第26話 二度あることは三度ある
ミルディオスの宝珠の元になった真なる緋魔石を手に入れた俺たちは、遺跡の外にやっとこさ出ることができた。こちらの手には、アルマに宿りし、神獣を解き放てるアイテムが2つもある。これは安全でもあるし、リスキーなことでもあるというのは理解しているつもりだ。
「ライジーン様、真なる緋魔石って、普通の緋魔石と何か違いがあるんですか?」
俺は答えようかどうか迷っていた。ゲームでの知識は絶対に間違えない。しかし下手に教えてしまって、ストーリーがおかしなことになったら、目を覆うしかなくなるからだ。
「真なる緋魔石は、神が名も知れぬ英雄たちに与えたとされる13個の緋魔石の内の1つだ。残り12個は使われてしまったのか消失している。古代のシャントート帝国はそれを人の力で造りあげようとしていたらしい」
「オルランド様、それは本当ですか⁈ 真なる緋魔石がそんなにあったなんて!」
「ただし、これは俺がさる極秘のルートで手に入れた情報だ。口外はするなよ」
スヴェンは、学者に向いているその知識欲が刺激されたのか、アレコレと呟きながら仮説を立てていた。その横でアルグレインがぼやく。
「ザルカバードの奴より早く真なる緋魔石を、手に入れられたのは良いけどよ。アルマが近くにいるのに、そんな物騒なもの持ってるのはヤバくないか?」
「もっともな意見だな、アルグレイン」
「おっさん、どっか知らないところに捨てて行こうぜ。そうすれば、ザルカバードの奴にも見つけられないじゃねえかよ」
確かに、やってみたい戦略だったが、俺はもう隠しストーリーに入っているから、その必要はない。あとはどのタイミングで来るかだが……。
「ライジーン様、3000年前極光戦争でシャントート帝国が滅んで、その前の5000年前にも白竜戦争で世界は滅びかけていて……なんだか人間って同じことを繰り返すのかなって思うと、悲しくなりますね」
アルマが愁いを帯びた蠱惑的な金眼で、俺を見つめる。それには笑って答えることにした。
「滅びかけても、何度だって立ち上がって、文明を再建してきたんだ。人間もバカじゃない。いつか……いや俺たちの手で、そういうバカなことが起こらないようにすれば良いだけさ」
アルマはそれを聞くとパッと明るい笑顔になった。
「そうですよね、次の時代を切り開く私たちが間違えなければ良いだけですよね」
「俺もライジーンの旦那の意見には賛成だぜえ。アルマのお嬢さんを生贄なんかにゃさせねえぜえ」
「ありがとうございます。ヴェルファイアさん」
森を抜け、ダイスダーグの街に入ろうかという時、そいつらは現れた。
「いつぞやは世話になったな、ライジーン・オルランド!」
ガングレリ要塞で戦った、ザルカバード配下の暗殺者たちが周囲の影からスッと現れた。
「ふっ、我らはザルカバード様の影、もはやいつぞやの石ころなどではやられたりはせぬわ」
『オルランド伯、真なる緋魔石を手に入れたようですね。密かに後を影たちに追跡させておいて良かった。これで我が宿願が叶う。影たちよ、アルマを除いた全員を殺せ!』
俺はそこでふっふっふと笑う。
「何が可笑しいのだ? 我らはザルカバード様によって強化された。もはや以前の我らではない」
「じゃあ、また俺1人で相手をしてやろうか?」
「笑止千万、我らが貴様のような老いぼれに二度と負けるものか!」
影たちは、高速移動をし、さながら分身術のように、残像を残して動き回った。俺はエクスカリバーを投げ捨て、木の棒を装備し、投擲命中率を100%にする。そして残り僅かになった不発弾を投擲。倒れる影の1人。
「な、なに! 強化された俺に投擲などが当たるとは、貴様何をした!」
「流石はかませでもボスなだけはあるな、一撃では倒れないとはな」
「くっ、馬鹿にしやがって! 死に晒……ぐはっ!」
