第24話 リアルラックが求められる強敵

 シャントート帝国最後の皇帝シュヴァリエ・レア・ラスヴァロンの霊廟は鬱蒼とした森の中に埋もれていた。昔は白亜の霊廟として美しい姿を誇っていたに違いない。日本の古墳が木々に覆われているのと、同じような印象を受ける。


「これがシャントート帝国最後の皇帝の霊廟か……興味深いですね」

「おっ、若いのに、それが分かるか。坊主見どころがあるな」


 ラッドがスヴェンの学者肌なところに、気が付いたようである。今後ジョブを考えて、スヴェンを聖騎士にしたいところだが、迷ってしまう。学者は回復魔法もある程度は使いこなせるバフ、デバフをかける支援職なのだ。


「僕は将来、学者になりたいんです。だから後学の為に、遺跡調査が見られるなんて、果報者だと思います」

「良い心がけじゃ、今はやれ飛空艇じゃ、魔石炉じゃと新しいものばかりに目が眩む者ばかりじゃからのう」

「過去を知ることは未来を照らす鍵。先人たちの築いたものを、ないがしろにしてはならないって、僕は思います」


 ラッドは、スヴェンを気に入ったようで、まるで孫と祖父のように見える。微笑ましいことだ。


「ライジーンさん、霊廟の中は恐らくモンスターが跋扈しているはずじゃ。発掘が終わるまで、護衛よろしくお願いしますぞ」

「任せてください。エルフの里の遺跡でも経験がありますから、安心してください」


 霊廟の上に立つと、ラッドたち3人は縦穴を作り、そこからロープで遺跡内に下りていく。まるで、クモの様にスルスルと。俺たちも後に続いた。前に、エルフの里でもらった炎の魔法が施された魔石を全員に持たせ、光源とする。


「打ち合わせの時はそんな珍品持っているのかと怪しんだがのう。まさかこんなに便利じゃとは」

「エルフの秘伝で作られているようです。里と取引している人間は限られているようですから、初耳なのも仕方ないですよ」

「我が国もザルバッグの研究所で昔の魔石を人造しようと、研究はしているらしいが、庶民に役立つこのようなものを研究してほしいものじゃ」


 ぼやくラッドだがデカイ隔壁を持ってきた火薬で、爆破して、通路を作った。手慣れたものである。打ち合わせの時に聞いた話では、この道50年であるらしい。


「ジャイアントバッドの群れじゃ! ライジーンさん頼みましたぞ!」

「任せてください。みんな、ラッドさんたちを守りながら戦うんだ」

「任せろよお、乱れ撃ち! あれ、暗くて命中率が……」

「燃え滾れ、サウザンドファイアボール!」


 今回の遺跡探索ではヴェルファイアは、あまり役に立たない。ヴェルファイアの攻撃は投擲と同じ、明るさで命中率が変わる。投擲なら、木の棒を装備することで、命中率を無理矢理上げるバグがあるが、ヴェルファイアにはそれがない。乱れ撃ちで1匹モンスターが倒せれば良い方である。


『キィィィィン!』


 ジャイアントバッドの怪音波の攻撃がアルグレインに当たる。俺は万能薬を持って、それを見届ける。どうやら混乱状態にはならなかったようだ。怪音波は、一定確率で当たった敵を、混乱状態にする。混乱状態になると周りの敵味方関係なく攻撃をし始めるのだ。


「うっせえな、コウモリの化け物!」


 アルグレインは火炎突きで敵を倒していく。ワクチンビートルに出遇えたのはやはりラッキーだったようだ。


「これは何でしょう? 何かを取り付ける台座? 古代文字が彫られています」


 何かをはめる台座のようなものが見つかった。古代の神聖文字……英語で「試練に打ち勝ち、暁の宝珠をはめよ」と書いてあるのが分かる。


「わしは神聖文字を読める。見せてくれスヴェン君」


 ラッドは時間をじっくりとかけて、神聖文字えいごを読み解いた。


「汝、我が試練に打ち勝つべし、さすれば暁の光を手に入れるだろう、じゃと」

「じゃあ、その試練を受けに行こうぜ」


 俺たちはロープでさらに下の部屋へと降りた。すると地響きと共に、巨大な機械人形、エルダーゴーレムが姿を現した。胸には暁の宝珠らしきものを宿している。他にもゴーレムが多数現れた。


