第32話 最難関エリアと決死の覚悟
ヂアミテイルの都の郊外の遺跡は、極天騎士団の精鋭で固められていた。その数は1000を超える。序盤最後の戦闘エリアであり、【ライジーン一人旅】では全く気を抜けないステージであった。
「おっさん、裏も見てきたけど、がっちり守りが固められているぜ」
「やはりゲームと同じで抜け道は無いか……」
「ライジーン様、げーむって何ですか?」
「ん⁈ ああ予言みたいなものだよ」
これは覚悟して、進むしかないようだ。仲間たちを死なせない為にも……。
「みんな、これから地下宮殿まで向かう作戦を伝えるな。反対せずに聞いてくれ」
俺は一番安全な方法を選ぶことにした。しかし、それは相当な覚悟がないとできない。なので、俺は心の準備に時間がかかった。我ながらチキンハートである。
「うっし、みんな頼んだぞ」
「ライジーン様……無理はなさらず……とは言いません。私は全力で支援するだけです」
「オルランド様、僕も学術の技で精一杯支援しますね」
「オレもオレも……おっさんが死んだら夢見が悪いもん」
「俺は近づく奴らを露払いさせてもらうぜえ」
みんな全力で行こうと俺は言い、地下宮殿までの地獄のフルマラソンに突入した。
「敵襲! 戦闘員はただちに現場へ向かえ」
「我ら騎士団はザルカバード様の剣! 先へは進ません!」
遺跡入り口で、1000人規模の敵に囲まれる。俺は腹にエクスカリバーを刺した。痛みで涙と汁が止まらない。しかしそのままエクスカリバーを投げ捨て、遺跡の瓦礫に向けて、必殺技、雷鳴無双斬を叩きこむ。
敵は、ライジーン必殺の即死効果付きの全体攻撃で一人残らず倒すことができた。俺が必殺技を使っている最中に、アルマや仲間たちは回復魔法やハイポーションによる回復を施してくれる。痛みと傷が完治したところで遺跡の内部へと侵入する。
「敵は遺跡内に侵入した模様! 急ぎ増援を送る!」
「ザルカバード様の計画を阻む者は、ここで果てるが良い!」
敵の極天騎士団の精鋭はザルカバードに洗脳されている。騎士団員どれだけいるんだよとゲームをやっててツッコミを入れつつ、プレイした記憶がある。精鋭なので、敵の体力が高めで、攻撃力もバカに出来ない。数も多いので味方が袋叩きに遭って、倒されるのが前提のエリアだ。
「畜生! 痛えええええええええええええええええええええッ!」
俺はまた腹にエクスカリバーを刺し、雷鳴無双斬バグを使い、敵を一網打尽にする。仲間のみんなには、生きて帰る為に必要だから、無茶をさせてくれと頼んだ。意外にも一番最初に同意してくれたのはアルマで、最後までアルグレインは渋っていた。
「ふう……第一階層は突破できたようだな。あと19階層あるのか……」
「ライジーン様、顔が真っ青です。何かできることはありませんか」
「美味いハンバーグが食べたい」
「任せてください!」
アルマの料理の熟練度はかなり高くなっている。高度な料理を除き、たいていの料理は失敗しない。ハンバーグのバフはガッツを付けるというものだ。ガッツとは一定の体力が残っている限り、死亡するダメージを喰らっても体力をほんの少し残して生き残るという効果である。ザルカバード戦では、意味をなさなかった。
「うっし、元気が出た! 次は機械魔兵が出てくるぞ! みんなも攻撃を受けないように注意しろよ!」
みんなは決意を少し元気が出た俺をみて、若干安堵したようだ。空元気もたまには悪くない。気合を入れ直した俺は、次の階層へと進む。
「待っていたぞ、侵入者!」
「痛えええええッ!」
次の階層では、必ずみんな全員不意討ちを喰らってしまう。ダメージは体力の3分の2を持っていくというものである。俺は敵が次の行動をする前に、渾身の必殺技を素手で壁に振るう。
