第20話 酒場での情報収集はイベントフラグを立てる

  バストック連邦の街道を俺たちは赤い竜馬で走っている。この街道はウィンドレス王国、サンドール共和国とも繋がっている要所だ。途中竜馬を休める為、宿屋に寄ることにする。宿屋の横には酒場が併設されており、情報収集がてら話を聞いた。


「マスターさん、今この辺の情報が欲しいんだが、聞かせてくれないか」

「ここは酒場だ。注文してからにしろ」

「じゃあスイートドリームを一杯貰おうか」


 マスターは酒瓶を開けると木のジョッキに入れて寄こした。


「最近、骸骨盗賊団って輩がこの辺を荒らしまわっている。特に若い娘が狙われることが多いらしい。騎士様、あんたも気を付けることだね。金を持ってる連中もターゲットにされているようだからね」


 話を聞き終え、酒場の片隅を見ると、こちらを凝視しているフードを被った男の顔があった。俺はそれを見ていないかのように、普段通りに酒を飲み、酒場を出て行く。


 アルマたちには宿屋で昼食を取るように言って、近くの森へと足を運んだ。湖があり、馬のいななきが聞こえる。そしてすぐに女性のかん高い悲鳴がした。


「ぐへへ、こいつは上玉だぜ、人買いに売ったら1万ディアスになるかも、分からないぜ」

「控えなさい、下郎。私を誰だと心得ているのですか⁉」

「そんなの知らねえよ、俺たちの狩場に来た女子供は、みんな奴隷商に売り払うだけだ」

「兄貴、一通り楽しんでから大親分に渡しませんかい?」

「そうだな、こんな上玉抱けるのなんて、一生に一度あるかどうかだもんな、ぐへへ」


 白い肌に、栗色の長い髪、青く透き通った目をした女性は、馬から引きずり降ろされようとしていた。女性は顔を青ざめさせている。


「そこまでだ! 骸骨盗賊団!」

「誰だ? てめえは?」

「この辺じゃ無名の剣士さ」


 盗賊2人はニヤリと笑った。獲物が増えたと思ったのだろう。酒場のマスターから店を出る前に、忠告を受けた。骸骨盗賊団は、下劣だが腕は相当立つと。二人の盗賊団員は、よほど腕に自信があるのだろう。


「お前たち……舐めていると……後悔するぞ」

「ぐへへ、そんな重い鎧を付けてちゃあ、俺たちには攻撃は当たらね……ごひゃ」

「兄貴、てめえ、やりやがったな。お前ら、出てこい」


 盗賊の一人を不発弾の投擲で気絶させると、もう1人が指笛を吹き、仲間がぞろぞろと現れた。30人は超えるだろう。不発弾が勿体ないと思いつつ、構える俺。


「貴様ら、彼女に手を出すなら、我が魔法剣の前に冥府に落ちる運命になるぞ!」


 そこに、白馬に乗った王子様が現れた。実際、王子様かは別として、イケメンの騎士である。白い竜馬に乗っていた。


「霊撃のミゲルじゃねえか⁈」

「あの黄金色の鎧にあの甘いマスク……間違いねえ」

「逃げるぞ、お前ら。相手が悪すぎる」


 どうやらここもイベントの一部だったようだ。ホッとする俺を、白い竜馬に乗った騎士は見つめてくる。俺も相手の涼やかな黒い瞳を捉えた。視線が交錯し、しばらく経ってから、騎士は白い竜馬から降りる。


