第35話夜の酒
●夜の酒
夜、マサネが眠ったのを確認すると私は秘蔵の酒を取り出しました。そのままで飲むには強すぎる酒を、私は温めたミルクで割ります。
まろやかになった強い酒の味に、私は何とも言えない気分になりました。
その味は、まるで現状を表しているようだと思ったからです。
現状、はっきりいってマサネは危険な状態です。私の唯一の家族であり、私の弱点であるからです。だからこそ、遠ざけるべきでした。ですが、今の私はマサネを遠ざけることができずに近くに置いて満足してしまっています。
それはまるで辛い現実を、甘いミルクで割ったようです。
私は、ため息を一つきました。
酒の味を感じながら、ためしに家に賊が入ったときのことを考えてみます。私は鎌を構えました。
まずは、マサネが台所にいるとします。
私は、その場にはいない。
賊が入り込み、背後からマサネの喉をかっ切ろうとします。私は、ようやく家にたどり着く。玄関から、台所まで大股で歩いても六歩ほどの距離があります。鎌の柄を長く持てば、一歩の節約にはなるでしょうか。
五歩目は踏み込みに使うために、走ってくる勢いを殺さなければなりません。そのため、四歩に使う時間よりも多くを使うことになります。通算すれば、私が帰宅してから十秒。それが、私が攻撃に必要な時間でした。
十秒あれば、十二分に賊はマサネの命を奪えるでしょう。
いえ、ここにいればいつだって賊はマサネの命を奪えるのです。私は常にここにいるわけはないですから、彼の危機にいつだってかけつけられるはずでもありません。それでもシュミレーションをしてしまったのは、酔っていたからなのかもしれません。
私は、鎌をしまいました。
そして、ミルクで割った酒をもう一口飲みます。甘くてほの苦い味に、私はどうしても胸をかき乱されるのです。
いっそのこと、マサネのことを引き取らなければよかったと思いました。
そうすれば、私は彼のことで頭を悩ませずに戦うことだけを意識できたでしょう。ですが、もう私はマサネがいない生活というのが考えられないのです。そのため、マサネがいなければと考えるのは無駄というものなのでしょう。
今の私にはマサネがいる。
だから、マサネを守るように動かなければいけないのです。
だが、どうすればいいのでしょうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます