第21話 初手麻痺毒は初見殺し
骸骨峠は、カノン山の中腹にあるということだった。丁度俺たちが立ちよった宿屋から西へ見える山である。俺はヴェルファイアとクライルと行動を共にする前に、アルマたちにとあることを伝えておいた。それが有効になるかはこの先の行動次第だろう。
「クライル! 体の調子はどうだあ? 病み上がりだから、もう少し歩く速さを遅くしても問題ないぞお」
「へえ、だけど……旦那方を煩わせるわけにはいきやせん」
「そうか……ヴェルファイア、クライルの言う通りにしよう」
山道になり、竜馬の速度が落ちる。道なき道を行くことができる黒い竜馬はヴェルファイアの義父隻眼のガリオスに預けっぱなしだ。再び会うのは、物語が進んでからだろう。
「モ、モンスターだ⁉」
クライルが叫び声を上げる。ヴェルファイアは魔銃、種ケ島を背中から抜き出す。俺はいつでも攻撃できるように、不発弾を構える。クライルはまるで今までもそうしてきたかのように、大剣を片腕で器用に抜き出した。クライルはルルガと同じ自律行動する。だが性能は雲泥の差だ。人気も全くない。
「それ! 乱れ撃ちだあ!」
レッサーオーガとゴブリンは大半がヴェルファイアの攻撃でとどめを刺された。俺はギリギリ不発弾を投げずに済み、ホッとする。クライルは戦闘前はモンスターに怯えていたくせに、戦闘中は果敢にゴブリンを倒していた。
「おい、クライルよお、骸骨盗賊団のアジトがもう近いんだろう? 何故こんなにモンスターがいるんだあ?」
「そ、それは……あっしにもよく分かりません。ゲイルンの親分は、考えが見通せないので」
途中雨が降ってきたので、近くにあったゴブリンの巣で雨宿りをする。ゴブリン共は怯えて中から出てこようとしなかった。通り雨だったようですぐ晴れたのは助かる。ここからは時間との勝負だ。
「またモンスターかよお! これで何度目だあ⁈」
10回ほどモンスターと交戦状態になり、ようやく山の中腹に辿り着いた。骸骨峠の名の通り、モンスターの骸と思われる骨が散乱している。
「クライル、アジトはあの洞窟の中かあ?」
「へい、そうです。あっしは後からついて行きます」
入り口は思ったより細く狭かった。しかしアジトだという割には見張りもいないし、人気は無かった。
「クライル、本当にここがゲイルンの奴のアジトなのかあ?」
「へい、もう少し進んだところに広い部屋があります。そこが目的の場所になります」
狭い通路を抜けると四角い広い部屋へと入った。人がさっきまではいたような気配はあるが、もう既にいなくなっている。そこでヴェルファイアが叫んだ。
「クライル、まさかお前、ハメやがったなあ?」
「ぐへへ、ゲイルンの大親分は、あんたらが街道に入った時から、目を付けていたのさ。特にあの美しい金髪金眼の娘……あれは大金になるってな。ついでに昔の復讐もしようってことになったのさ。度々現れたモンスターはテイマーが調教したモンスター。あんたらを疲弊させるためにな。今頃、宿屋は俺たちの仲間とモンスターで大混乱だろうぜ」
バンッという音が鳴り、クライルは入り口に続く細い通路でしゃがんだ。足をヴェルファイアに撃たれたのである。
「いっててて、だが、こんな傷ハイポーションですぐ治る」
「その隻腕、昨日今日でなったわけではないな」
「剣士様、さすがご慧眼だ。俺はフォーロッド盗賊団でヘマをして、腕が無くなっちまったのよ」
「じゃあ、またヘマをしちまったみたいだなあ、ライジーンの旦那は全てとっくのとうに知っていたぜえ。今頃霊撃のミゲルと名高い剣士が、お前ら骸骨盗賊団を殲滅しているだろうぜえ」
「な、なんだって! まあ良い……あんたらはここであの世行きなんだからな!」
ガチャリと音がして入り口の通路が閉まる。それと同時に左右の壁がゆっくりと押し迫ってくる。
「や、やべえぜえ、これは⁈」
「まあ落ち着け、壁をぶっ壊せばいいだけだ」
「おうよお、乱れ撃ちだあ!」
レベルカンストのヴェルファイアにかかれば、一応ボスモンスター扱いである迫る壁もイチコロだ。俺とヴェルファイアは急いで、骸骨盗賊団のアジトを抜け出し、宿屋へと引き返す。
