第21話フィーネの視点

●フィーネの視点


 シナさんというのは、不思議な人だと思います。


 長い髪を縛っていて、年齢不詳の外見。実年齢は私たち……リヒトやゼタよりもずっと年かさです。私フィーネは、そんなシナさんに少しばかり苦手意識を持っていました。ですが、それはあくまで第一印象で抱いた印象です。


 一緒にダンジョンに潜って、彼が見た目よりもずっと面倒見がよくて、どこか茶目っ気さえある人だということが分かりました。彼は、このダンジョンのような人なんだと思います。


ダンジョンと聞くと、人は恐ろしげなイメージを持ちます。


モンスターがいて、暗黒で、弱肉強食の世界。でも、このダンジョンは違います。一部はイメージ通りの箇所もありますが、このダンジョンには安全地帯と呼ばれる人が住める場所があります。


 人が住める温かさを持っている、ダンジョン。


 それがシナさんみたいだな、と思いました。


 そんなシナさんが一緒に住んでいる子がいなくなってしまったと聞きました。シナさんに恩がある私たちは、すぐさまシナさんと一緒に彼を探すことにしました。シナさんが探している子は、十三歳の男の子で――けど十三歳には見えないぐらい大人びている子ということでした。生意気そうで、料理が上手で、少し斜に構えているような子だということでした。


 少なくとも、そんな子はダンジョン内ではありふれているような気がしました。シナさんが言うに、年齢を偽って働いていた経験があるので大人びているとのことでしたが、そういう子はきっとダンジョン内にいっぱいいます。


安全地帯は上より治安が良くありません。だから、年齢をいつわって自分で自分を守る子はいっぱいいます。けれども、そんなありふれた子が、シナさんのなかではありふれたものではない……たった一人の特別な子になったのです。


 それが、私には尊いことのように思えました。


誰かが、誰かが思っている。


そういう当たり前のことがです。


私は、シナさんのためにもその子を探し出そうと思いました。


「きゃ!」


 シナさんと別れた直後に、私は死体を発見しました。刺殺された死体は、たぶん死後数時間は経っていました。私は、マサネ君もこの死体を見たのだろうかと考えました。場所のことを考えるならば、殺人現場を見てしまったと考えてもおかしくはないような気がしました。もしや、殺している最中のことも見てしまったのかもしれません。


 私は、シナさんにそれを伝えました。


 シナさんは、すぐに現場に来て周囲を見渡しました。


 そして、死体に触れます。


「プロの殺し屋の仕業ですね。ですが、あまり手慣れてもない。一撃で殺せるような傷を二か所もつけている」


 シナさんは、そう告げました。


 そして、すぐに立ち上がって前を見据えていました。


「……私の勘がたしかならば、マサネは非常に厄介な状態です。おそらくは、殺し屋の殺しの練習台になっています」


 シナさんの言葉に、私は疑問を反芻しました。


「殺し屋の練習台?」


「はい。この殺し屋は非常に未熟です。一撃で仕留め切れていない」


 シナさんは、そう言いました。


 ですが、私には殺し屋が未熟かどうかなど見極められませんでした。ただ残忍な光景としか、私には思えませんでした。


「ですから、師の元に殺しの練習台を持っていくでしょう。もう一度、秘儀を教わるためにも……」


 シナさんは、言葉を切りました。


 私の方を見ます。


「巻き込んでしまってすみませんが、ここからは私一人で……」


「いいえ。手伝います!」


 人手は多い方がいいに決まっています。


 私は、そう言い切りました。


「……分かりました。でも、恐ろしいものを見せるかもしれません」


 それでもいいでしょうか、とシナさんは言いました。

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