「すげえ数! ライジーンのおっさん、ヴェルファイアの親分が役に立たないから、気合を入れて発掘隊を守ろうぜ」

「ライジーン様、私たちは他のゴーレムを相手にします。エルダーゴーレムはお任せしても良いですか?」


 アルマの、「はい」や「いいえ」を選ぶことすら許さない発言。俺はエルダーゴーレムという【ライジーン一人旅】序盤の最悪の敵を、相手にすることになった。エルダーゴーレムには、投擲のダメージが数ダメージしか入らない。ライジーンの序盤から中盤にかけての必殺の不発弾投擲が、意味をなさなくなるのだ。


「雑魚は任せろよ、ライジーンのおっさん」


 雑魚は俺が倒すから、エルダーゴーレムの相手をしてくれと叫びたいが、無策ではない。だが、これは賭けだ。不発弾と幸運値を上げる英雄の勲章を使うのがセオリーだが、もはやリアルラックを頼みにするしかない。


「頼んだぞ、運命の神様!」


 エルダーゴーレムは足がとんでもなく遅い代わりに、発掘隊まで近づかれるとホーミングレーザー一斉発射という必殺技で問答無用で、プレイヤーをゲームオーバーにするのだ。投擲がそれまでできる回数は50回。その間に俺は当たりくじを引かねばならない。


「いけ! 不発弾!」


 少しずつ近づいてくるエルダーゴーレム。投げる回数は5回、10回、15回と増えていく。死の一文字が頭を駆け巡りながらも、必死に不発弾を投げていく。


「あと20回か! 頼む!」


 残り攻撃回数は、あと15回、10回、5回。そして残り3回目になったところで、不発弾は大爆発を起こした。やった、勝った。勝利の女神さまは俺に微笑んでくれたぜ。


「危なかったですね、ライジーン様」

「ああ、だが、目的のものは手に入ったぞ」


 俺の手には黄金色に輝く宝珠が握られている。


 この為に……エルダーゴーレムを倒す為に、所持金が許す限り、ガラクタ屋のジョニーから不発弾を買ったのだ。エルダーゴーレムは、雷鳴無双斬バグでも、即死無効なので、倒せない。今までの敵は、ついていたのは即死耐性程度までなので、チャンスはあった。


 不発弾はかなりの低確率で、敵をボス雑魚関係なく一撃死させる効果を持っている。これにはステータスの幸運の数値が関わってくるのだが、幸運値を上げる初期装備である英雄の勲章は、煙突掃除の子供たちに渡してしまった。だからリアルラックに頼り、生き延びたのである。今までで1番ヒヤヒヤした。


「ライジーン様、台座のところに戻りましょう?」

「ああ、そうしよう。それにしても難敵だったな」


 これで残りの不発弾の所持数は五十を下回った。今後は戦略的に使わなければならない。劣化品になるが手榴弾というアイテムもあるにはあるが、これは投擲ダメージがガクンと落ちる代わりに、爆発しやすく固定ダメージを与えるというものだ。あまり買っても意味がない。


 ロープを上がって暁の宝珠をはめる台座に戻ってきた。俺はみんなが固唾を飲む中、宝珠を台座にしっかりとはめ込んだ。すると、遺跡自体が振動しだし、建物の形が変わっていく。俺たちがいる台座のある場所は地下深くへと沈んでいった。


「いよいよ、序盤の中ボスとの戦いか……」


 俺はなんとはなしに呟いていた。

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