「ライジーンの旦那、もし灼熱のゲイルンと戦うことになったら、俺1人で相手をさせてくれねえかあ?」
「自分の手で終わらせたいんだな、分かった。ただし、このアイテムだけは持っていけよ」
俺たちは赤い竜馬を全速力で駆り、山道を下りて行った。街道が近くなると骸骨盗賊団の団員と見られる者たちとの戦闘になる。ヴェルファイアはこの期間は自律行動するので、俺はサポートに徹した。時々近くの敵にはカタナで攻撃しようとするからである。
宿屋に近づくと、あの白い竜馬に乗ったミゲルが、綺麗な装飾が施されたロングソードで敵を蹴散らしていた。こちらを見ると近づいてくる。
「剣士殿、通報ありがとうございます。我らが騎士団が骸骨盗賊団の本隊は倒しました。しかし……リーダーには逃げられてしまいました。申し訳ない」
「それはむしろありがてえぜ。自分の不始末は自分でケリをつけるぜえ」
「居場所が分かるのですか⁈ すぐに騎士たちを急行させます」
「兄ちゃん、やめときなあ。灼熱のゲイルンは、そこら辺の一般騎士じゃあ話にならない実力を持っているぜえ」
だから、とヴェルファイアは言葉を繋いだ。その気迫にたじろぐミゲル。
「俺が相手をしてやる。なあゲイルン、近くにいるのは分かっているんだぜえ」
倒れ折り重なっている盗賊団員の近くに、ヴェルファイアが魔銃を撃つと、大男が現れた。ヴェルファイアより頭2個分も大きい。
「ぎははは、やり過ごそうとしたが、さすがは大盗賊ヴェルファイアだな。上手くはいかねえもんだぜ」
「ゲイルン、随分、舐めた真似してくれたらしいな……」
「ヴェルファイア、素の喋り方が出ているぜ、ぎははは」
「お前だけは、俺の手で地獄に落とす……」
ヴェルファイアはいつもの話し方と違うが、迫力は段違いだった。いつもは揺らめく炎のような性格だが、今は真逆の凍てつく氷のような印象を受ける。
「じゃあ、フォーロッド盗賊団の団員同士の決闘で決着をつけようじゃねえか、ぎははは」
2人とも得物を抜いた。ヴェルファイアはカタナ、ゲイルンはロングソードだ。フォーロッド盗賊団の掟では、団員同士でもめ事があった場合、近距離武器だけで決闘をするのである。
「2人とも、1ミリの可能性もない話だが、俺が負けたら奴を逃がしてやってくれ」
そう言うとヴェルファイアは、一瓶薬を飲むと、ゲイルンに向かって突っ込んでいった。対するゲイルンは動かず、ヴェルファイアが近づくのを待っている。
「ぎははは、甘いな。ヴェルファイアよ」
ゲイルンは暗器を投げてきた。躱すことなくヴェルファイアはゲイルンに突っ込んでいく。
「今のは麻痺毒だぜ、そら俺のロングソードの錆びにしてや……がぶへっ⁈」
思いっきり跳躍したヴェルファイアは、飛び膝蹴りをゲイルンの顔面に叩きこんだ。意識を失い倒れるゲイルン。俺はヴェルファイアに駆け寄り、念のため、ハイポーションを飲ませた。
「今、この骸骨盗賊団の親玉は、麻痺毒と言って暗器を当てませんでしたか? 何故無事でいられたのですか?」
「先に万能薬を飲んでおいたからさ……。こっちには信頼できる仲間がいるんでね……おっと……いるんでねえ」
「なるほど、剣士殿。やはり貴方は噂以上の方のようだ。また何かあったら我々黄金騎士団にご連絡ください。借りは返させていただきます」
話をしていると、アルマたちが宿屋の中から飛び出してきた。俺はホッとする。このイベントは時間制限があり、失敗するとアルマたちが奴隷商に売り払われ、とんでもない回り道をしなくてはならなくなるのだ。更に霊撃のミゲルと会っておかないと、時間制限内にクリアしても奴隷商に売り払われる。
「骸骨盗賊団が壊滅して良かったですね、ライジーン様」
「そうだな、一重にヴェルファイアの執念のおかげだよ」
事が片付くと、俺たちは更に、街道を西進し、バストック連邦の始めの街を目指した。
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