第37話ヨーシャへの相談

 ●ヨーシャへの相談

 私は、ヨーシャのところまでやってきていました。要件は、マサネをヨーシャのところで引き取ってもらう話が反故になったことを話しにいくためでした。


 ヨーシャは私の話を聞いて、納得できないという顔をしていた。


「お前、それでいいのか?」


 ヨーシャは、私にそう尋ねました。


「マサネがそう望んでいるから仕方がないんです」


 私が、そういうとヨーシャはため息をつきました。


「あのな、子育ては我儘を聞くことじゃないぞ」


「子育てをしているつもりはないのですが」


 マサネはもう十分に大きいのです。私が育てずとも、十分に育っています。


「子育てだろ。子育て」


 ヨーシャは、タバコをいいかと尋ねてきます。私は、頷きました。ヨーシャは旨そうにタバコを吸います。


「親と離れたくはないというのは、我儘だろ」


「だから、私はマサネの親ではないといっているでしょう」


 私は頭を抱えました。


「どうしたんだ?頭痛か」


「昨日、お酒を飲んだんです。二日酔いです」


 私はもともと酒に強くないので、一杯で二日酔いを起こすのです。ヨーシャは苦笑いしながら、タバコをうまそうに吹かします。


「無理してやけ酒なんてするから」


 ヨーシャは、私に水を出してくれました。


 私は、一気にそれを飲み干します。


 生き返った気分でした。


「ともかく、私はマサネと一緒にいます。それは決めたことです」


 私は、ヨーシャに再び決意を話します。


 ヨーシャは「はいはい」と私を煙に巻きます。


「それで、本命の話はなんだ?」


 ヨーシャは、もう一杯水をくれました。


「さっきの話も十分に本命だったんですよ」


 私は、そう言いました。


「……ヨーシャ。暗殺集団が動くかもしれません」


 ヨーシャはかつて、暗殺者であった私を追っていた人間です。暗殺集団が、どんなに非道な存在かを知っていました。


「あの集団が?最近まで大人しかったじゃないか」


「不死人の騒ぎは、暗殺集団が引き起こした可能性があります。不死人の騒ぎでは、多くの死傷者が出ました。ですが、それだけです。一体、暗殺集団がなにを考えているのかがまだ分からない状態です」


 気を付けてください、と私はヨーシャに言いました。


 ヨーシャは、剣を引き抜きました。


 その件はまっすぐ伸びて、私の方に向きます。


「俺に……いいや、俺たちに気をつけろっていうなんて。だいぶえらくなったな、シナ」


 警備隊は、安全地帯の治安維持を目的としています。


 そのために警備隊は手練ればかりを集められていました。


 ヨーシャもそのことを誇りに思っていました。


 だからこそ、私の忠告が気に障ったのでしょう。


「ヨーシャ。私も、あなたたちに手数の全てを見せたわけではないのですよ」



 私は、立ち上がります。


 そして、音もなくヨーシャの背後に忍び寄ります。ヨーシャは私の接近に気が付いていましたが、反応する前に私の手はヨーシャの首に伸びていました。


「ほら、私の方が早いですよ」


 その気になれば、ヨーシャの首を私は締められます。


 ヨーシャは、両手を上げました。


「……負けたよ。暗殺者のシナ」


「その名前は捨てました。けれども、技術はまだまだ生きていますね。これから襲ってくる相手は、私が自分の技術を教えこんだ教え子たちです。気を抜かないでいただきたい」


 私は、ヨーシャのことが気に入っているのです。


 彼に死なれれば、寂しい。


「お前の教え子って、ミサっていう子だけじゃないのかよ」


 ミサのことについては、ヨーシャにも話していました。


 私は首を振ります。


「ミサは、教え子のなかでは一万不出来な子でした。というより、精神が退行しすぎていて殺しには向いていますが、暗殺者にはあまりむいていませんでした。快楽殺人鬼になってしまっていましたし」


「おい、何人いるのかを聞いているんだよ」


 ヨーシャの言葉に、私は顔を背けました。


「覚えてないのか……」


「ちゃんと見てない子も入れれば数えきれないほどです。実戦で使い物になるような子は少なかったと思うのですが」


 私の考えは、甘いのかもしれません。


 ですが、それが私にとっての一類の希望でした。もしも、教え子全員が敵になっていたら、私などかないません。


「確実に敵対しそうな奴の名前を教えてくれ。特徴もだ」


「おそらくはユリアナ、フゼン、イチナナあたりは確実に生き残って敵対してくると思います」


 私は、元教え子の名前を教えました。


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