第17話 カエルを池に投げ入れろ!

 俺たちはルルガの案内に従って、大樹の陽だまりへと急いだ。俺はアンリミテッドブレイブタクティクスつまりこのゲームの世界については死ぬほどやり込んでいるので、案内は不要だがイベントなので仕方がない。自慢の俊足で地面を蹴るルルガになんとかついて行く。


「こっちです。しかし相手は、かなりの武装をしているようです。とてもただの人間の冒険者とは思えません」

「確かに、人数も気になりますね。冒険者なら普通は4、5人程度ですよね」

「アルマさん、私もそこが気になります。まるで軍隊のように統率された動きを取っている様なのです」


 そして大樹の陽だまりに近づいた時、ルルガが俺たちを制止する。どうやら、敵がもうすぐそばにいるようだ。俺たちは音を立てないようにゆっくりと、近づいて行く。


「くっ、やはり人間は野蛮だな! エルフ狩りなどを行うとは!」

「俺たちは上からの命令で、辛気臭いこんな森に足を運んでいるんだ。黙ってろよ」

「お前たちの軍服、バストック連邦のものだな?」

「おうおう! よく分かったな……エルフの兄ちゃんよ!」


 モヒカン刈りの男がレイの腹を殴りつけた。ぐったりとして動かなくなるレイ。

ルルガが怒りで震えているのを、俺は飛び出さないようにする。アベルの大森林を挟んで、ウィンドレス王国の西の国であるバストック連邦は、人間至上主義の国だ。


「行かせてください、ライジーン殿!」

「まだ駄目だ。敵の虚を突かなければ、レイが人質にされる」

「っ!」


 ルルガは怒りで唇を噛み、血がにじんでいる。双眸も怒りで燃え上がっているようだ。


「ライジーン様、なんだか森がざわついていませんか?」

「俺には、分からん。ルルガはどうだ?」

「そういえば、大樹の陽だまりの池にはモンスターの主が、潜んでいると聞いたことがあります」

「じゃあ、レイさんが危ないんじゃあ……」


 周囲に地鳴りが起きる。


「な、なんだ⁈」

「ふっ、ざまあ見ろ。欲深い人間め、池の主に食われれば良い」

「池の主だと⁈ 知ってて黙っていやがったのか?」


 そしてそのタイミングで俺たちは飛び出した。池の中から巨大なナマズ型のモンスターが現れる。口には鋭利な歯が見え隠れしていた。


「お前ら、何でここに⁈」

「レフィーちゃんから貴方が捕まったって聞いたから、助けに来たんです」

「人間がエルフを助けるだと⁈」

「困っている人、苦しんでいる人を助けるのに、種族の違いなんて関係ないです!」


 アルマがそう言うと、レイは黙って何も言い返さなくなった。


「ライジーン殿、私は逃げた人間たちを捕える為、兵を指揮します。この場を任せてもよろしいでしょうか?」

「ああ、勿論だ。地下迷宮で俺たちの腕は見ただろう?」


 ルルガは魅惑的な笑みを浮かべて、肩を竦める。そして近衛兵たちを、周囲に逃げた人間たちを捕える為指揮し始めた。人間たちは恐慌状態に陥っており、抵抗することすらしない。


 レベル差があり過ぎるモンスターと戦うと恐慌状態になり、動けなくなるのはゲームの仕様と同じか……。敵モンスターである化けナマズは、顔だけ水の上に出しており、水流のジェット噴射で攻撃してくる。ヴェルファイアの乱れ撃ちを使えば、簡単に倒せるが、あることを試したかった。


「アルマ、槍の召喚石を使うんだ」

「はい、ライジーン様」

「ライジーンのおっさん、オレたちは何をしてれば良い?」

「その辺の草むらでカエルを捕まえてくれ」

「カエルー? また、なんかに使うのかよ⁉」

「ああ、大事な仕事だ」


 アルグレインと話をしていると、アルマが召喚魔法を唱え始めた。


「我万理の理を読み解く者、未来を見通す、隻眼の神よ、ここに顕現せよ……オーディーン!」

『……汝が我を召喚せし者か……』

「よろしくお願いします!」

『……走れスレイプニル!』


 八本足の馬が池の周りを走り、オーディーンは持っている槍を構えた。


『……死ぬが良い、魔槍グングニール!』


 化けナマズの頭に槍は刺さり、1匹目の化けナマズは倒れた。しかし、先ほどよりさらに大きな地鳴りが起きる。今倒したのは化けナマズの子供なのだ。本当の主は更に巨大である。


