第32話教えない理由

●教えない理由

 不死人が全滅したのを確認すると、私たちはその死体を集めました。本来ならば一人一人埋葬するべきなのでしょうが数が多すぎました。私たちは死体を集めて、それを纏めて火葬することにしました。


「なぁ、シナ」


 リヒトは、不死人の死体を運びながら私に話しかけます。


「どうして、マサネに戦う手段を教えてやらないんだ」


 リヒトの質問に、私は答えました。


「マサネはすでに料理という戦う手段を持っています。だから、私の殺しの技術はいらないと思うんです」


 私は小さく呟きました。


「私、ただでさえ自分の殺しの技術が嫌いなのです」


 リヒトは、どの声を聞き逃しませんでした。


「どうして嫌いなんだよ。生き延びるうえでは殺すことだって必要だったんだろ。安全地帯では珍しいことでもないだろう」


 たしかに、リヒトの言うとおりであります。

 

 安全地帯で殺しの技術は役に立つ確率があります。殺しの技術を持っていれば身を守ることができますし、調達屋になることもできます。けれども、私はそれでもマサネに殺しの技術を教えたくはありませんでした。


「私自身が殺しの技術が嫌いなのです」


 できることならば、私はそれを学びたくはなかった。けれども、当時の私はそれを学ぶしかありませんでした。


「ふーん。俺は、父親から剣を習ったけど……誰かを殺す技術だとは思わなかったけどな」


 リヒトの言葉に、私は「よいお父様ですね」と言っていました。皮肉ではありませんでした。殺すための技術をそうとは思わせずに習わせるのは、個人的にはいい教育だと思っていました。それしか技術をしらないならばの話ですが。


「シナは、父親になにかを習ったの」


「拷問の……拷問の技術だけ」


 私は、そう答えていました。


 人に自慢ができるような技術でもありませんし、その技術で私自身がボロボロになっていました。正確には自分が正気なのかを確かめるためにボロボロになっていました。


 結局のところ、私は有益になるようなものや人に自慢できるようなことを父から学んでいなかったのです。そして、それを自覚しているからこそ、私の代でそれを終わりにしたかったのです。


「そりゃあ……他人には誇れないよな。でもな、俺はシナの父親がどうして、それを教えようとかも分かるような気がするんだ」

 リヒトは、「それしか知らなかったからさ」と言いました。


「俺もフィーネを誘うときに深くは考えるずに、こういうことしか知らないから誘ったみたいなところがあったから」


 私は苦笑いをしました。


 それしかしらない、そんな単純な理由で拷問を教えられたとしたたまったものではないと思ったのです。ですが、よく考えてみればそれが正しいのかもしれません。私も自分の家がやってきた歴史だとか色々と考えましたが、結局のところ私の父もそれしかしらないから私と兄に拷問しか教えられなかったのかもしれません。


「知っているものしか、教えられない……当たり前のことだけど、絶望しますね。それは」


「おい、こっちに不死人はまだ生きてるぞ」


 ゼタは、不死人の首をねじ切ろうとしました。


「待ってください」


 私は、ゼタを止めます。


 普通は不死人になれば、知能は著しくて低下して食べることしか考えられなくなります。しかし、目の前の不死人はゼタから逃げようとしていました。


「知能がある?」


 しかし、不死人の男は足を負傷していても、そちらには見向きもしていません。不死人には痛覚がありませんから、そちらの特徴とは一致します。不死人は頭部を破壊しない限りは生きています。私は、物は試しで男を首だけにしました。首は生きていました。ぱくぱくと口を開けています。


「助けてくれ」


 不死人ははっきりとそう言いました。


「意識があるのですか?」


 驚きでした。


 不死人になったら痛覚などの感覚を失い、食欲意外の本能を捨て去るはずでしたから。


「どうして……」


 私は小さく呟きました。


「どうしてって聞きたいのはこっちだ。どうして、俺は不死人になったのに生きているんだ」


 不死人の男は嘆いていました。


 私には、どうして男がこうなってしまったのかが分かりませんでした。


「分かりません。ただ不死人は、殺すしかないのです」


 私は、鎌を振り上げます。


「死にたくない!」


 男は叫びます。


「見逃してくれ、死ぬのだけは嫌なんだ!」


「こんな惨状をもう引き起こすのは嫌なんです」


 私と男の意見は拮抗していました。


 それでも、私は自分の意見を押し通しました。


 男を殺したのでした。

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