとリヒトがかばいます。


 リヒトの問いかけに、ユリアナは答えました。


「先生、邪魔。先生、殺す」


 ユリアナが私に向かって走ってきます。


 私を庇ったのは、リヒトでした。


「どうして、シナを殺そうとするんだよ」


「邪魔、私たちの弱点を知ってる」


 ユリアナは、私を殺そうとしていました。


 それは、彼女たちの弱点をすべて知っているからです。


「どうして、シナが邪魔なんだよ」


「この安全地帯を暗殺者の養育場にする。そのために、先生が邪魔」


 ユリアナははっきりとそう言いました。


 私はやはりかと思いました。


 この安全地帯はある種の密室です。その密室を、暗殺者を育てるための養育場にするというのです。


「そんなこと……」


 マサネが呟きました。


「そんなこと、絶対にさせない」


 マサネは、ユリアナをにらみつけていました。


「この安全地帯は、そんなことに使わせない」


 マサネは、この安全地帯で生まれました。そして、ずっと安全地帯で過ごしてきました。そのため安全地帯にかける思いは、私たち以上のものがあります。


「この安全地帯は、俺たちのものだ」


 マサネは、そう言いました。


 そうなのかもれません。


 この安全地帯は、マサネのようなこの土地で育ち過ごしているような者たちのものなのかもしれません。


「うるさい」


 ユリアナが、マサネの前に移動します。

 

 私は、マサネの手を掴もうとしました。ですが、マサネはその前にユリアナの手に落ちます。私の手は空しく空を掴み、空しさばかりが募りました。


「マサネ!」


 私は、彼の名前を呼びます。


 けれども、彼はユリアナに連れ去られた後でした。


「マサネ」


私は茫然としていました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る