 水流のジェット噴射をするとすぐに池に潜ってしまい、ヴェルファイアが乱れ撃ちをする前にターゲットから外れる。そこで、スヴェンとアルグレインにとらせていたカエルが役に立つ。


「スヴェン、アルグレイン池に捕まえたカエルを投げるんだ!」

「なんだか……分からないけど……やってやるぜ」


 カエルが水面に投げらると、化けナマズはそれを食うため、水面へと姿を現した。そこで、ヴェルファイアの乱れ撃ちが炸裂する。全弾命中し、化けナマズは退治された。


 最初の子供の化けナマズ戦では、あくまでオーディーンの強さを確認する為に乱れ撃ちは封印させた。召喚魔法がゲームと同じく必殺技に次ぐ威力を持っているのを確認する為だ。


「ライジーン殿、エルフ狩りの人間は全て捕えることに成功しました」

「こっちも化けナマズを倒し終わったところだ」

「人間にも信じられる奴はいるんだな。レフィーには謝らなくっちゃな」


 縄から解かれ、自由の身になったレイが、アルマを見つめて言った。


「それにエルフだけが美しいとは限らないんだな」


 そう言うとレイは照れてそっぽを向いた。


「よし、お前たち捕まえた人間たちは厳重に監視すること」

「やっぱりバストック連邦の非正規兵だったか?」

「おそらくは……でも思ったより口は堅いようです。早く里に帰りましょう、レフィーさんが心配していますから」


 俺たちは、エルフの里に戻ることにした。


「兄さんを助けて下さり、ありがとうございました」

「良いんだ、最初にエルフの里に案内してくれたし……」

「兄妹二人そろって助けてもらったんです。兄さんも頭を下げて!」

「リヴェルカ王の御成りである!」


 俺も含めて、その場にいた全員が平伏した。


「良い良い、顔を上げよ。レイよ、無事で何よりだ。お前の父ライルとは森で狩りをする仲間であったからな。奴が帰って来るまで、お前にもしものことがあったら会わす顔が無くなる」


 その後俺たちはレイとレフィーからその身の上を聞いた。母親がエルフ狩りに遭い、抵抗して殺されたという。そしてその復讐をする為にレイとレフィーの父親ライルは里を抜け、流浪の旅に出たと話を聞いた。


 その後、俺たちはバストック連邦に向かう為、エルフの里を後にすることを、リヴェルカ王に告げた。


「バストック連邦には、深い闇が見える。危険を承知で行くのだな?」

「リヴェルカ陛下が見た、緋色の魔石は、恐らくは神が与えたというあの魔石だと思います」

「シャントート帝国の遺産と言われるあの緋魔石だと言うのか……」

「バストック連邦は、シャントート帝国の末裔の国の中でもその血を色濃く受け継いでいると聞き及んでいます」


 確かに、とリヴェルカ王は頷き、侍従の者に何か囁いた。


「名残惜しいな。人間とこのように親愛を深められるとは今まで思わなかった。不肖の息子ラーサラも世話になったしな」


 そして侍従の者が短剣の様なものを持ってきた。


「失われたミルディオスの宝剣の3つの内の1つだ。我々の古い言葉では、ミルディオス・レア・ダガーと言う」


 ミルディオス教会の真祖ミルディオス・レヴァ・ウルフェインは当時の神獣教により弾圧され、3度違うダガーで心臓を突かれたが、死ななかったという。そのダガーは後にミルディオスの宝剣と呼ばれ、英雄たちの手に委ねられ、悪と断罪された神獣教を滅ぼすに至った。


「上手く隠し通してきたのですね。一振りは私が壊しました」

「おお! 我々が憎んでやまない宝剣の一つを破壊するとは!」


 エルフは未だに、神獣を聖なる使いとして信仰している。アルマがその魂を封印されていると知ったら、どうなるか分からない。だから今は秘密だ。


「それではリヴェルカ陛下、我々はこれで発とうと思います」

「ライジーン殿よ、この世界に希望がもたらされることを願っている」

「リヴェルカ陛下もお身体を大切に」


 そしてエルフの里を去るときには、多くのエルフから別れを惜しまれた。

 エルフの旅立ちの友にする風習らしいのだが、花吹雪が舞い散っている。


「みんな、名残惜しいけど、ザルカバードが次に狙いそうなものも分かったし、出発しよう」


 俺の心強い仲間たちは、みんなそれぞれ言葉を返してきた。

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