第17話地下
●地下
「シナさん」
フィーネが、私に呼びかけます。
気絶していた私は、起き上がりました。
「よかった。小さな傷は治しておきました。でも……すみません古傷は治せなくて」
しゅんとしていたフィーネに、私は笑いかけます。
少しはだけた私の服からは、私が昔自分でつけた傷跡が見えていました。フィーネはこの傷を見たことを申し訳なく思っているのでしょう。
「大丈夫ですよ。私の方こそ、見苦しいものをお見せしてすみません」
私は乱れた服を正します。
「その傷は修行とかでついたものですか?」
フィーネの言葉に、私は首を振りました。
「自分でつけたものです。昔は、そうしないと自分が正気かどうかも分からなかったんですよ」
なさけないことです、と私は言いました。
「どうして、そんなことを?」
「それよりも、リヒトたちはどうなりましたか?」
フィーネは、首を振ります。どうやら下層に落ちたのは私とフィーネとヘビだけで、偶然にもヘビの体がクッションになり私たちは軽傷で済んだようでした。もしも、ヘビがいなければ私たちは死んでいたでしょう。私たちの代わりに天に召されたヘビに、思わず手を合わせました。
「リヒトたちは落ちなかったみたいです。上に残ったなら声もとどくのかと思ったんですが、返事はない状態です」
私も試しに上に向かって「おーい」と叫びます。
ですが、返事はありません。
灯り玉で照らしてみましたが、随分と落ちたらしく私たちが落ちた個所が見えませんでした。
「どうしましょうか?」
フィーネは不安げでした。
「落ち着いてください。今は、とりあえず持っているものを確認するべきです」
幸いなことに荷物はすぐ近くに落ちていました。
その荷袋の中身を確認します。
「携帯食料は二日分。水も二日分。応急手当ができるキットに氷玉と灯り玉ですね」
とりあえず、二日間さまよっていることはできるだけの荷物はありました。フィーネの方を確認すると、彼女も私と同じぐらいの荷物は持っていました。
「これからどうします」
「そうですね」
フィーネの言葉を聞きながら、私は地図を開きます。
「あっちのほうからまっすぐ落ちたんですから、たぶんここらへんですよね」
私は何も書き込みがされていない地図を指さします。あると話には聞いていましたが、それ以外は情報がない個所でした。
「何が出てくるか、まったくわかりませんね」
私の顔に苦笑いが浮かんでいました。
私たちが落ちたと思われるのは、最下層。
どこに何があるかという情報もほとんどありません。
「とにかく、あるきましょう。リヒトたちも私たちを探してくれると思いますが、見つけてもらえるほど狭い場所だとも思えませんから」
「待ってください」
フィーネは、私のあとについてきました。
「あの、本当に色々とすみません。落ちたことだってリヒトたちが無茶をしなければ……」
「すぎたことはどうしようもありません。今は、合流することだけを考えないと」
私たちは歩き続けます。
「あの……どうして自傷行為なんてしていたんですか」
会話がなくなるのもつらかったのか、フィーネはそんなことを聞いてきます。
私は、観念して答えました。
「自傷行為は、子供の時のものです。痛みで、自分が正気だと分かると信じていたんです。今はもう、やっていないですよ」
「どうしてそんなことを……?」
「子供というのは盲目なんですよ」
言いながら、私はマサネを思い出していました。
父親の良いように搾取されていた少年のことを。多かれ少なかれ子供というのは、そういうところがあるものです。私の場合は、自傷行為をへて正気を確認できるということを信じていたのです。
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