第19話 デートフラグ確立!

「ライジーン様、1つ思い出したことがあるんです」

「何だ? 何でも話してくれ、俺たちは仲間なんだから」


 アルマは最初はためらいながら、だが途中から意を決して話し始めた。


「さっきライジーン様が言った通り、お父さんの夢を見たんです。お祖父じいさんからは、お父さんはミルディオス教会の異端審問官によって、殺されたと聞かされていたんですが……」


 俺は黒い竜馬を使って、ガングレリ要塞の追っ手から逃げる時のアルマのセリフを思い出した。追っ手のミルディオス教会の者を見て、アルマが「お父さんの仇!」と呟いたのを覚えている。


「……お父さんは、ミルディオス教会の人間に連れて行かれたんです」

「なるほど、殺されたわけではなく、今も生きている可能性があるということか……」

「私、もしお父さんが生きているなら、会って話をしたいです」

「そうだな、生きて会えると……良いな」

「ところでライジーン様、緋魔石って何のことですか?」


 アルマの父についても、真相は知っているが、言わないでおく。


 俺はアルマに緋魔石のことについて、話をした。今はまだストーリーの序盤なので多くは語らなかったが、神獣を封印し、武器にできるアイテムだと明かす。


「ザルカバードは、何を考えているんでしょうね? 滅びの神獣の力を使って、世界を浄化するって、何の為にそんな恐ろしいことをするんでしょう……私には分かりません」

「ああ、だが1つ言えることがある」

「何ですか?」

「腹黒剣王ライジーンを敵に回して、後悔しなかった敵などいないということだ」


 ふふ、とアルマが笑うが、すぐに顔色が変わる。


「ライジーン様、多分この洞窟のボスモンスターです。強い魔力を感じます」

「おうとも、俺に任せろ!」


 現れたのは、スケルトンとスケルトンメイジの集団だった。


 アルマがイベントと同じ様に、サウザンドファイアボールでスケルトンを全滅させる。しかし、スケルトンメイジがすぐに復活させてしまう。アルマは、丁寧にスケルトンを復活させない為に、スケルトンメイジを倒さなければならないと説明する。


「私が後ろから援護するので、ライジーン様は、ボスを……スケルトンメイジを倒してください」

「了解だ、アルマは後ろで待機していてくれ」


 ここではハイポーション販売機……ラーサラ王子から、手に入れたハイポーションが活躍する。アンデッド系モンスターは回復魔法や回復アイテムでダメージを受けるから、ハイポーションの高い回復効果はスケルトンを一撃死させる。


 スケルトンが残り1体になったところで、ハイポーションを投げるのをやめた。スケルトンを全滅させると、スケルトンメイジがスケルトンを復活させるのだ。スケルトン残り1体を気にしつつ、スケルトンメイジをハイポーションで攻撃した。


「ライジーン様、スケルトンメイジが魔法を詠唱しています。注意してください」


 初見のプレイヤーの為のアドバイスだが、俺には必要ない。まあ、アルマの応援がもらえるだけで、テンションは上がるので意味はあると言えばある。


『カタカタカタッ!』


 スケルトンメイジは死霊魔法エナジードレインを放ってきた。しかし俺は、ライジーンの低すぎる魔法耐性を、補うためリフレクトバングルを付けているから意味がない。


「これで終わりだ。ハイポーション!」

『カタッカタ……⁈』


 そして最後に残ったスケルトンにハイポーションを投げて終わりだ。


「やりましたね、もうこの洞窟からモンスターの気配はしません」

「うむ、後は地上への出口を見つけるだけだな」

「ライジーン様一人で、ほとんどのモンスターを倒してしまわれましたね。助けてもらったお礼に、バストック連邦で余裕があったらデートしましょう!」


 やったぜ! 俺は心の中でガッツポーズを決めた。このイベントは黄昏の花畑で、どのキャラクターとデートをするかは、どの花を選ぶかで決まる。その後、どのくらいモンスターを倒せたかで、デートを誘ってくるかどうかが変わるのだ。


「ああ、楽しみにしているよ、心から」


 まあ、男同士でデートをすることもできるが、そっちの気はないので、素直にアルマを選択した。バストック連邦の途中の街ティータに立ち寄るとイベントが発生する。忘れずにイベントを発生させなければ……。


「あ、そろそろ洞窟の出口みたいです。もう朝日が昇っちゃったみたいですね」

「みんな心配しているだろう。早く野営していた場所へ戻ろう」


 洞窟を出ると毒沼の近くに出た。ここからどう帰るか頭には焼き付いているが、ここで1つやることがある。


「アルマ、俺にレビテーションの魔法を使ってくれ」

「何の為ですか?」

「あの毒沼の離れ小島に何か光るものが見えるだろう?」

「それを確認されるのですね、分かりました。レビテーション!」


 俺の体は30センチくらい宙に浮いた。そして歩くと地面を蹴るような感覚はないが、前に進む。この辺はモンスターが出るので、毒沼に入って、毒状態で戦うのは避けたい。


 しかし、それも杞憂に終わった。


「ライジーン様、何かありましたか?」

「ああ、アルマも周囲は安全そうだし見に来れば良い」


 アルマも自身にレビテーションをかけて、毒沼の離れ小島にやって来た。


「わあ、落ち武者……と極東での島国で言うとスヴェンが言ってました」

「桜嵐国のことだな、これは確かにサムライの亡骸だ。遺書があるな」


 俺はもう数えきれない程読んだ内容をなぞっていく。


『それがしは桜嵐国より、武芸を極めんとした者にござる。道半ばで果てた、それがしの持つ最強のサムライに相応し妖刀ムラサメを、どうか後世に引き継いでもらいたいと思う所存に候』


 ……と達筆な文字使いで書かれていた。アルマに読んで聞かせると、アルマは、きちんとしたお墓を作ってあげましょうと言う。俺も賛同し亡骸を埋葬し、墓石代わりに木の棒を立てておいた。


「御サムライ様、天国へ行かれることを祈ります」


 長い金髪に金眼の少女は、柔らかな声を発し、祈りを捧げる。すると周りの毒沼が浄化され、綺麗な池に変わった。アルマの聖なる魂の力が解放されたというイベントである。


「おーい、アルマたちか? そっちにいるのは?」

「そうよ、アルグレイン!」

「まったく、見張りの交代しようとしたら、2人でいなくなっちまうから心配したぜ。ヴェルファイアの親分が、明るくなってからじゃないと、ミイラ取りがミイラになるって言ってくれたから、今探し始めたところだけどさ。2人とも心配させんなよな」

「ごめんなさいね、アルグレインも」


 分かれば良いんだよとアルグレインは鼻をかいた。これから序盤の中頃になるとジョブを変えることができるようになる。サムライで、強力な武器妖刀ムラマサは、アルグレインのサムライのジョブ適正と合わさって、かなり活躍してくれるだろう。


 さて、ここまでは予測不能の事態も起きたが、まあ上手くいっている。後はアルマの他の主役キャラクターたちが順当にストーリーを進んでくれているのを願うばかりだ。こればかりは、確認する手段が限られてくる。


 俺とアルマとアルグレインは野営していた場所に戻り、バストック連邦へと竜馬を駆るのであった。

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