第23話 遺跡発掘費用の為にハイポーションを売れ!

 バストック連邦東の街ダイスダーグ、ここに古代の大帝国シャントートの遺跡の発掘隊がある。しかし有力なパトロンがいない為、満足な調査どころか給料を確保することすら難しくなっているのだ。


「遺跡の調査隊? その事務所ならここじゃが?」


 初老の男性が声を上げる。まあどこをどう見ても騎士にしか見えない俺の姿を見て、困惑するのは分かる。場違いすぎるよな。


「どこのお偉い騎士殿かは存じ上げませんが、冷やかしなら結構ですぞ」


 初老の男性はそう言うと、事務所のドアをバタンと勢いよく閉めた。だが俺は食い下がる。ここでは、それがベストな選択肢だからだ。もう一度ドアをドンドンと叩く。初老の男性は心底迷惑そうに、こちらを見上げてくる。


「場末の発掘隊に一体何の用ですか? 資金援助してくれるわけでもなさそうじゃし」

「ここに30万ディアスある。これでシャントート帝国最後の皇帝シュヴァリエ・レア・ラスヴァロンの霊廟の調査を行ってくれないか?」

「な、なんじゃと! その言葉取り消したりはするなよ!」

「おい、アリシア、ラヴィアン! 大仕事じゃぞ!」


 事務所の奥から、調査隊のユニフォームを着た女性と男性が現れた。眠たそうである。


「ラッド隊長、またありもしない発掘作業の記事を書くんですか?」

「もう、やめましょうよ。学会にバレたら、俺たちみたいな木っ端発掘隊消し飛ばされますよ」

「パトロンが現れたのじゃ! ここにいる、えーと名前は?」

「できれば匿名でお願いしたいが、ライジーン・オルランドだ」


 ハッとした表情になった3人は顔を合わせ、抱き着き飛び跳ねた。


「やったわ! 運が舞い込んできたみたい」

「俺たちにも名を上げるチャンスが来たんだ」


 そして俺はハイポーションを半分売り払ったお金の内わずかな分を支払った。今の所持金は1億ディアスだ。本来なら、あるイベントで貴族の令嬢とお近づきになり、支援を取り付けるのだが、俺は最速の方法を選ぶことにした。


「で、発掘の開始はいつから始められる? 急いで欲しいんだが……」

「政府の許可が下りるまで3日はかかるな。そうすれば、すぐにでも南の霊廟を探索できる」

「分かった。護衛として、俺たちのパーティーもついて行くから安心してくれ」

「先の百年戦争の三英雄の1人がいれば、心強い」


 事務所を出ると、泊っている宿屋に帰り、霊廟の調査が無事行われそうだと、みんなに報告した。スヴェンが好奇心を刺激されたのか、楽しそうに語る。


「3000年前、シャントート帝国最後の皇帝シュヴァリエ・レア・ラスヴァロンは、遥かに西の今は名前もわからない国と対峙する為に、緋魔石という特別な魔石を造り出そうとしたらしいです。その後戦いが始まり、原因は分かりませんが、大半の都市は消え去ったそうです」

「その最後の戦いが、いわゆる極光戦争と呼ばれているわけか……」

「その通りです。僕は緋魔石が原因じゃないかなと思っているんですが……」


 アルグレインが、まあ真実は闇の中だよなともっともらしそうなことを言う。だが、同意見だ。攻略本の設定資料集には、大して書いていなかったし、開発者インタビューの動画でようやく設定が分かったくらいなのである。まあさしてストーリーには影響しないが……。


「うっし、発掘隊が政府の許可を貰うまでの間、冒険者ギルドで手配モンスターを狩ることにしよう」


 そういうわけで冒険者ギルドにやって来た。受付嬢にこの辺の手配モンスターを聞くと、郊外の森の中にいるジャイアントボアつまりデカいイノシシを狩るように依頼が出ているという。依頼を受け、ダイスダーグの街の外にいったん出る。


