第18話訳の分からない男
●訳の分からない男
俺が思うに、シナというのは訳がわからない男だ。だって、血縁でもない俺を引き取って面倒を見ているのだ。
俺の名は、マサネ。
安全地帯に住んでいる子供。親父は安全地帯の外で働いていたこともあって、そこに返り咲くことをずっと祈っていたけれども祈のりはとうとう届かなかった。借金だらけになった親父は殺されて、死体も見つからなかった。
行くところがなくなった俺を引き取ったのは、シナだ。最初は拷問器具ばっかり集めている変態だと思ったけど、俺との同居が決まったら拷問器具を片付けてくれた。よくわからないところで、よくわからない律義さを見せてくれた。
そんなこんなで、俺はシナと同居している。
シナは俺が作る料理がすごく好きみたいだから、毎日腕を振るって料理を作っている。今日も材料の買い出しに出かけた。安全地帯には、色々な人が集まっている。親父みたいに、上でやっていけなくなった人。
俺みたいな、その子供。
シナみたいに、どうしてここにいるのか話そうとしない人。そんな人々が集まる安全地帯では、色々なものが売っている。
食材もそうだ。
ここでは上からの輸入に頼っている野菜が高くて、下のダンジョン内で取れる肉と魚が安い。だから、俺が作るメニューは自然と肉と魚がメインのものになる。俺は、いつもの場所で少しの野菜を狩った。
シナが取ってくるから、肉と魚は買わなくて大丈夫。
あとはこれを使って料理を作るだけだ。
そんなことを考えて、家に帰ろうとすると可笑しな人影を見つけた。
路地裏に二人の男がいる。一人は、もう一人に寄りかかっているような感じだ。それだけならばおかしな感じはしなかったが、あたりは血の匂いでいっぱいになっていた。魚や肉を解体したときと同じ匂いである。
その匂いを体中に染み付けさせて、立っている男がこちらに向かってくる。寄りかかっていた方は、路上にぱたりと倒れた。
殺人だ、と俺は思った。
正確にはまだ殺人ではないかもしれない。
それでも動かなくなった人間は、俺の目には間違いなく重症に思えた。
自分にできることはなにか、と俺は考える。
答えはすぐに出た。
何もない、である。
俺はシナのように戦う訓練をしていない。戦ったこともない。俺にできることは料理をつくることだけだ。
ならば、逃げなければならないと思った。
殺人犯は、俺を追いかけ始めている。
動け、と俺は固まった足に命令した。その結果つまずきながらも、最初の一歩を歩みだす。その後はひたすらに走るだけだ。
殺人鬼に追われながら、俺は走った。
人通りの多い道へと進むが、それでも殺人鬼はついてくる。
目撃者は許さないと言いたげに。
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