第18話 好感度をひたすら上げろ!

 俺ことライジーンは悩んでいた。ここはアベルの大森林の花畑。ここでとあるイベントが起きるのだが、その選択に迷っているのだ。


「ライジーン様、見たこともない花が咲いていますよ」

「綺麗だな、流石は魔力の濃い森の奥だな」


 ここは、黄昏の花畑と言う名が付いており、ゲームではみんな予備データを作るスポットだ。


「ライジーン様、好きなお花はなんですか?」


 選択肢が来た。これが悩むのだ。まあどれを選んでも嬉しい選択ではあるのだが……。雪棘、太陽星、銀月の3つから選ぶことを俺は覚えている。それぞれ初期パーティーの3人のことを指しており、雪棘はアルマ、太陽星はアルグレイン、銀月はスヴェンのことだ。


「もしかして、お花嫌いですか?」


 まずい、まずい。この選択は時間制限がある。取り合えず、俺は雪棘を選ぶことにする。ここは素直に選ぶべきだろう。


「俺は雪棘が好きだな。気品があるが可愛らしさもある。それに鎮痛剤としても使われ、昔から人々に愛されている」

「私も、雪棘が一番好きな花なんです。小さい頃お母さんとよく採りに行きました」

「雪棘は普通3枚葉だが、4枚葉のものを見つけると幸運を呼ぶと言われているよな」


 俺は足元に咲く白い花を見つめた。小さな花を可愛らしくつけている。


「せっかくだから探してみませんか?」

「そうだな、どっちが先に見つけるか競争だ」

「じゃあ、勝った方が1つ相手の言うことを聞くってどうですか?」

「良いだろう、だが負けるつもりはないぞ」


 俺は、懸命に4枚葉の雪棘を探す。まあ、どっちが先に見つけても結果は変わらないのだが、なんとなく負けたくないという、ゲーマー魂に火が付いたのだ。


 5分ほど経ってから、アルマが先に見つけた。喜んでピョンピョンと跳ねている。


「わーい、やった。ライジーン様に勝ったわ」

「悔しいな、まさか負けるとは……」

「昔から見つけるの得意なんです。何を聞いてもらおうかな……」


 アルマは金眼を揺らしながら、懸命に何かを考えている。


「決めました。えっとですね。何だか恥ずかしいな」

「勿体ぶらないで、早く言ってくれ」


 アルマは左右の人差し指の頭をツンツンと合わせながら、恥ずかしそうに言う。


「私を1人にしないでください。ライジーン様も1人にならないでください」

「……分かった。それは必ず守ろう」

「約束ですよ」


 そして、俺たちはまたアベルの大森林を西へと進んで行った。途中竜馬を休ませる為に何回か休みを入れて、バストック連邦の街ダイスダーグに向かう。


 アベルの大森林は広く、とても1日では抜けられない。次第に夜の緞帳が下り始める。スヴェンの提案で、モンスターが現れるのを警戒しつつ、野営をすることになった。俺は真夜中に見張りをすることになる。


「それにしても、バストック連邦か……他の主役キャラクターとも会うことになるのか……」


 すっと目の前の焚き火が見えなくなった。瞼の上に人肌の温もりを感じる。


「アルマだな? こんな時間にどうしたんだ?」

「なんだか、寝付けなくて……」

「怖いのか? これから先に行くバストック連邦が……」


 アルマは美しい金色の目を伏せて、話を始めた。


「私の死んだ父はバストック連邦出身の騎士だったと、お祖父じいさんから聞いているんです」

「詳しくは分からないのか?」

「お祖父じいさんは話してくれませんでした。もしお父さんが、エルフ狩りをするような悪い人だったかもしれないって思うと……」

「大丈夫だ、きっとアルマのお父さんは、立派な人物だったに違いない」


 そう言った瞬間、モンスターの鳴き声が木霊する。どうやらかなりの数がいるようだ。アルマはオルフェウスの杖を構える。俺は不発弾を投擲できるように準備した。ちゃんと忘れずにエクスカリバーを木の棒に変更する。夜は投擲や魔銃の命中率が半減してしまうのである。


