第27話 デートも全力で……
ザルカバードのいるザルバッグから南の街ティータ、ここで今俺はあのアルマと……中学生時代惚れていた二次元嫁とリアルでデートしている。アルマは紫紺の賢者のロープもオルフェウスの杖も装備せず、街娘の様な可憐なすがたをしている。
「ライジーン様、この前言ってたデートしましょう」
「おお、楽しみにしてたんだ」
「お世辞でも、私は嬉しいです」
「お、お世辞では……」
言葉に詰まる俺の肘に腕を絡ませて、いきましょうと言って俺をぐいぐいと引っ張って街に繰り出した。
「では、最初はどこに行きたいですか?」
「服でも買い物に行こうか……アルマは普段着はその一着くらいだろ?」
「わーい、欲しい服があったら、おねだりしちゃうかも」
アルマは見る者を魅了する黄金の瞳を上目遣いで、こちらを見つめてきた。心拍数も1桁上がったような気がするくらいドキリとする。艶めかしい雰囲気さえ纏っている気がする。アルマは生娘のはずだが……。末恐ろしい娘だ。
「ライジーン様、花の都ティータって美しい街ですね」
ティータの街は、川をを挟んで南北に分かれている。昔は有力な貴族の地元だったらしく、圧倒される大聖堂や時計塔などが作られていて、アルマとの話題は尽きなかった。
「おっ、ドレスが売っているな。アルマに似合うドレスがあるかもしれないぞ?」
「わーカジュアルなものからパーティ用まで色々ありますね」
「せっかくだから、一着買ってやるよ。冒険の合間だけでも、おしゃれくらいしたいだろう?」
「ありがとうございます。ライジーン様、大好き」
う! 胸が張り裂けそうだ! 40代独身貴族とはいえ、恋愛をしなかったわけじゃない。大好き、くらいの一言くらい聞き飽きる程言われてきた。しかし、今目の前に立っている少女は、殺人蜂並みの殺傷力で俺をメロメロにさせる。
「黒色のとクリーム色、どっちが似合うと思いますか?」
「どっちも買ってやるよ」
「そういうわけにはいきません。それに……ライジーン様に選んで欲しいんです」
この意味、分かりますか? と尋ねるように、アルマは真っすぐ俺の目を見つめてくる。柔らかな雰囲気のアルマにはクリーム色も似合いそうだし、黒も金眼金髪とのコントラストが映えて、素晴らしいと思う。
「暗い色のローブをいつも着ているんだから、明るいクリーム色のカジュアルドレスが良いんじゃないか?」
「正解! ライジーン様と同じこと考えていました。でも不正解でも、選んでもらった服はずっと大事にしますけどね」
服を街娘から、少し背伸びをしたレディーに変えたアルマは、大聖堂を見てみたいと言った。断る理由もないので、そちらに向かう。今までは買い物客の多い街の北側にいたが、大聖堂は南側にある。橋を渡らなければならない。
「橋に鍵がいっぱいついている。何なんでしょうね、これ?」
「娘さんにお父さん、そいつが何か教えてあげるから、占いでもどうだい?」
「お父さんじゃありません、私のデートの相手です」
占い師のしわくちゃのヨーダの様なババアは、そうかいと言って水晶玉を見始めた。
「お嬢ちゃん、あんた近いうちに離れ離れになっていた肉親に会えるよ」
「ほんと! じゃあ旅のことも占って!」
「20ディアスになるよ。はい、ありがとう」
ババアは水晶玉に魔力を込めているようである。一応そう言うことにしておいた。
「新しい出会いがあるようだね。あんたと同じ運命の星に見染められた者だね」
「そっか、お婆さん。最初の質問だけど橋に鍵を付けるのはなんで?」
「ここはウィンドレス王国の英雄王ヴァナルーラ・レヴァナンテが後の第1王妃となる女性テト・アーシェ・フォンリーゼと出会った場所なんだよ」
「英雄王って百年戦争の始めの半分の時代、サンドール王国を退け続けたっていう人?」
