第33話ダンジョン内部

●ダンジョンの内部

 男を殺した後。


 私たちは再びダンジョンに潜りました。ダンジョンの内部に、まだ不死人が残っているかもしれないからです。


 ダンジョンには、私とフィーネで入りました。


 リヒトとゼタには安全地帯で、残りの不死人の死体の処分をお願いしていました。


「不死人はどこから発生したんでしょうか?」


 フィーネは、尋ねます。


 その問いかけに、私ははっとしました。


 不死人が自然発生したとすれば、どうしてこのタイミングだったのかの謎が残ります。ですが、不死人が自然発生ではなかったとすれば納得できます。


「誰かが不死人を発生させたのでしょうか?」


 私の中で、そんな疑問が浮かびました。


 そして、ふと私は自分が過去の属していた組織のことを思い出しました。殺し屋の組織がなにか動きを起こそうと不死人の群れを発生させた。そんなバカげたともいえる妄想が、私のなかで膨らみました。


「シナさん、何を考えているんですか」


「いえ……悪い予感がするだけです」


 殺し屋の組織が、何を考えているというのかなんて私には分かりません。そして、できることと言えば自分自身とマサネに危険が迫った時に対処をするだけです。


「……あなたもマサネに殺しのやり方を教えないことを責めますか?」


 私は、フィーネに尋ねました。


 フィーネは首を振ります。


「教えるか教えないかは、弟子ではなくて師が決めることです」


 フィーネは、そう言いました。


「そう言ってもらえると気が楽です。私は、マサネの師ではありませんが」


「そうだったんですか?親しいから、てっきり師と弟子の関係性だと」


「行くところのないマサネを家で預かっているだけです。とってもおいしいごはんも作ってもらっていますけど」


 本当に美味しいんです、と私はフィーネに言っていました。


「シナさんは……たぶん自分のことが嫌いで、マサネさんのことが好きなんですね」


 フィーネの言葉に、私は唖然としました。


 そんなことを考えもしませんでした。


「自分の人生が嫌いだから、マサネに殺しの技術を教えたくなかったんですよね。逆に、マサネの人生が好きだから邪魔もしたくない」


 フィーネの言葉は、私のことを適切に表現しているように思われました。


「ありがとうございます。あなたに言ってもらえなかったら、私は自分の心に気が付けませんでした」


 私が御礼をいうとフィーネは、慌てて顔を前で手を振ります。


「そんな御礼だなんて!あなたのことを見ていれば、誰だって気が付きますよ」


 そう言われて、私は少し恥ずかしくなりました。


誰にでも見てわかる感情を自分だけが分からない、というのは若者のようなことです。私はあいにくと若さとは縁遠い年齢であったので、恥ずかしくなったのです。ですが、フィーネは私の心など知らないような様子で歩いていました。おそらくは、彼女にとってはそのようなことは些末なことなのでしょう。ならば、私も些末なこととして扱おうとして咳ばらいを一つしました。


「不死人はいなさそうですね。よかった。きゃ!」


 先頭を歩くフィーネが悲鳴を漏らします。


 私は慌てて、鎌を構えました。


「どうしましたか!?」


「これ……」


 フィーネは、震えていました。


 そこにあったのは、縛り付けられた不死人でした。まだ生きているらしく、顎を何度も動かしています。ですが、動き出さないように手足を折られ、縛られている姿は「哀れ」の一言でしか言い表せないものでした。


「だれかが、他の土地から不死人を連れてきてここに放置したのでしょう。その不死人に誰かが噛みつかれて……さきほどの惨状を生んだ」


 私は言いながら、誰がこんなことをしたのかと考えました。


 そして、やはり頭にちらつくのは自分が所属していた集団――殺人鬼の集団のことでした。

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