「みんな、起きて! モンスターの襲撃よ!」

「先に攻撃を仕掛けるぞ、アルマ!」

「はい、ライジーン様」


 敵はキラーオウルが5匹に、グリズリーが10匹いる。どれも今のアルマ一人で倒せるレベルのモンスターだ。しかし、今回はイベントを進める為、足の速いキラーオウルだけをアルマに倒してもらう。


「アルマ、飛んでるフクロウのモンスターだけ狙ってくれ」

「分かりました。燃え滾れ、サウザンドファイアボール!」

『ホウホウッ……⁈』


 キラーオウルの群れはアルマの雑魚散らしの十八番、サウザンドファイアボールの餌食になる。その間に俺はグリズリーの群れに、不発弾を投擲していく。ラッキーなことに不発弾がグリズリーに当たった後、他のグリズリーにも多段ヒットした。所持数が限られている不発弾を温存できたので有難い。


「おーい、ライジーンのおっさん、アルマ。無事か?」

「大丈夫だ。問題ない」

「もうモンスターは倒しちゃったわよ。ライジーン様が大活躍したんだから。敵のほとんどを1人で倒しちゃったのよ」

「流石はオルランド様ですね」


 みんなはまた眠りに就いた。アルマは隣ですやすやと寝息を立てている。


「……お父さんを連れて行かないで……」


 アルマが幼い頃のトラウマになった出来事の夢を見ている。そしてすぐに目を覚ました。


「嫌な夢でも見たのか?」

「はい、ちょっと1人になりたいので、その辺を散歩してきます。モンスター除けの香水もつけていくので心配しないでください」

「気をつけてな、足元に注意するんだぞ」


 アルマはそのまま闇に消えていった。だが俺は知っている。このまま何も起こらないなんてことには、ならないということを。


 数分後、アルマの叫び声が聞こえた。戯れに足元を注意しろと言ったが、やはりこの世界の強制力と、俺が名付けた力からは逃れられないようである。


「アルマー! どこだ?」

「……こっちです。ライジーン様、足元に気を付けてください」


 小さな穴が地面に空いている。ここから落ちれば良いわけだな。


「あー、足が滑ったー」


 我ながら見事な棒読みだと思った。昔から学校でやる学芸会の劇とか、国語の音読とか苦手だったんだよな。


 ドスンという音が聞こえて、腰に鈍痛が響く。俺のすぐ側にはアルマが魔法で明かりを灯している。


「ライジーン様、大丈夫ですか?」

「ああ、なんとかな」

「ごめんなさい、私が1人になりたいなんて、我がまま言ったから……」

「……お父さんの夢を見たのか? うなされていたぞ」


 アルマの顔に影が差す。しかしそれは一瞬で消え、アルマは表情を切り替える。


「なにも心配はありません。そんなことよりもここを脱出することを考えましょう」

「ああ、そうだな。どうやら洞窟のようだな」

「できれば朝までには抜け出したいですね」


 俺は風が吹いていることを感じた。そしてここで言うセリフを思い出す。


「風が流れているから、どこかに出口があるはずだ」

「炎の魔法を使って、風の流れてくる方向に進んでみましょう」


 アルマは先頭に立って、広い洞窟の内部を歩く。


『シャアアアアアッ』


 ケイブスネークが襲い掛かってきた。この洞窟の雑魚モンスターだ。


 俺は個数に限りがある不発弾を、勿体ないと思いながらも投擲する。これはイベントで重要なことなのだ。


「流石はライジーン様ですね」


 アルマのセリフから、イベントは上手く進んでいることが確信できる。

 その後も俺とアルマは2人っきりで、洞窟を進んで行った。

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