「ザ、ザルカバード様、万歳……」
また1000を超える敵は息絶えた。仲間たちは己の傷より先に、俺を回復してくれる。
……。ようやく階層の半分を過ぎたところで、精神的な余裕がなくなってきた。ただでさえ激しい痛みを伴う必殺技バグ。それは死への恐怖をありありと感じさせるものであり、もしかしたら次の一刺しで死んでしまうかもしれないという猜疑心を産む。
「ライジーン様、宝箱がありますよ」
「あ、そうだったな……。アルマ、ありがとう」
この20階層の地下宮殿までのエリアには1つ宝箱があるんだった。痛みと恐怖を伴う攻略で、心の余裕がなくなり、すっかり忘れていた。
「開けてくれ……」
「魔導書が出てきました。読んでも良いですか?」
「ああ……頼む……」
「ロックブレイクの魔法を覚えました!」
非常に有効な保険ができた。仲間を殺させない俺の方針に合っている。これを見逃しそうになるとは、不覚も良いところだ。情けないぞ、俺! 攻略はお手の物だろ。
「よし、次の階層に行こう」
「ライジーンの旦那、無理になったら、俺たちを頼ってくれよお?」
「ああ……駄目そうになったら……頼らせてもらうよ……」
ヴェルファイアは、ただでさえ、敵の攻撃1回で瀕死になる俺に、敵を近づけないでいてくれる。遺跡内部なので、乱れ撃ちが数発しか当たらないが、十分健闘してくれていた。
そして地下宮殿へと入る直前のエリアでボス戦にへと突入する。
「極天騎士団序列第3位、魔導騎士フレデリカ参ります」
「全てはザルカバード様の為に」
ザルカバードの側近中の側近である。魔法剣士の上位互換の専用ジョブ魔導騎士に就いている。見目麗しく、それに惹かれたプレイヤーは数知れないモブキャラだ。エルフの里の竜騎士ルルガと同じく、データ改造を行って仲間にする動画をちらりと見た記憶がある。
「暗黒衝撃波!」
「ぐあッ!」
俺たちは壁に打ち付けられ、スタン状態になってしまう。ガッツのバフがあったから、仲間たちは死なずに済んだ。俺はエレメントバングルを付けているからスタン状態になっているのみである。しかし、魔導騎士フレデリカたち敵は、迷うことなくこちらに近づいてくる。
「スタン状態はな、こうやって解除するんだ」
俺はエクスカリバーを木の棒に交換装備した。スタンが一瞬で治る。武器変更を行うと、スタン状態が解除されるという裏技である。そして本日20回目のエクスカリバーによる腹への刺突。エクスカリバーを壁にぶん投げ、ふらふらになりながら、雷鳴無双斬バグを見舞う。
「くっ、ここは一旦引かせてもらいます」
多くの初見プレイヤーを惨殺してきたボスはすぐ下の地下宮殿に、逃げていった。
「……や、やったぜ……しのぎ切った……」
勝利の手応えと腹の痛みが混ぜこぜになって、俺は意識が遠くなり、暗転。
「……ジ……ン様、ラ……ジ……ン様、ライジーン様」
気が付くと、俺は柔らかいものを枕に目の前にアルマの顔があることに驚く。あ、意識が飛んでたのか……。立ち上がろうとすると、今までアルマが膝枕をしていたことに気づいた。鏡を今見たら、赤面しているだろう。
「良かった、死んじゃったかと思って心配しました」
「すまん、無理を言って立てた作戦だったのに……気絶するとは不甲斐ない」
「そんなことありません、もうこれ以上無いってくらい、ライジーン様は頑張りました」
「でも、この先もまだ踏ん張りどころだ、終わりじゃないんだ。みんなの力を貸してくれ」
ようやく、俺たちは序盤の地獄と呼ばれる難関を、誰一人欠けることなく突破することができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます