第16話 狙撃貫通バグと歩くだけで進むイベント

 鳴り響くサイレンの音と共に宝物殿ぎんこうの奥から現れたのは、機械の竜のボス、サイバネテックドラゴンである。全長は10メートルは超えており、銀色の竜はとぐろを巻いている。


『ギーッ、ガルルルルル!』

「これが宝物殿を守護するモンスターか! ルルガ、私は離れているから、皆さんに協力してくれ」

「ラーサラ様のお言葉のままに……」


 エルフの竜騎士は、鋭く光る槍をサイバネテックドラゴンに向けて構えた。この戦闘に限り、自由に動かすことはできないが、ルルガに指示を出すことが可能になる。指示は「敵を攻撃しろ」、「味方を支援しろ」、「モンスターから逃げろ」、「その場で待機」の4つだ。


「ライジーン様、ドラゴンがブレスを吐いてきます!」


 アルマが叫び終わると、サイバネテックドラゴンは雷属性のブレスを吐いてきた。パーティーリーダーの俺とゲストキャラのルルガを除いて全員麻痺状態になってしまった。セオリー通り戦うなら、パーティーリーダーとゲストキャラのルルガを使って、麻痺状態を回復させるのが普通なのだが、もはやライジーンは敵のドラゴンの攻撃が致命傷になる。


「どうしますか? ライジーン殿?」

「ルルガはそのままサイバネテックドラゴンを、攻撃してくれ!」

「わ、分かりました」

「ライジーン様、私たちも早く回復を……」

「大丈夫だ、その必要はない」

「「「「え⁈」」」」


 仲間たちが驚きの声を上げる中、ルルガはサイバネテックドラゴンに向かって疾走する。初期ステータスの足の速さは全キャラクター中トップのルルガは、サイバネテックドラゴンに攻撃の隙を与えることなく突貫する。


「喰らえ、奥義滅竜連続突き!」

『ギーガルル……⁈』


 黒い竜の形のオーラを纏ったルルガの槍の一撃は、サイバネテックドラゴンを貫き、一撃で倒してしまった。ルルガ本人も驚いている。


「ライジーン殿、これは一体?」

「さっきヴェルファイアにここの壁を撃ってもらっただろ。あの時壁越しに、サイバネテックドラゴンにダメージが入っていたんだ」


 これはバグ技である。正式名称は、ヴェルファイア狙撃貫通バグ。その名の通り、ヴェルファイアの狙撃が壁を貫通して、サイバネテックドラゴンにダメージを与えるというバグ技だ。これによってサイバネテックドラゴンをルルガの一撃で倒せるようにした。これはライジーンの不発弾の投擲でも原理的には可能であるが、かなりシビアなのだ。


 ただし、このバグ技は1つとんでもない欠点がある。


 狙撃貫通バグで、サイバネテックドラゴンを倒しきってしまうと、ストーリーが進行しなくなるのである。


 では、何故そんな危険なバグをあえて使ったかというと理由がある。サイバネテックドラゴンはデス・フレアと言う名の技を使ってくる。名前の通り低確率だが即死効果が付いているのだ。更にサイバネテックドラゴンはルルガの行動の次に、攻撃を仕掛けてくる仕様になっている。レベルカンストのヴェルファイアの乱れ撃ちを待っていたら、デス・フレアを喰らう可能性が出てくる。


