第28話 初めてのジョブチェンジ
アルマに貰ったケットシーのお守りを見て、俺はニヤニヤと笑みを浮かべていた。まるで初めてヴァレンタインデーにチョコを、貰った男子中学生の気分だ。まあ、俺の装備している初期装備の緋色のマントの上位互換なので、二重の意味で嬉しいのもあるのだが……。
「ライジーンのおっさん、顔がにやけているぞ」
「うっさいわ、お前だってプレゼント貰ったら、嬉しいだろうが」
「そりゃそうだけどよ、おっさんは、もういい歳してるじゃないか」
いい歳か、確かにその通りだ。俺は40歳。前いた世界では、兄貴たちから早く結婚しろとうるさく言われていた。この世界ではどうなるのだろうか? ライジーンは、故郷のウィンドレス王国では、謀反を起こそうとしてバレて、逃げ出した犯罪者という扱いだ。とてもじゃないが、婚期などと悠長なことは言ってられない。
「ライジーン様、ティータの街で何かすることでもあるのですか?」
「ジョブチェンジだ。そろそろ上級ジョブに就いても良い頃合いだろう」
「やったぜ、俺ニンジャとかになってみたい」
アルグレインは残念ながらニンジャのジョブ適正は低い。諦めろ、アルグレイン。
「どこでジョブチェンジするんですか?」
「神殿だよ、神に仕える神官に祝福を受けることで、ジョブチェンジができるんだ」
ちなみに今のメンバーのジョブは、スヴェン、アルグレインが騎士。アルマが魔導士、ヴェルファイアは専用ジョブ魔銃使いだ。ジョブレベルは最大100レベルまで上がる。ある程度極めると、他のジョブに就いても、前のアビリティを覚えたままでいられるのだ。
「僕は学者が良いな。聖騎士とかも捨てがたいけれど……」
「そうだな、学者は器用に何でもこなせる支援職だからな」
俺が悩んでいるのはそこだった。スヴェンが前衛役でなければ、迷うことなく学者にする。だが、アルグレイン1人に前衛を任せることはできない。素直にレベリングでもするか……。幸いジョブレベルは戦闘が終わった後平等にジョブポイントが振り分けられる。ヴェルファイアの乱れ撃ちでモンスターを狩れば、ある程度まで鍛えたアビリティが獲得できるだろう。
「おお、冒険者の一同よ、ジョブを変えることを願うのかな。さすれば、神に祈りなさい。望んだジョブに就かれることを祈りましょう」
俺は、アルマを賢者に、スヴェンを学者に、アルグレインをニンジャにジョブチェンジさせた。レベルは変わらないので、ステータスが多少変わるものの大きく弱くなるようなことは無い。
神殿から出ると、ティータの街の外れにあるダンジョンに潜った。勿論ジョブレベルを上げる為である。
「叡智の風!」
足が速くなるバフをスヴェンがかける。そしてアルグレインはというと……。
「手裏剣!」
投擲武器無しで、ある程度の攻撃力を持った遠距離攻撃を放っている。
「煌めくは白霜の刃、凍てつく閃光となりて、我が敵を切り倒せ、アイシクルエッジ!」
アルマが唱えると、真っ白い氷の刃が、ポイズンラッドのことをバラバラに切り裂く。詠唱も大分速くなっている。やはり賢者にしたのは正解だったようだ。聖女と悩んだが、攻撃手段が限られてくる聖女よりも賢者の方が扱いやすい。
どうせならダンジョンの奥にまで潜りたいところだが、お守り役のヴェルファイアの乱れ撃ちが当たらなくなる。だからまだ明るい浅い階層でレベリングをしていた。
「オレ、手裏剣術をマスターしたみたいだぜ」
「僕も、叡智の風をマスターしました」
「私、高速詠唱をマスターできました」
最低限、必要な技を覚えたスヴェンとアルグレインを、聖騎士とサムライへとジョブチェンジさせた。聖騎士は防御魔法を使える盾役になれるジョブで、サムライは武器を二刀流で持つことができる超攻撃的なジョブだ。
