第31話 最弱ネタキャラの真骨頂
「ではこちらから行かせてもらいますよ! 煉獄灼焔斬!」
暗黒の炎を纏う一閃が走った。炎属性+闇属性の物理攻撃技だ。威力はライジーンの体力を二回削り切る程の威力を誇る。エレメントバングルを装備していなかったら初手のこの技は、対応できない。
「俺にはこの切り札がある」
俺はIDカードを、エクスカリバーを投げ捨てて装備した。ザルカバードは、不快感をあらわにする。
「せっかくの一対一の決闘を茶番劇にするつもりですか?」
「いいや、そんなことは無い。お前は今から地獄を見るんだ」
俺はザルカバードから距離を取りながら、不発弾の嵐を起こした。もう既に30個以上投げているが、不発弾は無くならない。IDカードを装備すると、エクスカリバーの攻撃力は残したまま、投擲武器の個数を減らさずに攻撃ができるのだ。
「くっ、やはりウィンドレス王国三英雄の1人……俗世で穢れ切っていたとはいえ、実力は健在ということですか……ならば……私も奥義で答えましょう」
ザルカバードが、剣を逆手に持ち、盾を前に構えた。
「竜虎の構え! この技を使わせるとは流石です!」
俺は試しに不発弾を投げつけてみた。しかしダメージが入った様子はない。
「今の私に物理攻撃は効かない!」
この言葉に釣られて、魔法攻撃をすると痛い目に遭う。リフレクトバングルを装備しているのである。正攻法で戦うなら、絶対防御を超える必殺技もしくはアルマの召喚獣による攻撃でしかダメージは入らない。近距離攻撃をし、反撃を受けたら一撃死する。
「でも、俺は最強の脇役ライジーンなんだよなあ……」
ライジーン一人で伊達にゲームをクリアしたわけではない。これくらいなんということはない。俺は初めて、アルマを助けに行った時のことを思い出す。
「ザルカバード……お前は今からライジーン・オルランドの真の強さを、目にすることになるぞ」
俺は、いつかと同じくエクスカリバーを腹に突き立てた。
「やっぱ、痛えええええええええええええええええええええッ!」
尋常でない痛みに冷や汗と動悸を再び感じる。レッグホルスターからエリクサーを取り出し、一気に飲みケガと痛みは完治させた。
ドクンと心臓が脈打ち、体が白い光に包まれ、輝きだす。
必殺技、雷鳴無双斬が使えるようになった。
「自分自身を攻撃するとは……私のことを舐めているのですか?」
「舐めてなんかいないさ、ライジーンがお前を倒すのは、この方法しかないんだよ」
竜虎の構えは、一定以上の高い攻撃力を持った技でしか、ダメージを与えられない絶対防御の技だ。だからライジーンのステータスがゴミ過ぎて、ダメージは通らないから、必殺技に即死効果があっても意味がない。
しかし俺は攻略法を見つけている。
俺はエクスカリバーを拾い、ザルカバードの前に立つとすぐに背を向け、必殺技、雷鳴無双斬を放つ。轟雷の音と暴風を纏った断罪の一撃は、ザルカバードとは真反対に放たれる。
「ぐはっ⁉ 何故攻撃が当たるのだ? 私の竜虎の構えは、絶対の防御技のはず……! しかも後ろ向きのままで⁈」
訳が分からないという様子のザルカバード。血を吐きながらその場にうずくまる。
これは知る人がほとんどいない裏技だ。必殺技はライジーンの場合、前方直線方向とやや後ろに攻撃判定がある。ザルカバードの竜虎の構えは、自分に対して向けられている攻撃は防ぐが、自分の方向に向いていない攻撃は防げない。だからザルカバードに背を向けて放った雷鳴無双斬が、カスのようなダメージを与え、即死効果で倒せたというわけだ。
「正々堂々一対一で戦った結果……やはり貴方は強かった……オルランド伯」
しかし……とザルカバードは言葉を紡ぐ。そして俺から距離を取る。
