第29話失うもの
●失うもの
ハクが、尻もちをついてしまい。俺は、彼の前に躍り出た。俺が、ハクを守ろうとしたのだ。でも、俺は戦う手段なんて持っていなかった。喧嘩も実はしたことがない。
そんな俺が、ハクを守れるはずなんてない。
予想通りだった。俺は、ハクを守れなかった。
ハクは、俺を庇って噛まれてしまった。
「ハク!」
俺は、叫ぶ。
ハクは懸命に不死人を引きはがして、俺の手を取った。そして、二人でまた逃げた。逃げても、逃げても、不死人たちの数は減らなかった。それどころか、ハクの手もどんどん冷たくなっていく。
それは、普通の人間がどんどんと不死人に近づいていく証のように思われた。
俺は、無力だった。
ハクに対して何かをしなければならないのに、どうすればいいのかも分からなくて。ハクに対して何かを言わなければならないのに、どうすればいいのか分からなくて。
「ハク……どうして」
でてきたのは、彼を励ますような言葉ではなかった。
「どうして、俺なんかを庇ったんだよ」
疑問だった。
ハクは、笑った。
「最初に庇ったのは、お前だろ」
ハクは、そう言った。そういえば、俺は最初にハクを庇おうとした。けれども、そこから庇ったはずのハクに守られてしまった。
「どうして、俺なんかを庇ったんだよ」
ハクは、俺と同じことを尋ねた。
「わ……分からない」
俺は、そう答えた。
「そうだろう。俺にも分からないさ。人が人を庇う理由なんて」
ハクは、そう言った。
そう言って、血を吐いた。
「ハク。ダメだ!!」
俺は、ハクに呼びかける。
「もうすぐ、シナのところにつく。つくから……」
俺は、血を吐くハクを抱きしめた。
ハクは、俺を突き飛ばそうとするがもうそんな力はなかった。やがて、ハクに再び力が宿る。その力は、俺を喰らおうとしている力だった。
ハクが、不死人に変わってしまったのだ。
変わってしまったハクは、俺を喰らおうと口を開く。
「マサネ!」
そのときに、シナの声がした。
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