「うっし、じゃあダンジョンのボスと一戦交えて、どのくらい強くなったか見てみるか」
その前に、以前エルフの里の竜騎士ルルガから盗んだ竜騎士装備をアルグレインに装備させる。ついでに落ち武者から頂いた妖刀ムラサメもだ。スヴェンはまだミスリル装備のままにしておくことにした。
「燃え盛るは炎の鳥、大地を焼き尽くすは炎の旋風、我が敵を灰燼となせ、ファイアバード!」
「僕も行きますよ、星霜無尽乱撃!」
「オレも行くぜ、電光石火!」
もはや木っ端と同義となった雑魚を軽く蹴散らし、俺と仲間たちは、ダンジョンをどんどん潜っていく。アルマは上級魔法で、スヴェンは聖剣技で、アルグレインは刀剣技で敵をバタバタとなぎ倒していく。
「ここがボス部屋か……たしか相手はラミアクイーンだったよな」
大扉をあけ放つと、ラミアクイーンが現れた。男性キャラクターを行動不能にする魅了の技を使ってくる中々煩わしい敵なのである。だが、こちらは、アビリティ学術で叡智の風の技を覚えたスヴェンがいる速攻で倒せるはずだ。
「叡智の風!」
足の速さはこれで5割増しになっている。そして敵に早速攻撃を加え始めるアルグレイン。サムライのジョブは攻撃力が高く、足の速さもそこそこである。
「電光石火」
素早い乱撃を二刀流で繰り出すアルグレイン。妖刀ムラサメは、サムライの5番目に強い武器であり、竜騎士の槍も優秀な武器だ。その2つの攻撃が、およそ10連撃加えられる。ラミアクイーンは大きなダメージで、魅了を掛けようとしていたのをストップし、俺たちから距離を取り、回復魔法を唱え、雑魚のラミアを呼び出す。
「闇の中迸るは雷鳴の光、神の怒りを顕現せし電光、我らの敵を殲滅せん、サンダーボルト!」
アルマが覚えた高速詠唱で、ラミアの群れを一掃した。残るはラミアクイーンただ一匹だ。ラミアクイーンは体力がまだ回復していないようで、動こうとしない。仲間たちは畳みかける。
『ギャアアアアッ』
ラミアクイーンは、体が崩れて跡形もなく崩れ去った。そしてドロップアイテム、蛇女の涙を手に入れる。
ダンジョンが揺れ動き、ボス部屋の更に奥に、進むことができるようになった。お宝部屋である。今までダンジョンに潜らなかったのは、大して良い武具やアイテムが手に入らなかったからだ。
「おお、種ケ島に取り付けられる照準器があるぜえ」
「これで暗い場所でもある程度は、活躍できるな」
「おお! 期待していてくれえ!」
ヴェルファイアの専用アクセサリー照準器は、命中率を五割引き上げる。暗い場所で、乱れ撃ちをしても今まで、一発当たれば良いところだたが、二、三発は当たるようになるのはデカイ。
「ライジーン様、みんなこれでライジーン様のお手を煩わせることは無くなりましたね」
アルマが眩しく笑う。だが、不発弾が50個を切った今、一番足を引っ張っているのは俺である。もう少し経てば状況も変わるのだが、今は耐える時期だ。
「そういえば、アルマ。エルフの里で貰った魔導書を読まないか? 賢者になったから読めるはずだ」
「読んでみます……わあ、すごい……テレポートの魔法を覚えました」
一瞬で読める当たりは、この世界の仕様なのだろう。だが、ダンジョンなどから脱出する魔法を覚えたのは、嬉しい限りだ。ジョブレベルもラミアクイーンを倒したから、かなり上がっただろう。
準備は万端。残すはザルカバードのいるバストック連邦魔石研究所で、奴の企みを阻止するだけだ。
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