「デカいイノシシくらい、簡単に狩れると思うんだけどなー」

「アルグレイン、ライジーン様のおかげで強くなったんだから。一般の冒険者の人には、荷が重いのよ」

「そうですよ、アルグレイン。僕らは今は戦力になっていますが、最初は足手まといだったんですから。最初に会った時のデーモンとの戦いを忘れたのですか?」


 アルグレインは、分かったよと膨れっ面になった。


 ジャイアントボアを楽々と倒し、アルマたちのレベルアップをする為、郊外の森でモンスターを倒すこと2日、ワクチンビートルが現れた。現れたらラッキーくらいに思っていたのだが、まさか現れるとは。


「全員、ワクチンビートルの攻撃を一度受けた後倒すように!」


 ワクチンビートルの攻撃を受けると、数回だけだが、状態異常回復の隠し能力が付与される。俺は死ぬ可能性が高いので、その恩恵にあずかれないのだが……。


 その後、宿に戻って夕食を食べていた。


「で、ライジーンの旦那、緋魔石とやらはその何とかっていう皇帝の霊廟に、あるので間違いないのかあ?」

「まあ、行ってみないと分からないけどな……ザルカバードの動きが分からないのも気になるし……」


 そこで急に宿の中に中年の男性が、駆け込んできた。興奮し、汗をかいている。


「ウィンドレス王国の極天騎士団の長、ザルカバード・デュナミス伯が我らが連邦に寝返ったそうだ! それも極天騎士団ごと!」

「ウソ! じゃあザルカバードは、私たちを潰すのが簡単に出来ちゃうってことじゃない!」

「いや、まだこちらの動きには気付いていないはずだ。前々から寝返るつもりだったんだろう」

「それにしても、おっさんの極天騎士団だったんだろ。なんだか俺は悔しいな」


 ライジーンが仲間になるときの回想では、ライジーンが政敵ウルガラン公に負け、謀反の疑いで、極天騎士団の団長を解任されるとすぐにザルカバードが団長になった。ザルカバードの後ろにいる人物の力の大きさがよく分かる。


「極天騎士団はウィンドレス王国の牙と呼ばれるほどの精鋭。これから一波乱あるかもしれないと覚悟するべきですね」

「バストック連邦は、ただでさえ百年戦争の末期に、ウィンドレス王国とサンドール共和国に武具や魔石を売り、国力が上がっているからな。よく思わない政治家や軍人は各国にいるだろうな」


 そして3日後、俺たちの泊まっている竜の翼亭に、発掘隊のリーダーであるラッドが姿を現した。部下の2人も一緒である。


「指示通り、パトロンは匿名にしておいたぞ。霊廟の管理局の役人はしつこかったがのう。まあ、貰った金の一部を握らせて黙らせたがな」

「さすがだな、バストックの遺跡荒らしの名は伊達じゃないということか」

「え? 何ですか、それ? 隊長の昔の異名ですか?」

「アリシア、ラヴィアン! 早速発掘の準備じゃ。ライジーンさん、昼頃に霊廟の調査ができると思うぞ」


 スヴェンが好奇心を刺激され、ワクワクしているのが分かる。ラッドの異名を聞いた時、メガネがきらりと光ったような気さえした。俺は最終的な打ち合わせの為、ラッドたちの事務所へと同行する。


「それにしても、あの極天騎士団が寝返ったという話は聞いたか?」

「ああ、俺が長年育てた騎士団が、良いように利用されて、気持ちは良くないな」


 ……ともっともらしいことを言う。実際、俺もゲームをプレイしていて性格は、アルマに浄化されるまでは、腹黒いライジーンだったが、不憫には思ったほどだ。


「これからまた百年戦争の時の様な動乱がまた起きないと良いがのう……」


 それについては、今後の俺の采配次第だろう。アルマたち仲間や俺自身の命も大事だが、この世界の住人も大切にしなくてはと、煙突掃除の兄弟から学ばせてもらった。エルフの里オヴェリアのリヴェルカ王が俺を「この世界の行く末を左右する者」と表現した言葉も、ストーリー攻略だけを指しているのか、疑問が湧いている。


 最善を尽くそう。俺はそう固く誓うのであった。

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