第25話 食事によるバフとスリップダメージ

 俺たちの前には大きな扉が、開け放たれていた。奥にはボスモンスターらしき影がある。大きさはゴーレムより小さい。だが、威圧感の様なものは相当感じる。流石は序盤の中ボスだ。誰1人欠けることなく、死なずに勝たねばならない。


「アルマ、この間骸骨盗賊団に襲われる前に、宿屋の方から貰ったレシピ通りに、食事は作れるか?」

「はい、スヴェンとアルグレインが、何度も味見をしてくれたから、完璧にマスターしました」

「戦の前は腹ごしらえが重要だ。みんなも食べてくれ」


 アルマはシチューを作り始めた。野菜や肉を切るのも以前に比べて、こなれたものになっている。散々、スヴェンとアルグレインが毒見係になった犠牲の上の尊い産物である。


「アルマのお嬢ちゃん、このシチューはうめえなあ」

「やっとここまで料理が上手くなったかと思うと涙が出るぜ」


 なぜシチューを食べたのか。それはバフを味方にかける目的の為。アルマのシチューのバフの効果は、体力増加、一定時間体力オート回復、魔法防御力3割増しだ。


「よし、それじゃあ中にいる敵と戦うか」

「いつでもいけます」

「やってやるぜ、力がみなぎってきた」


 俺は更にアルマに指示を出した。イフリートを先に召喚しておくようにだ。1つの召喚石は1回の戦闘で1度しか使えない。そして今回のボスモンスターは早めにダメージを与えたいからだ。召喚獣の決め技を立て続けに出し、ごっそり体力を削って短期戦で決めたい。


「分かりました」


 アルマは詠唱を終えるとイフリートを召喚した。それと同時に俺たちは、ボスがいる部屋へ突入する。けたたましいサイレンの音が鳴る。そして現れたのは、機械と女性が融合したようなモンスター。体中に配線や排気口などが付いており、少し錆びた銀色をしている。妖しい美しさを誇るそれは叫んだ。


「我が主ノ霊廟ヲ侵ス者ヨ、死ンデ、後悔セヨ!」


 ボスの名前はエンシェント・ルイン・ガーディアン直訳すると古代遺跡の守護者だ。ガーディアンは、身体の周りを漂っている4つの玉を部屋の4隅に配置する。そして電流が足元を流れ始める。これは魔法のスリップダメージをもたらす。じわじわと体力が削られるのだ。リフレクトバングルがあれば、ダメージは無い。


『フレイムインフェルノ!』


 イフリートの決め技が炸裂し、外装の一部が壊れるガーディアン。


 スリップダメージは倒すまで続く。だから、アルマの料理によるバフで体力オート回復と魔法防御力上昇をさせたのである。しかしそれでもじわりじわりとみんな体力が下がっている。バフが切れたらと思うと怖くてしょうがない。ヴェルファイアも乱れ撃ちが当たらない為、戦力としては期待できない。


『来て、オーディーン』


 アルマがオーディーンを召喚し終えると、ガーディアンの放つ雷属性魔法でダメージを受けたスヴェンを回復させる。雷の印のある召喚石があと1つあるが、敵は雷属性を吸収してしまう。


『グングニール!』


 オーディーンの決め技で美しい機械の顔が半壊する。


 しかし、恐らくだが体力の七割も削れてはいないだろう。俺も残りわずかな不発弾を投げ続ける。スヴェンとアルグレインも必死に攻撃をするが、それでもまだ相手は余力を残しているのだ。


「魔銃が当たらねえなら、接近戦だあ」


 ヴェルファイアがカタナで接近戦を挑む。上手くガーディアンは戦闘エリアの隅に、移動しておりヴェルファイアの攻撃がヒットする。そこで敵の動きが変わった。体力が7割まで削られたので、スリップダメージを解除し、胸に当たる部分が開けて、大きな大砲の様なものがせり出して来る。


「波動砲デ敵ヲ殲滅シマス」


 これを待っていた。ようやく七割体力が削れ、スリップダメージも無くなったのである。あと少しで倒すことができるという確信が芽生えた。


「波動砲発射マデ10秒」


 ガーディアンの胸から生える砲塔にエネルギーが貯まっていく。


「みんなこの戦闘エリアから撤退だ」

「ええ⁈ そんな、ライジーン様は?」

「俺は残ってコイツを始末する」


 アルマは顔から血の気が引いたようだ。他のみんなも戸惑っている。


「波動砲発射マデ5秒」


 俺はみんなを無理矢理戦闘エリアから逃走させた。逃走するとそのバトル中は二度と復帰できない。


「波動砲発射シマス」


 魔力が収束しエネルギーが収束され、放たれる。リフレクトバングルの力でほぼすべてのダメージをカットできたが、1割以下だが物理攻撃のダメージ判定がある。じわじわと体力が削れらるのを、ハイポーションを飲むことで、辛くも耐えきった。


「雷鳴無双斬!」


 エクスカリバーは颶風を纏い、雷のような音が鳴り響く。俺は地面を蹴って跳躍。大上段から全てを断絶する渾身の一撃を、エンシェント・ルイン・ガーディアンに叩きこむ。


「ギギギ……動作不良ガ起キマ……シタ。……機能……停止シマ……」


 頭がぱっかりと真っ二つに割れ、敵は機能を停止した。


 本来であれば、波動砲発射前までで倒しきるのが正解だ。


 しかし発掘隊に直接資金援助し、ストーリーを早めた為、アルマたちのジョブが初級職のままだったので、倒しきれなかった。波動砲の直撃を喰らえば、リフレクトバングルが無い仲間たちは、戦闘不能になってしまう。そこから本当に生き返るかは保証できない。だから逃げてもらったのだ。


 波動砲を撃ち終わったガーディアンは、攻撃を一撃食らわせるだけで倒せる。


 体力がピンチになっていた俺は、ステータスが低すぎてもはや必殺技とも呼べない雷鳴無双斬で、ガーディアンを倒したというわけだ。


「ライジーン様、大丈夫ですか⁈」

「ああ、素直にみんなが逃げてくれたおかげで、助かったよ。……誰も死なせたくないからな」

「おっさん心配させんなよ」

「それよりもあの石像が持っているのは……真なる緋魔石じゃないかな?」


 俺の言葉にラッドが声を上げた。今まで姿形が分からなかった、シャントート帝国最後の皇帝シュヴァリエ・レア・ラスヴァロンの姿だと言い、興奮している。そして妖しく輝く真なる緋魔石を見て、またもや驚く。


「これがミルディオスの宝珠のモデルとなった伝説の魔石……歴史が語らない空白のページ……か」

「約束通り、これを対価に残りの遺跡の部分を、発掘してくれて構わないからな」

「金銀財宝が湧いて出ても、騒ぐなよ?」

「ラッドさん、俺たちはこの世界を救うためこの魔石が必要なんだ。金や名声の為に、動いているわけじゃない」


 ラッドは話のスケールに、やや驚くも、ならばと言った。


「崇高な目的に力添えできたことは、この50年の道のりが無駄ではなかったことの証明じゃ」


 そう言うと、部下がガーディアンを調べているところへ、合流した。


 仲間たちは知らないが、この先因縁の敵との再会が待っている。俺は木の棒をしっかりと握りしめた。

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