いつかと同じ様なセリフのやり取りをし、2発目の不発弾で倒れる影の1人。呆気にとられる他の影たち。
「よくもよくも、仲間を! 許さ……ぐへっ!」
「何故、強化された我らの回避率がこんなことで、げふっ!」
「畜生! 畜生! 仲間の仇だ! がはっ!」
いつかと同じようなセリフを吐き、倒れていくザルカバードの影たち。本当にあっさりしたものだ。こいつらは、かませ犬4人組とゲーマーから呼ばれている。何度も現れるが、その度に相対的には弱くなっていくからだ。
『影たちよ、強化してやったのにその体たらくはなんだ! 仕方がない暴走状態で戦え!』
ザルカバードの怒声が響き渡る。影たちはゆらりと立ち上がった。赤いオーラの様なものに包まれて、先ほどよりさらに速く動く。
『暴走状態の影たちは3倍の速さで動き回る。これを捉えられる者はいない!』
俺はまた不発弾を投擲で、影たちをあっさりとノックダウンさせる。この影たちは、1度目に戦う時は投擲完全回避、2度目の時は50%回避、3度目の時は回避できないといった具合に残念な敵なのだ。
「二度あることは三度あるっていうだろ? ザルカバード、お前が求めてやまない真なる緋魔石だが、ここで砕かせてもらう」
『そんなことができるわけが無かろう、いつかのミルディオスの宝珠とはわけが違うのだ』
ミルディオスの宝珠は緋魔石の劣化コピー品である。だからムスタディオで、瀕死のヒューゴーに砕かれるという事態が起きた。
「だがな、俺たちはミルディオスの宝剣を持っている」
『なんだと! 失われた1本をお前たちが持っているのか⁈』
「そうだ、伊達や酔狂で隠しストーリーに入ったわけじゃない」
『隠しストーリーとは何だ?』
「……答える義理はない。取り合えずどこから見ているのか知らないが、歯噛みして真なる緋魔石が砕かれるところを見ていろよ」
俺はエルフの里で貰ったミルディオスの宝剣で、真なる緋魔石を砕く。強烈な閃光が走る。溢れる膨大なエネルギーは、空高くへと上がり、消えていった。そしてミルディオスの宝剣も、真なる緋魔石も粉々に砕け散る。
『く……良いでしょう。だが、これで終わりだとは思わないことです。私はどんな手段を使ってもこの世界を浄化する』
言い終えると、ザルカバードの声は聞こえなくなった。
「この為に、ミルディオスの宝剣をずっと持ってたんだな」
アルグレインが感心する。そしてスヴェンが好奇心をまたもそそられたのか、質問をしてくる。
「ミルディオスの宝剣が、真なる緋魔石を砕けるとは知りませんでした」
これは開発者インタビューで聞いた設定だが、ミルディオスの宝剣は元々破魔のダガーと、神々と名も知れぬ英雄たちの時代には、呼ばれていたらしい。その時代に7つあったものが3つにまで消失し、後にミルディオス教会の真祖ミルディオス・レヴァ・ウルフェインの魂を砕く為に使われたとか。
その後、俺と仲間たちは竜の翼亭に戻り、今後の見通しについて、話し合いをした。アルマに宿る滅びの神獣の魂を解き放つことができるのは、残り1本のミルディオスの宝剣だけだ。しかし実はそれだけではない。
「ザルカバードは、新聞によるとここから西のザルバッグに拠点を構え、バストック連邦魔石研究所の副所長になったようだ。何だか怪しい匂いがしないか?」
「シャントート帝国が滅んだ原因と言われている緋魔石……を再び造ろうとしているのかもしれないですね」
「もし同じことをしようとしているならば止めないといけない」
そこで俺は咳をしてから、話を続ける。
「だが、その前に南西の街ティータに寄ろう」
俺には、アルマとのデートイベントが待っているのだ。
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