第9話たった一つの秘密
●たった一つの秘密
マサネと同居するにあたって、私はヨーシャに一つだけ捜査のお願いをしました。それはマサネの父親のことでした。正確にいうのならば、マサネの父親の肉のことでした。
誰かに食べられたとか、誰かに調理されたとか、そういうことは一切マサネに伝えないという依頼でした。ヨーシャは私の話を聞いたときに、ちょっとばかり困ったような顔をしました。
「心配しなくとも、今回の事件は報道規制をされるよ。殺された人間を客が食べてたなんて、言えるような話か」
ヨーシャの言葉に、私は自分の胃袋をなでました。
その姿をヨーシャは不気味なものでも見るような目で見ていました。
人を食った人は、さぞかし気持ちが悪かったのでしょう。
私が、人を食ったかどうかまでは分かりませんでしたが。
「父親が殺されて、自分が調理したかもしれなくて、それを他人に食わせたかもしれないというのもなかなか聞かせられない話ですよ」
私は、マサネの心の心配をしていました。
彼が今回受けるショックはかなりのものがあるでしょう。
私は、自分の手首の傷を見つめました。
「マサネを引き取ることにしたんだよな」
ヨーシャは、私に言いました。
私は頷きます。
「引き取ると言っても、彼は一人で働いていた子ですから……少しの間一緒にくらすだけになると思いますよ」
私は、そう言いました。
「それに、彼は『犬に死体』でシェフをしていたといっていました。彼と一緒に住んだら、美味しいご飯が食べられるかもしれないんですよ」
私は、少し興奮していました。
美味しいご飯は、テンションが上がってしまうから困ります。
「あと……独りぼっちにさせるのはかわいそうでした」
私は、そう呟きました。
「では、私は自分の悪趣味の部屋をなんとかしてきます」
「悪趣味の部屋って……あの部屋にマサネを寝かせる気なのかよ」
ヨーシャは、苦笑いをしていました。
ちゃんと片づけますよ、と私は言いました。
いくら私でも、あの部屋が悪趣味なことぐらいは理解しているのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます