第26話ダンジョンの地図


●ダンジョンの地図

 私とフィーネが落ちたダンジョンの穴。そのダンジョンの穴を正しい地図に落とし込むために調査隊が組まれることになりました。


 調査隊には私とリヒトたちと、他の人たち四人でいくことになりました。この調査隊は主に地図屋が金で雇った調達屋たちで構成されており、本当に地図の変更点があったかどうかをたしかめるための物でした。普段はこういうことをしないのですが、今回はダンジョンが脆くなっている可能性などを踏まえて編成されました。


 私たちは慎重に北のダンジョンへと向かいました。そして、私たちが落ちたと思しき場所を調査します。ヘビと一緒に落ちた壁や床は少し力を入れるだけで崩れるようになっており、予想通りダンジョン全体が脆くなっているようでした。


「老朽化なのでしょうか……」


 私は一人で呟きます。


 ダンジョンはいつごろ作られたものかは分かりませんが、南は頑丈で崩れたという話は聞いたことがありませんでした。ということは、このダンジョンが脆くなっている問題は北だけのようです。


 もしかしたら、この問題は老朽化が原因ではないかもしれません。


 そう言いながら、私たちは頑丈な壁を探します。探せたらその頑丈な壁に杭を落ち込み、ロープを通します。そのロープを私たちの体に結び付けて、一人一人を穴の中に落としていきます。むろん、少しずつです。バンジージャンプのように飛び降りたりはしません。


「おい、壁の強度持たないぞ!」


 ですが、安全確認の段階でロープを止めていた杭が抜けそうになってしまいました。思ったよりも脆くなっている現象は広がっているようです。


「仕方がありません。歩いていきましょう」


 私は、現場でリーダーのようなことをやっていました。このなかでは一番の年長者ですし、経験も私が一番つんでいます。


 私の判断で、全員が歩きで最下層を目指すことになりました。


 下の階へ歩くたびに、温度はどんどんと冷えていくような気がします。徐々に下に降りているせいで、そのように感じるのでしょうか。


「なにか、違和感がありますね」


 前回の時も感じた違和感です。


 なんであろうと、私は首をかしげました。


 陣形はいつモンスターが来ても対処ができるように組んであります。油断も隙もないはずです。


「そうだ、モンスターの出現率が低すぎるんです」


 私は、足を止めました。


 普段に比べて、あまりにモンスターに出会いません。この間から、この北のダンジョンにいるのは大蛇だけです。


 こんな現象には、前にも覚えがありました。


 ダンジョンのモンスターのバランスが著しく崩れているこの状態。


 それはすなわち、ダンジョン内で一強が決まってしまっている状態。前回倒した大蛇が、その一強だったのでしょうか。いいえ、アレは弱すぎました。一強となるには、あまりにも弱すぎでした。

 

「全員、警戒態勢を!」


 奥から、人影のようなものが見えました。


 その人影は、こちらにどんどんと近づいてきます。


 私たちは、戦闘の準備を整えます。私も鎌を人影に向けました。


「あれは……死人?」


 私は、小さく呟きます。


 遠くに見えたのは、死体のようでした。ただの死体ではありません、小さな歩幅で歩いています。その光景に、ほとんどのものが恐怖しました。


「不死人です……」


 私たちは、一気に飛び出します。


 不死人は、いわばゾンビです。この不死人というモンスターが発生すると、他のモンスターが不死人によって駆逐されます。なぜならば、不死人がすべて食べてしまうからです。そして、不死人が持つ病は生きている人に感染し、不死人を増やすのです。


「全員、噛まれないように注意してください」


 私たちは、全員で不死人に向かっていきました。


 私も鎌で不死人の首を刈り取ろうとします。ですが、私が不死人にたどり着く前に、誰かが不死人の首を刈り取ります。不死人の首がぽーんと飛びました。


 その首が跳んでいった先に他の仲間がおり、首はその仲間に噛みつきました。


「噛まれました。誰か!」


 私は叫ぶと、リヒトが私の後ろから攻撃してきました。


「違う。私が噛まれたんじゃありません」


 現場は混乱してきました。


 その混乱に乗じて、外に逃げ出そうとする仲間もいました。


「待って、このまま外に出ていったら……」


 不死人に噛まれても、すぐには死にません。ですが十分後には死んでしまいます。死んだら蘇って、不死人となるのです。不死人は人口密集地で一度増えてしまうと手が付けられなくなることで有名です。


そのため、不死人と出くわしたら、不死人に噛まれないようにすることがまずは大切です。それができないのならば、確実に不死人を仕留めてからではないと人口密集地に戻らないようにするべきです。そうでなければ――人口密集地で不死人が広まり対処の仕様ができなくなってしまうのです。


 ですが、今回は混乱と恐怖でほとんどの人間が安全地帯を目指しました。私は、恐怖にかられた人々を追いかけますが、彼らが安全地帯へと脱するのを許してしまいました。こうなってしまえば、不死人の病が広まるに任せるしかありません。

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