第13話 麻痺させれば勝ち確定!
俺があっさりと最後の結界をくぐったのを見て、ルルガはしばらく驚きを隠せないでいた。恐らくは、先の百年戦争でアベルの大森林の3分の1を焼いた戦いの主犯格に相当する、俺が通れるとは内心では思っていなかったのだろう
「ルルガよ、驚いているようだが、人間も好きで戦をするわけじゃない。俺は百年戦争を終結に導いた英雄と言われているが、実際は1人では何もできない、ただのおっさんだ」
「無礼を承知で告白します。私は貴方だけはこの森の意志で結界から、弾き返されると思っていたのです。人間にも色々と理由があるのですね」
「そうですよ、オルランド様は、権力欲の塊とか腹黒剣王とか噂では、酷かったですけど、実際は弱きを助ける騎士のお手本ですよ」
スヴェンが嬉しいことを言ってくれる。更にアルマも続ける。
「ライジーン様は、私が殺されそうになった時、1番に助けに来てくれたんです。しかも、謀反人として世間で扱われるのをいとわず。私にとってどんなお話の英雄よりも格好良いんですから」
ふうーと息を吐いて、ルルガは俺に向き合った。
「このルルガ、身命に懸けて、ライジーン様をお守りさせていただきます」
「まあ、自分の身は自分で守れるから、そう固くならないでくれ」
……と言いつつ、もうこのあたりのストーリーだと【ライジーン一人旅】は、猛烈に難しくなってくる。だから、ルルガの配慮は有難かった。アルマがリザレクションを覚えたにしても、死んで復活できるかは分からない。それは他の仲間たちにもいえることだ。
「おやおや、臭いと思ったら、人間が里に入り込んでいるとは……」
「ガラン侍従長、失礼な物言いはおやめ下さい。リヴェルカ様にマンドレイクの花を、渡しに来た者たちなのですから」
「なに⁈ マンドレイクの花だと⁉ そんなものは必要ない! 森の外に出すのだ、ルルガよ!」
ガランはエルフのくせに……とは失礼かもしれないが、太っており、見た目も眉目秀麗なエルフの男性にしては、醜悪な部類に入るレアな存在だ。
「王が直々に、会うと仰ったのです。侍従長と言えど、この命令を拒否する権利はありません」
「ぐぬぬ……ルルガよ、覚えておれよ!」
「行きましょう、ライジーン様。一刻も早くリヴェルカ様の元へ」
美しきエルフの近衛兵隊長ルルガは、侍従長ガランを無視して、エルフの王宮へ向けて俺たちを案内した。後ろを見るとガランは顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいる。
「失礼しました。ガラン侍従長は、人間排斥主義者のリーダーを務めているのです。有能な故、王はガラン侍従長を側に置いていますが……」
「まあ、どこの会社にもいるよな。人のことを見下して、排斥するような人格破綻者は……」
「ライジーン様、かいしゃって何ですか?」
アルマが好奇心を刺激されたらしく、エルフにも負けない美貌を持った顔を近づけてくる。……近い。俺の心拍は多分急上昇しているだろう。
「ギルドみたいなものだよ、ここからは果てしないほど遠い国にあるんだ」
「行ってみたいな、どんな国なんだろう?」
「厳しい国だぞ? 下手すると、このせか……いやウィンドレス王国よりも厳しい国だ」
「私、こんな風に冒険をすることなんかなく、騎士になり、やがては家庭を持って、アグリアスの街から遠く離れた場所へ行くことなんか無いのだろうなと思っていたんです。でも、ライジーン様はそんな私を窮屈な世界から解き放ってくれました。私、色んな知らないことをもっと知りたいし、やったことがないことをもっとやりたい。そう思って良いんだって気付けたんです」
「そりゃあ良かった。小さなお姫様を助けた甲斐があったってもんだな」
「私、真面目に話しているんですよ。もうっ!」
そろそろ王宮へ入るので大声は慎んでくださいとルルガに言われた。エルフの里の王宮は大きくはなかった。しかし、白亜の宮殿は見る者に感銘を与えるには十分すぎる程美しい。
「すっげえな、オレ王宮なんて入るの初めてだぜ」
「私もなんだか緊張するわ、しかもエルフの王様に会うなんて夢みたい」
「あまり緊張なさらないでください。陛下も同じことを仰るに違いありません」