「新しい……時代を……この世界を……浄化する……ことは諦めるつもりは……ない!」
転移魔法テレポートで、姿を消そうとするザルカバードを、その息子ヴァイツが剣を投げ倒そうとするも惜しくも取り逃がす。俺の投擲の範囲外でもあったし、多分決着の時まで、神による強制力の様なものが働くのだろう。
「おっさん、アルマ、黒いの大丈夫か?」
「私たちは大丈夫」
「まさか……アルマ……お前に……妹に……助けられるとはな」
ヴァイツの言葉に驚くアルマと一同。しかしそこでヴァイツの意識は無くなった。精神疲労によるものだろう。恐らく3日3晩寝ずに竜馬を酷使しながら、駆け付けたはずだからだ。
ヴァイツ・デュナミスもまたアルマや霊撃のミゲルと並ぶ主人公の一人である。
三日後、バストック連邦第二の首都ヂアミテイルの宿屋で、ヴァイツの覚醒を待っていた。妹と呼ばれたアルマは静かに過ごしていたが、心中穏やかではなかっただろう。
「うっ……俺は……そうだ! 父を止めなくては……!」
「まあ、そう慌てるな。アルマが困惑している。いきなり妹だと言われてな」
「今……アルマは……どこに?」
「別室にいる。ここはバストック連邦第二の首都ヂアミテイルだ」
「ヂアミテイルだって⁈ 俺が気絶してから何日が経っている?」
「三日だ。まだ……間に合うだろ?」
何故それを、とヴァイツは言い、次にアルマに会わせて欲しいと言った。俺はアルマとヴァイツを二人っきりにしてやった。
ザルカバード・デュナミス伯と呼ばれているが、昔はエルデ・ゲオルグという名前だ。アルマの母、クラリス・アーカーシャは夫と死別しており、アルマが6歳の頃、ザルカバードと再婚したという。クラリスが死ぬと、ヴァイツはザルカバードが、アルマはアーカーシャ家の祖父が引き取ったという話だ。
アルマが幼い頃の記憶を全く覚えていないのは、とある事件が原因となっている。
「積もる話はできたのか? アルマ、ヴァイツ?」
「はい、肉親が母の他にいたなんて驚いたけど、会えてうれしかったです」
「だが、義理の父とはいえ、家族がしでかそうとしている大罪は、俺がこの手で防ぐ」
ヴァイツは腕を震わせ、歯を食いしばる。
「兄さん、ここにいるみんなは同じ気持ちよ。今まで信頼し合って旅をしてきたの。兄さんも良ければ……」
「ごめん、アルマ。俺は父と同じ暗黒騎士なんだ。穢れた剣技を使う暗黒騎士は、仲間に不幸を呼ぶと昔から言われている。俺は俺の道で義父の罪を清算する」
「兄さん……止めはしないわ。でも、父さんを止めたら、一緒にアグリアスの街でやり直しましょう」
それにはヴァイツは答えなかった。すぐに漆黒の鎧に身を包む。
「ライジーン・オルランド様、アルマをどうか助けてください。父ザルカバードの剣を凌いだ貴方になら、安心して託すことができる」
「分かった、命に代えてもアルマを守ろう」
「あと……ザルカバードの計画についてだが……」
今俺たちがいるバストック連邦第二の首都ヂアミテイルで、そこに住む人々を生贄に、新しい緋魔石を造ろうとしていることを告げられた。俺を除く一同は驚きを隠せない様子だ。俺はストーリーを知っているから、ヂアミテイルにやって来たわけだけど……。
あとは個人的にヴァイツが、アルマが記憶障害に陥っていることを告げてきた。幼い頃のトラウマで、ヴァイツのこともザルカバードのことも断片的にしか覚えていないという。
「うっし、ザルカバードたちがいる古代帝国の地下宮殿に行って、新しい神魔石を造るのを止めるぞ!」
俺たちはヂアミテイルの郊外の地下神殿の入り口の遺跡跡に向かった。
俺は密かに決死の覚悟を抱くのであった。ここからは俺の地獄が始まる。
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