第36話マサネの家族

●マサネの家族


 無理やりだった、と自分でもわかっている。


 シナと俺は、家族だといった。


 でも、その理論は滅茶苦茶で力ずくだった。


 俺の作ったご飯を食べたから家族だなんて――食事が楽しみだから家族だなんて――理論が滅茶苦茶すぎる。


 それでも、俺はそれにすがっていたかった。だって、俺にはもうシナしか頼れるような大人がいないのだから。

 

「ごめん、シナ」


 シナに捨てられたら、もう次はないかもしれない。もう俺と暮らしてくれる人なんて現れないかもしれない。だから、俺はシナにしがみつきたかったのだ。


「ごめんね、シナ」


 家族という言葉は、俺の我儘が生んだ言葉だ。


 そんな我儘をシナは、受け入れてくれた。


 家族という言葉が、シナにどんな困難を強いるか。俺にもなんとなく分かる。戦えない俺が側にいることは、きっとシナにとっては負担になる。


 それでも、それが分かっていても、俺はシナの側にいたかったのだ。

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