王宮の中も美しい彫刻が施されていた。大きな絵画には、英雄が怪物を倒す姿が描かれている。明かりは所々に配置されている魔石によって灯されていた。確かエルフの里の主な収入源は魔法を施した魔石だったのを覚えている。明かりがついている魔石も炎属性の魔法が施されているのだろう。
「ここは水晶宮殿という別名があります。色とりどりの魔石を配置し、明かりを灯したり、空気を綺麗にしたり、花の香りを纏わせたりと使っているからです」
そして王の間に辿り着いた。ルルガがドアを開け、中にいざなう。
「ゴホッ、ゴホッ……ルルガよ、彼らがマンドレイクの花を……持って来てくれた客人か……」
「陛下、お立ちになられるのは、無理でございます。どうかお休みになられたままで……」
「客人に無礼を働くようでは、エルフの里の王の名が泣くわ……ゴホッ、ゴホッ」
侍従の者がエルフの王リヴェルカにマントを着せて、それを翻し王は俺と向き合った。未来を見通すと言われるその目は、俺の目を真っすぐに見つめる。
「お主は……ゴホッ、ゴホッ」
「大丈夫でございますか、陛下?」
「うむ……少し無理をしたようだ……」
「リヴェルカ陛下、まずはマンドレイクの花の蜜を飲んで、病気をお治しください」
俺はマンドレイクの花を、侍従の者に渡した。蜜をガラスの器に溜め、お湯に溶かしたものを、王はゆっくりと飲み干す。
王の身体が仄かに輝く。
「身体が羽根になったかのように軽くなった。ライジーン殿、礼を言うぞ」
「そのようなお言葉、滅相もありません」
「先ほど、そなたを見て、我が予言の力でも、ほとんど未来が見通せなかった」
「そうですか……残念です」
「ただ一つ見えたのは、緋色の魔石を手に取るそなたの姿じゃ」
俺は、心の中でガッツポーズをした。やはり来て良かったと。これから先どのストーリーに物語が分岐するのかが分かったからだ。
「それだけ分かれば十分でございます」
「褒美はいらぬのか? 我が宝物殿から好きなものを持っていっても良いのだぞ?」
「ライジーンのおっさん、ここは王様の言う通りにしようぜ」
「アルグレインは欲張り過ぎ、良いじゃない、人助けをするだけでも。見返りなんか求めちゃ駄目よ」
その晩、王とその側近らと会食をした。そして深夜、俺は寝室を抜け出し、王宮の地下へと向かう。王の寝ている部屋のすぐ下に位置する場所で、ガラン侍従長が呪いの儀式を行っていた。
「やっぱり、ゲーム通り地下で、王に呪いをかけ直そうとしていたか!」
「何⁈ 何故バレた? この地下への入り口は見張りを置いておいたのに!」
「不発弾の投擲で昏倒しているよ」
「こうなったら、我が呪術で葬り去ってくれよう、醜き人間め!」
「鏡で自分の顔に言うんだな」
俺はタイラントスパイダーの麻痺袋を投げつけた。ガランは一瞬で麻痺の状態になり、そこに不発弾を2個投げつける。ガランは、げふんという呻き声を出し気絶した。
そこに近衛兵隊長ルルガが現れる。ストーリー通りだ。パーティーリーダーが見張りとガランと戦闘を行うのである。ガランは一撃だけ、どんな攻撃も耐え、カウンターで序盤としては強力な呪術という固有技を使ってくる。攻撃は魔法と同じいダメージ計算なのだが、リフレクトバングルでははね返せない。もうストーリーのこのあたりで出てくるボスの魔法は、ライジーンを一撃死させる威力になっている。
だからタイラントスパイダーの麻痺袋を投擲し、動けなくなったところを攻撃したのだ。
「ライジーン殿、これは一体?」
ルルガが声を発した。倒れていた見張りを見つけ、地下へと入って来たのだという。
「リヴェルカ王の病はガランの呪いによるものだったんだ。多分人間嫌いな第2王子あたりを王にする為、裏で暗躍していたのだろう」
「なるほど、しかし……エルフの里の事情に随分お詳しいのですね」
「里を抜けたエルフの知り合いから聞いただけさ」
ルルガは納得して、ガランを捕縛した。
次の日、リヴェルカ王に俺は私室に呼ばれ、ガラン捕縛の褒美を渡された。
袋の中を見ると黒い魔導書と魔法が施された魔石が詰まっている。
「これは予言ではなく、あくまで200年近く生きてきた勘なのだが、お主はこの世界の行く末を左右する……そんな人物に思えるのだ」
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