「貴方は百年戦争の英雄、ライジーン・オルランド様ではありませんか?」

「……」


 取り合えずボロは出したくないので、黙っておく選択肢を取る。


「ふん……まあ良いでしょう。彼女を助けていただいたわけですしね」

「ミゲル……怖かったわ。この方諸共盗賊団に殺されるかと思いましたわ」


 女性は甘えるように、ミゲルという騎士の腕を掴んで離さない。


「メルジア様、お戯れが過ぎます。お父様が見られたら、私は立場がなくなりますよ」

「良いじゃなくって、貴方を狙っているのは私1人じゃないのよ」


 ぴったりと寄り添う女性を片腕に、騎士は礼を述べてきた。


「メルジア様が危ないところを、ありがとうございました。わけあって、先を急がなければなりません。また会う時は、ゆっくり話をしましょう」


 霊撃のミゲル――アルマと並ぶ主人公の1人――は無事正規ルートを通っているようだ。会う日もしばらくしたら来るだろう。あと3人を確認したいが、その術を俺は持たない。


「ライジーン様、森の中は危ないですよ。宿屋のお客さんが、盗賊団がいる上に、そのせいでモンスター狩りができなくて、大変なことになっているって言ってましたよ」


 長い金髪に金眼、雪花石膏アラバスターのように白い肌をした幼いながらも、美しい娘アルマは、自分の方こそ、盗賊団に狙われるような存在であることを認識していない。


「っ⁉ 言ってる側から敵が出てきたようですね」

「ちょっとした用事があっただけなんだが、迷惑をかける。すまないな」

「この位の相手じゃ、文句は言いませんよ」


 レッサーオーガの群れが出現した。足も遅く、ライジーン1人で倒せる相手ではあるが、不発弾が残り2桁になっているので、全てアルマに任せる。


「凍りつけ! サウザンドアイススピアー」


 氷の槍がレッサーオーガの群れを刺し貫く。オーガ種は体力が高く、一撃では倒せないが、アイススピアーは相手を動けなくする効果がある。すぐにアルマは攻撃を連発して、レッサーオーガを危なげなく倒した。


「何か落ちていますよ、わー綺麗な指輪」


 アルマは、メルジアの落とした指輪を手渡して来る。


「まだまだ、モンスターはいるみたいです」

「分かるのか?」

「そんな予感がするんです」


 アルマは後半になると、その力を覚醒させ、予知能力に目覚める。その片鱗を見せているのだろう。いずれにせよ、この森でレベリングなどをする予定も無いので、俺たちは宿に帰った。


「遅かったなあ、ライジーンの旦那よお」

「すまないな、ヴェルファイア。アルマを使いに寄こしてくれて、助かった」

「ヴェルファイアの親分とさ、アルマがおっさんとデートしてるんじゃないかって話をして……ぐはっ⁈」


 アルマの強烈な回し蹴りが、アルグレインの頭に直撃する。確か、アルマはモンクにもジョブ適正があったな。その才能の一端を垣間見たというわけか……。今後、下手なことは言わないように気を付けよう。アルマの蹴りであの世に行くのは嫌だ。


「アルマ、ここの宿屋の人が料理のレシピをくれるってさ」

「スヴェン、本当に?」

「感謝なら、ここの宿屋の旦那さんに言いなよ」


 その時である。外から大勢の悲鳴が聞こえたのは。


「きゃーっ、誰か。回復魔法が使える人はいませんか⁈」


 アルマを先頭に、外に出ると、血で真っ赤になった重戦士が横たわっていた。片腕が無くなっている。周りの人間は恐ろしいのか、近寄ろうとしない。


「アルマ、治せそうか?」

「はい、命だけは助けられそうです」


 アルマが回復魔法をかけると、隻腕の重戦士は目を開けた。


「あっしは助かったのか……あ、あんたはヴェルファイアじゃないか⁈」

「うん⁈ お前は誰だ?」

「あっしはフォーロッド盗賊団を抜けた親分と新しい盗賊団を結成したのさ」

「まさかゲイルンのことか?」


 ああ、と隻腕の重戦士は言ったが、無念そうに目を瞑った。


「ゲイルンの親分は、この数ヶ月で変わっちまった。今までは裕福そうな貴族や商人だけを狙っていたのに、女子供まで攫うようになっちまった。そのことを諫めようとした結果がこの片腕さ……」

「ヴェルファイアの親分、ゲイルンって誰だよ?」


 アルグレインがみんなを代表して質問する。ヴェルファイアはポツリポツリと語り始めた。フォーロッド盗賊団は副リーダーがヒューゴーの他にもう1人いたこと。その人物は一度市民に危害を加え、フォーロッド盗賊団を脱退させられたことを話した。


「奴の二つ名は灼熱のゲイルン。ヒューゴーを超える腕の持ち主だあ。ライジーンの旦那、俺は一旦パーティーから抜ける。ゲイルンをこのままにはしておけねえ」

「なら、お目付け役に、俺も同行しよう」

「これはあくまで俺の私事だぜえ」


 そこでアルマがヴェルファイアに声をかける。


「私たち仲間ですよね。仲間が困ったら助ける。普通のことじゃありませんか?」

「……俺としたことがすまねえなあ」

「アジトまではあっしが案内しますぜ」


 俺とヴェルファイア、そして重戦士のクライルは骸骨盗賊団のアジトのある骸骨峠に向かった。

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