第40話やるべきこと

●やるべきこと


 マサネが、私が落ち着かせてくれました。


 落ち着いたら、私は自分が何をやるべきかを考えるようにしました。


 不死人の事件に暗殺集団がかかわっていることは、間違いないことです。そして、私自体が狙われる可能性が出てきました。


 この事態を脱するためにやることは、味方を増やすころです。私の頭には、リヒトたちの姿が浮かびました。彼らの協力を要請することが、きっと事態をよくする早道になるでしょう。


 私は、マサネを置いてリヒトたちのところへと行きました。


 リヒトは、近くの飯屋にいました。同じ席にはフィーネとゼタも座っていました。


 飯屋からは美味しそうな匂いが漂ってきました。けれども、マサネが作るものに比べれば空腹はあまり刺激されませんでした。


「シナ、どうしたんだ?」


 リヒトが私に尋ねます。


 私は「おねがいがあります」と切り出しました。


「暗殺者集団を迎え撃つ手伝いをしていただけますか?」


 私の言葉に、リヒトは驚きました。


「暗殺者集団って、なんだよ」


「前回の不死人の事件。その事件は、暗殺者集団がおこなった可能性があります」


 私の言葉に、リヒトたちは顔を見合わせていました。そして、言葉を失います。


「信じていただけないでしょうか?」


 我ながら突拍子のない話だとは思います。ですが、私自身がイチナナに襲われたことで、この考えは確信になっていました。


「信じる。信じるって」


 リヒトは、そう言いました。


 けれども、まだ信じ切れていないようでもありました。


「暗殺者集団が、どうして安全地帯に不死人を放つんだよ」


 私は言葉に詰まりました。


 リヒトのいうとおり、なぜ暗殺集団が安全地帯に不死人を放つのかは説明できなかったからです。


「私にもわかりません」


 リヒトは、私の話に乗ってくれないと思いました。


 ですが、数秒考えたリヒトは私の話に乗ってくれました。


「シナの話を信じるよ」


 その言葉に、私はほっとしました。


「なら、やりたいことがあります。あなたたちに修行をつけたいのです」


 私の言葉に、リヒトたちは眼を点にしていました。


「魔法のことは教えらませんが、それ以外は教えられます。心配しないでください。私は、元教師です」


 ゼタの眉毛が動くのを感じました。


「おまえは、俺たちよりも強いのか?」


「はい。強いと思います」


 その言葉に、ゼタは納得ができないという顔をしていました。そして、同時に私に向かって大きな刃を向けます。私は、その刃を避けました。


「大きな刃は、隙も大きくなります」


 私はその刃の上に乗りって、あたりに糸を張り巡らせます。


 リヒトも剣を取ろうとし、フィーネも魔法を発動させるための構えを取ります。


「動かないことを推奨します」


 私は、そう呟きました。


「フゼン、そこにいますね」


 ナナイチなどとは違い優等生のフゼン。


 気配を殺していた彼が、姿を現しました。


 小さな少年のような姿のフゼン。そのフゼンは、私の糸をかいくぐって私の前にやってきます。


 さすがは優等生のフゼン。


 基本的な糸の術は、かいくぐりますか。


「ならば、これです」


 私は、糸を鎌で絡み取ります。


 糸の動きが、急激に変わりフゼンの動きを絡みつきます。フゼンから血が流れますが、その血に触れることはできません。フゼンは、毒物を食べて育てられた子です。そのため、その体に流れる血が毒になっているのです。


「フゼン、あなたまでどうして私を狙うんですか」


 イチナナとは違って、フゼンは優等生。


 命令無視は考えられません。


 フゼンは、答えませんでした。


「やはり、フゼンは優等生ですね。答えようとはしません」


 敵に情報をもらすなと教えられているのでしょう。


 それは、とても正しいことです。


「ならば、苦痛で――答えてもらいましょう」


 拷問は、得意です。


 フゼンは、自分の血を指に着けました。


 フゼンは力ずくで自らを拘束する糸を切り取ると、血の付いた指で私の首に触れました。


 私の首の皮膚が焦げる匂いがしました。


 フゼンの血の毒です。


「毒の血のフゼン。拷問をする相手としては、厄介なんですよね」


 相手の血をかぶっても危ないので、接近戦もできないですし。


 なにより恐ろしいのは、フゼンが優等生というところです。


 フゼンは私が彼の血を恐れていることを分かると、隠し持っていた武器に自分の血を塗ってむかってきました。


 手数が多い。


 これだから、優等生はやりにくいのです。


「シナ!」


 リヒトが、叫びます。


「助太刀するぜ」


「やめなさい!」


 私は叫びました。


「勝てるような相手ではありませんよ」


 リヒトの動きが止まりました。


 リヒトを捕らえていたのは、私が巻いていた糸でした。その糸で絡み取られたリヒトは、全身に傷を負います。


「……」


 リヒトは、全身にフゼンの血を浴びました。


「リヒト!」


 すぐさまフィーネが治癒の魔法を展開し、リヒトの治療が開始されます。その間に、ゼタがリヒトの前に出て防御の体制を取ります


「……撤退しますよ」


 私は、そう判断しました。


 リヒトたちがいたら、フゼンとの戦いが降りになると判断したのです。


「まだやれる!」


 リヒトは、そう叫びました。


 ですが、その彼を殴って私は気絶させます。フィーネはその行動に驚いていていましたが、ゼタと共に撤退を決心してくれました。


「しんがりは私が」


 リヒトを抱きかかえたゼタが逃げ、そのあとにフィーネが続きます。


 私は、フゼンと向き合います。


 暗殺者らしく、無口なフゼン。


 なんてやりずらい相手なのでしょうか。


 ナナイチの時のように、無駄なおしゃべりで情報を引き出すということもできません。


 私はフゼンとの間に、鎌を掲げます。

 

 そして、フゼンに鎌を振り下ろしました。フゼンは、その鎌を避けて私の首に再び飛びつきます。私の首が再び匂いを上げて、焦げていきます。


 私は、フゼンを蹴り飛ばしました。


 フゼンは、遠くへと飛ばされています。


 その隙に私は逃げました。そして。リヒトたちと合流しました。


「さっきの奴は何なんだ?」


 リヒトは、私に尋ねました。


「暗殺者です……」


 私は、素直に答えました。


 さっきのフゼンが、元教え子であることも話をしました。


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