「そうさね、2人は末永く愛を育んだから、それにあやかってウィンドレス王家の旗を連想させる鍵をつけてるのさ」
それを聞いたアルマは、俺に鍵を1つ買わせた。そして何かを口ずさみながら橋の欄干に鍵を付けた。
「ようやく大聖堂だな、宗教画が素晴らしい出来だな。日本じゃ見れないよな、こんなの」
「ライジーン様、ニホンって前に言ってた果てしなく遠い国ですか?」
「ああ、そこじゃこんな豪奢な大聖堂見ることはできないよ」
「でも、いつか行ってみたいな、ニホンって国」
話をしていると聖歌隊が神聖歌を歌い始めた。まだボーイソプラノが出せる男の子と女の子が混じって楽しそうに歌っている。アルマの方を見ると、横顔はもはや黄金律を体現したかのようで、見とれてしまう。こちらが見ているのに気が付くと、楽しいですねと微笑んできた。
日が傾いてきたので、時計塔の展望台に昇り、夕焼けに暮れるティータの街を見ることにした。花の街に夜がもうすぐやって来る。まだ肌寒い季節だ。俺はアルマに外套を着せた。
そして最後にレストランで食事をとることにした。何でもこの街では石焼ガマのピザを名物にしているらしい。シェフがピザの生地を曲芸のように空中で大きく広げる。そしてそこに色とりどりの野菜を乗せて、チーズをたっぷりとかけ、石焼ガマに入れた。その間俺はヘブンズドロップというこの世界の名酒を、アルマはミックスジュースを頼んだ。
「私がデートしましょうって言ったのに、ライジーン様にばかりお金を使わせてしまってごめんなさい」
「アルマ……そういう時は……ありがとうの一言で十分なんだよ」
「ライジーン様、ありがとう……」
俺はヘブンズドロップを煽った。味はシングルモルトウィスキーに似た味わいである、文句のない美酒だ。日本に持って帰れたら一財が築ける気さえする。
アルマは柔らかそうな薄桃色の唇でジュースを飲んでいる。自然と目がそれを追う。
「ライジーン様、ピザが来ましたよ。良い匂い」
「美味そうだな、取り分けてやるから座っていろ」
「はーい」
アルマは時に年相応な子供の様に、時に艶めかしい大人のように、今日1日中俺を惹きつけてやまなかった。全く将来が楽しみな娘である。俺はこの世界で成長したアルマを見ることができるだろうか?
「アルマ、口元にソースが付いている、とってやろう」
「うーん、くすぐったい」
「我慢しろよ」
俺たちはレストランを出ると、アノール川の畔を二人で歩いた。川には祭りか何かなのか、灯篭流しのように蝋燭を船の上に並べて流しており、幻想的である。そこでしばらく歩いていると、アルマが俺に背中同士くっつくように、寄りかかってきた。
「ライジーン様、来年もまた一緒にいれますよね?」
「……分からない」
「いれるって嘘で良いから答えてください。もう一度言いますよ。ライジーン様、来年もまた一緒にいれますよね?」
「ああ、勿論だ」
「ライジーン様のバカ……でも優しいところは大好きです」
俺は不意に空を見上げた。星が降っている。
「アルマ、流星群だ。願い事叶え放題だぞ」
「え……と、ネコが飼いたいでしょ、あとアグリアスの街の名物のクリームチョコレートをいっぱい食べたいでしょ……それから、来年も今の仲間のみんなが元気でいますように……」
「終わったな」
「終わっちゃいましたね」
「帰ろう」
「そうですね。ライジーン様?」
「どうした?」
「私今日のことずっと覚えています。しわくちゃなお婆さんになってもずっとずーっと」
帰り道、アルマがプレゼントをくれた。中を開くと猫妖精ケットシーのお守りが目に映る。少し高かったんですよとウィンクされた。また心拍数が跳ね上がる。
こうして俺とアルマのデートは終わった。
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