第34話死後のこと

●死後のこと

「マサネ、ちょっと来てください」


 私は、夕飯を準備していたマサネを呼び寄せました。


 マサネは、不思議そうな顔をして私の側によってきました。


「マサネ、あなたに言っておきたいことがあります」


 そう言うと、私はヨーシャに頼んで一筆書いてもらった書類を差し出します。書類には万が一私が亡くなった場合には、家屋家財をマサネに譲り、後見人にヨーシャがなる旨が書かれてしました。それを読んだマサネは、いぶかしみます。


「こんなのいるかよ」


「いるかもしれないんです」


 私は、深呼吸を一つしました。


「不死人の騒ぎは、誰かが引き起こしたものです。地下のダンジョンに不死人が一人、縛られて置かれていました」


 私の告白に、マサネは眼を丸くします。


 そして、同時に嫌悪するような顔をしました。マサネにとっては、不死人に騒ぎは生まれ故郷を汚されたような行いだったのです。安全地帯は決して治安がいいわけではありません。警備隊はいますが、それだって民間のものであり、公的な治安維持組織はないのです。それでも、マサネにとってはかけがえないない地であることは間違いありません。


「誰が、そんなことをしたんだよ!」


 憤る、マサネ。


 私は、彼の頭をなでました。


「それは分かりません。ただ、私には思い当たる節があります。ミサのことを覚えていますか?」


 ミサの名前を出した途端に、マサネの顔色が変わりました。恐ろしいものを聞いたとばかりに顔色が悪くなります。


「私は、昔はミサと同じ組織に属していました。話ましたね?」


 私たちは暗殺者を育てる一員でした。ミサはそのときの生徒であり、彼女以外にも生徒はいました。


「人を殺すことが、私の仕事だったんです。そして、人の殺し方を教えるのも私の仕事だったんです」


 それは、人に誇れない仕事でした。


 マサネは、頷きます。


「シナは、人を殺すのが嫌になって組織を抜けたのか?」


「そうです」


 私は、頷きました。


「本当は、私は人を殺すのが苦手なんです。武器が鎌なのも、一番苦手なことをカバーできるようにしているだけです」


 首を刈り取ること、そのことが苦手だからこその鎌なのです。


「ですが、私が属していた組織は……私以上に殺しを得意としている者が多いです。そして、彼らが不死人を持ち込んだ可能性があります」


 私の告白に、マサネは言葉を失っていました。


「シナが属してた暗殺者の組織が……どうしてこんなことを」


「分かりません。分かりませんが、もしもその組織が属していれば私に何らかの接触を図ってくるでしょう。これは、もしもの時があったときのお守りのようなものです」


 私が死んだ後に関すること――マサネは、それが書かれた紙を破きました。


「こんな縁起でもないものを用意するなよな。死ななければいいんだろ。死ななければ」


 マサネは、そう言いましたが私は不安で仕方がありませんでした。


「ならば、あなたの身元をしばらくの間だけでもヨーシャに預けてもよろしいでしょうか?」


 私の提案に、マサネは驚きます。


「私の家は、守るには向きません。ヨーシャの家の方が安全です」


「いやだ!」


 マサネは、はっきりと言いました。


 その声が大きかったので、私は少し驚きました。


「シナ、俺の飯を食べたよな」


「美味しくいただきました」


「ずっと食べてたいと思ったよな」


「はい」


 私は、マサネの勢いに押されていました。


「なら、それってもう家族ってことだよな!」


 マサネは、私に確認を取ります。


 私は、彼がいじましくなりました。


 父親を亡くした彼にとって、食事を作っていた私は家族という範疇にはいる存在になっていたのです。そんな彼に、家族ではないとは私は言い出せなくなってました。


「そうです……家族です」


 私は、そう言いました。


 マサネが、にこりと笑います。


「だったら、側を離れない。家族って、そういうもんだよな」


 私は、何も言えなくなってしまいました。

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