 この世界で死んだら、生き返る保証はない。仲間たちで検証するほど、俺は割り切った考えはできないから、全員死なないように戦う。これが俺の大きな方針の一つだ。


「ライジーン殿、金庫の鍵を敵のドラゴンが落としました」

「うっし、じゃあお宝をはいけんさせてもらおうじゃないか」

「なんかドキドキしますね」


 アルマが麻痺から立ち直り、キャッキャと楽し気に話す。


「よし、じゃあ金庫を開けるぞ」


 全員が固唾を飲む中、3メートル程の大きな金属製の金庫が開いて行く。


「こ、これは⁉」

「すごい!」

「流石は宝物殿ってだけはあるぜえ」


 中に入っていたのは、金塊の山であった。ここまで一緒にやって来た仲間たちの顔を黄金色に照らす。


「やりましたね、ラーサラ様。これならリヴェルカ様に自慢できますね」

「ありがとう、アルマさん。皆さんもここまでありがとうございます」

「おや、奥にあるのは魔石ではありませんか?」


 紫の魔石が金庫の奥にポツンと落ちてある。さも拾えと言わんばかりに。


「本当だ、イフリートを召喚する魔石と同じ紫色だな。またオレたちを差し置いて、アルマばっか強くなるのかよ!」

「まあまあ、アルグレイン。僕らは地道に行きましょう」


 アルマに紫の魔石を手渡された。紫の魔石には槍のマークが入っている。アルマのリボンにある紫の魔石には、炎のマークが入っているのをちらりと確認した。


「ライジーン殿、ラーサラ様の長年の夢を叶えて下さり、ありがとうございます」

「ルルガの言う通りです。幼い頃から地下迷宮ロアル市街に行きたいと願っていたんです」

「それは良かった。俺たちも、ハイポーション販売機……じゃなかった。ラーサラ様たちのおかげで強くなれましたから、我々も感謝していますよ」

「それではここから地上に戻るとしますか」


 俺たちはその後一度もモンスターに遇わずに、昇降機まで辿り着いた。


「もう、ここには来れないかもしれませんが、大丈夫ですか?」


 またしても「はい」か「いいえ」の選択を迫ってくる王子。


 俺は、もうここではやることは無いので、地上に戻ろうと答えた。


 地上に戻ると、あのタイラントスパイダーからその身を救ったレフィーが現れた。なんでも兄のレイが、エルフ狩りをしている冒険者に捕まったのだという。


 勿論これもイベントの一つだ。レフィーの兄レイは、エルフ族のハンターだ。レフィーが薬草採りをしていたところに、人間の冒険者が現れ、攫われそうになったのを庇い、返り討ちに遭ったという。


「ルルガ、兵士を可能な限り使って、レフィーさんのお兄さんを探させるんだ」

「承知いたしました。ラーサラ様」

「私たちも手伝いましょう? ライジーン様」

「そうだな、その前に王宮の周りを10周するか……」

「「「「は⁈」」」」

「まあ、あれだ。勝手知らないアベルの大森林を歩いていても、エルフ狩りの冒険者を追いかけれるかは分からないだろう?」

「まあ、おっさんの言う通りだぜ。エルフの里だってレフィーの兄ちゃんがいなかったら来れなかったと思うぜ」


 そういうわけで、俺たちは王宮の周りをグルグルと回ることにした。1周すると、ルルガが報告に来る。


「タイラントスパイダーの巣があった場所で、レイさんは捕まったようです。兵士をそこから西の方へ向かわせます」

「分かった。何か進展があったら教えてくれ。すぐに加勢するから」


 3周するとまた、ルルガが報告に来る。


「相手の人数は20人は超えているようです。冒険者の仕業とは考えづらい規模です」


 5週すると更に、ルルガが報告してくる


「どうやらバストック連邦に向かって、逃走しているようです。森から出る前に包囲します」


 そして10周目で、場所が判明した。


「大樹の陽だまりという池があるところで、敵は休憩しているようです」

「分かった、ルルガ。案内を頼む」

「承知いたしました」

「うっし、レイにはエルフの里まで、案内してもらった借りがあるしな」


 このイベントは、初見ではあちこち歩きまわらなければならないと勘違いするが、時間制限もなく、エルフの里を歩き回っているだけで、進行するのだ。そして、レイが捕まっている場所は、4つあり、全てランダムである。残念ながら的中させる方法は無いので、ただ待つだけになってしまう。


「ライジーン様、早くレイさんを助けましょう」


 金髪金眼の少女アルマは、快活に声をかけてくる。俺はそれに応えて、人間に捕まっているレイの元へ急いだ。

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