第14話 ハイポーション販売機と行く地下迷宮
さっさと虹色の魔石をを取りに行きたいところだが、エルフの里ではまだやることがある。第1王子ラーサラのところへ赴くのだ。突然の俺の訪問に、驚くラーサラ王子。しかし、俺は知っている。この王子、度々里を抜け出し、ムスタディオの方へ出掛けていることを。
「ラーサラ陛下、お忍びで、行ってみたい場所はありませんか?」
「そ、それをどうして知っているんですか⁈」
「このアベルの大森林は、古代の大帝国シャントートの街の上にあると言いますからね。人間や他文明に関心を寄せておられるラーサラ陛下なら、行きたいと思っていてもおかしくないと思いまして」
まだアルマたちよりも幼いラーサラ王子は、言葉に詰まりつつも、好奇心に負け、首を垂れる。
「あなた方のような心強い味方がいれば、地下迷宮ロアル市街跡を探索することも
暗くなってから、探索に出かけるということになった。地下迷宮ロアル市街は、古代の大帝国のただの辺境の街だ。だが、その大きさは機械都市ムスタディオを凌ぐほどの大きさを誇る。
「本当に良いんですか? ライジーン様、相手は第1王子なんですよね。万が一があったら……」
アルマが言うのも理解している。このお遣いクエストは何度が非常に厳しい。第一王子ラーサラを護衛しつつ、敵を殲滅しなければならないからだ。しかも、クエストが終わるまで、地下迷宮ロアル市街から出ることはできない。
「大丈夫だよ、今のアルマたちなら」
「僕は、個人的な興味ですが、地下迷宮ロアル市街に行ってみたいですね」
「スヴェン⁈ いつもは常識的な貴方まで一体どうしたの?」
「アルマのお嬢さん、男には憧憬ってものがあるんだよお」
ヴェルファイアのその一言で、アルマはカンカンに怒ってしまった。いつもなら、問題発言をするアルグレインと逆の立場になってしまったスヴェン。学者に適性がある彼は、一度興味惹かれたものには貪欲なのだ。
「スヴェンさんは物知りですね。私もシャントート帝国が滅んだ極光戦争は、伝説の緋魔石が関わっているんじゃないかと思っているんですよ」
「ラーサラ王子もそう思いますか。僕も普通なら都市の遺跡くらい残っていてもおかしくはないと思うんですよね。多分、古文書でも最後に記述のあるという緋魔石の研究が関連してそうだと思っているんです」
リヴェルカ王と食事を共にした後、深夜になって俺たちは動き出した。エルフの里の図書館の地下から地下迷宮には行けるはず……。図書館に近づいたその時である。大勢の近衛兵に囲まれてしまう。そしてルルガが王子の前に現れ、膝をつく。
「リヴェルカ陛下のお言葉を伝えに来ました。ラーサラ様、今回はライジーン殿の顔に免じて許す。存分に探索をするが良い……とのことです」
「ああ、父上……。ありがとうございます」
そしてルルガは俺の方を向く。
「ライジーン殿、私もラーサラ様の護衛の為同行させていただきます。これがラーサラ様を地下迷宮ロアル市街に連れ出す、最低条件だとリヴェルカ陛下は仰っておりました」
「ルルガがいれば百人力だ。歓迎するよ」
ラーサラ王子とルルガは、ゲームでは自動行動キャラクターだった。ラーサラ王子が動くとルルガが近くのモンスターを倒すのである。ルルガは竜騎士という専用ジョブに就いており、小さな飛竜のブレスと卓越した槍さばきで、敵を倒すのだ。
「1つ忠告です。地下迷宮ロアル市街の宝物殿には近づかない方が良いと、リヴェルカ陛下が予言されていました」
図書館の地下に入り、昇降機のスイッチを押すと、底の見えない深さの大穴に俺たちは入っていった。約30分経ってようやく地下迷宮ロアル市街の入り口に差し掛かる。
「わーまだ魔石が光を放っている! どういう原理なんだろう?」
「あのケーブルを魔力が流れているのではないでしょうか?」
流石はスヴェンさんだ、とラーサラ王子は興奮して話に夢中になっている。だが、ここは街ではない。ダンジョンの様なもので、モンスターが出るのは道理なのだ。
「ラーサラ様、私の影に隠れてください」
機械のトカゲのようなモンスターに包囲された。だが、こちらには強力に育ったアルマたち三人とレベルカンストのヴェルファイア、そして中盤まで最高の威力を持つ不発弾の投擲がある。負ける要素はない。
まず火ぶたを切ったのはアルマの雷属性魔法サンダーレイジである。例のウィザードバングルを付けているせいで威力が落ちているが、オルフェウスの杖の効果のおかげで実質威力は素の3分の2くらいの威力は出せているはずだ。
アルマの杖から放たれる電撃で機械のトカゲたちは動きを鈍くした。そこに畳みかけるスヴェンとアルグレイン。残ったモンスターはヴェルファイアの乱れ撃ちで倒し、俺の出番はなく終了。
市街地を更に進むと、ラーサラ王子が、走り出した。その先にはショーウィンドウの様なものがあり、クマっぽいぬいぐるみが飾られている。
「わー古代の人はこんな風に、売るものを見せて、お客さんを引き寄せていたんですね」
「合理的なやり方ですね。まあ治安の良い都市くらいじゃないとできませんが……」
スヴェンとラーサラが語り合うところに、装甲を付けたアルマジロの様な敵が現れた。俺は密かにこれを待っていたのだ。全員に命令を出す。まずヴェルファイアに種ケ島による狙撃を4発アルマジロに撃ってもらった。
アルマジロは瀕死のダメージを受けたので、丸くなり防御に徹する。
そして、俺は石ころをヴェルファイアに投げ、王子とヴェルファイアの直線上に立つ。
「ヴェルファイアさん、ハイポーションです。使ってください」
「おお、ありがてえなあ」
しかし、カスのようなダメージを受けたヴェルファイアにハイポーションは届くことはなく、俺が奪う。その繰り返しを2時間行い、所持制限までハイポーションをゲットすることに成功した。序盤の中間くらいでハイポーションを所持数制限まで持っているというのはヤバい。
売れば、店に置いてない品なので、通常の3倍の値段で購入してくれる。
全部売れば、ライジーンの所持金二十万ディアスなどあっという間に超えるのだ。そして、序盤の低級アンデッドモンスターならば一撃で倒す手段を手に入れたことになる。
まさに、ゲーマーたちのラーサラ王子のあだ名が、ハイポーション販売機と言われるのも納得だ。アルマジロのモンスターは基本1体でしか現れない強敵なのだが、こちらにはレベルカンストのヴェルファイアがいる。ダメージ調整はお手の物だ。
「よし、ヴェルファイア。敵を倒してくれ」
「おうよ、さっき石ころを当ててきたのは、ふざけてかよお?」
「まあ、そんなところだ。よくやってくれたな」
こうして、俺は地下迷宮ロアル市街のダンジョンで目的の1つを成功させたのだ。
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