第12話 ボスモンスターのドロップアイテム(重要)

 タイラントスパイダーは、こちらに気づくと、麻痺性の毒を吐いてきた。ゲームでもボス、雑魚両方で登場するタイラントスパイダーだが、そのタフネスさはこの世界でも健在なようだ。流石に、ヴェルファイアによるレベリングのおかげで、毒液にかかるようなメンバーは、俺を除いていない。


『グシャラアアアアッ!』


 ヴェルファイアが乱れ撃ちを使えば、どうにかなるのだが、それをやると手に入らないドロップアイテムがある。なのでヴェルファイアには、糸に巻かれたエルフの救出及び護衛、そして隙を見て足を狙撃してもらうことにした。


「アルマ! クモの逃げ場を無くしてくれ」

「分かりました、燃え滾れサウザンドファイアボール」


 アルマが天井や壁に張り巡らされた蜘蛛の糸を焼き、スヴェンがタイラントスパイダーに向けて、突進していく。クモのモンスターは、動ける場所が限られた為か、毒液を連続で吐き始めた。しかしスヴェンはそれを冷静に回避している。そしてその背後から、アルグレインが跳躍する。


「このクモ野郎! 火炎突き!」


 炎の属性を纏った目にも止まらぬ刺突攻撃が、タイラントスパイダーの顔面を襲う。


『グラッシャアアア⁉』


 痛みで悶絶したタイラントスパイダーは、森の奥へと逃げようとする。が、しかし、狙撃音と共に足が粉微塵に化す。エルフの少女を助けたヴェルファイアの援護だ。的確に後ろ足の2本を打ち抜く技術は、流石ゲーム唯一の魔銃使い。


「動きが遅くなったわ、逃げ道を塞ぎますね。絶えぬ地獄の炎の壁よ、ここに顕現せよ、ファイアウォール!」


 クモの糸を燃やし尽くしたアルマがタイラントスパイダーの逃げ道をふさぐ。


「僕も負けてはいられないな、蒼海斬!」


 渦潮のような水流を纏った斬撃で、残る6本の足の内2本をスヴェンが切り落とした。


「おらおら、次々行くぜえ」


 ヴェルファイアは次々にタイラントスパイダーの足を落としていく。スヴェンにアルグレインも負けじと前に出る。アルマは最後の足を炎属性最速の魔法ファイアアローで焼いた。


「グラッシャア……⁈」


 タイラントスパイダーは、力なく倒れた。ボロボロと身体が崩れ、最後にタイラントスパイダーの麻痺袋というアイテムを手に入れる。これが欲しかったから、ヴェルファイアに乱れ撃ちを使うことを封印させた。


「助けていただいて、ありがとうございます。私の名前はレフィー、エルフ族の里オヴェリアの者です」

「俺たちはエルフ族の王にして、予言者リヴェルカ様に用があって来た」

「そ、そうですか、しかし今は……」


 レフィーが言いかけたところで、声が聞こえた。


「レフィー! どこだ! この辺は変異種のタイラントスパイダーの縄張りだぞ!」

「兄さん、ここよ!」

「無事だったか、……この人間たちはなんだ?」


 レフィーの兄は、明らかに友好的ではない雰囲気がある。


「兄さん、タイラントスパイダーに捕まった私を、この方たちが助けてくれたの。人間が嫌いなのはわかるけど、お礼くらいはちゃんと言って」

「……妹が世話になった。……感謝する」


 明らかに、憎悪の感情が見え隠れしている。それも仕方ないと言えば仕方ないのだが……。ライジーンがいる上で、ストーリーがちゃんと進むのかが懸念される。


「……エルフの里にはよそ者を弾く結界が張ってある。……俺が見張り番と話をつけてやろう。……1日くらいなら家に泊めてやる」

「あんたの名前は?」

「俺はライジーン・オルランドだ」


 俺は敢えて名前を出した。すると、レフィーの兄の顔が紅潮する。


「ライジーンだと! アベルの大森林を焼き払った忌々しい者の1人じゃないか!」


 レフィーの兄は激昂した。ゲームの攻略本の設定集では、アベルの大森林の北部は、百年戦争の間、度々戦場になったと書いてある。そして最後の獅子の年に、エルフ族をも巻き込んだ大きな戦があり、そこでライジーンは共和国軍を大敗せしめた。


 しかし、その結果アベルの大森林は3分の1が焼けてしまったという事実がある。


「兄さん、人間にも理由があったのよ。ね、そうでしょ、ライジーン様?」

「駄目だ! 森の破壊者なんかを、里に入れるわけにはいかない」

「分かった。ただし、族長の側近の者に、マンドレイクの花を持っている者がいるとだけ伝えてくれ」

「……分かった。行くぞ、レフィー」

「助けていただいたのに、本当にごめんなさい」

「君が気にすることじゃない。お兄さんが行ってしまうから、早く追いかけなさい」


 レフィーはペコリと頭を下げると、兄を追いかけて去っていった。


「助けてやったのに、あの態度はないわーってオレは思うぜ」

「アルグレインは本を読まないから、僕が教えてあげましょう。エルフが人間を嫌うのは……」


 スヴェンはこの世界の歴史を解説する。北のウィンドレス王国と南のサンドール共和国、西のバストック連邦は古代の大帝国シャントートの末裔であり、オーダル大陸の覇権を争っているのだ。その中でもウィンドレス王国とサンドール共和国はアベルの大森林という魔石の鉱山になり得る地域をかけて、長年争っていた。


 ……とスヴェンは、俺にはもはや常識となっているゲームの設定を話し終える。


「なるほどなー、オレがエルフでも自分の住んでるところを、勝手に奪い合いされたら怒るもんなー」

「百年戦争は単にこの地域だけをかけた争いではないけれどな」

「ライジーンのおっさんは戦争やってた騎士団長なんだから、他にも知っていることあるんじゃないか?」

「そうだな……話しても良いんだが……おや? エルフがやって来たな」


 丁度良いタイミングだった。俺もライジーンの設定はゲームの攻略本の設定集、ネットでの知識しかない。下手なことを話してボロが出たら、どうしようもないし、ストーリーに影響するかもしれない。


「貴殿がマンドレイクの花を持っている者か?」

「ああ、俺の名はライジーン・オルランド。この名を聞いても中へ入れてくれるのか?」

「リヴェルカ王がお望みだ。我々は決して貴殿を歓迎しない。だが礼儀は心得ているつもりだ」


 エルフは高潔な種族だ。そして厳格でもある。その種族の有り様から、他種族からは、エルフは排他的だと言われることもあるが、実際は違う。認めた相手のことは、自分のみを顧みず助ける友情を尊ぶ種族だ。


「リヴェルカ王はの病は、そんなに酷いのか?」

「……まさか知っている者がいるとはな⁈ 貴殿は、深入りしない方が良い。王の側近は、ほぼ貴殿を敵視している。何かあっても、我々近衛隊だけで対処できるとは限らない」

「分かった、発言には気を付けよう」


 ルルガと名乗る美しい女性エルフの近衛隊長は、大樹の根を器用に、通りながら、幾重にも貼られている結界を一時的に解き、俺たち一行をエルフの里へと案内した。


 そして最後の結界に辿り着いた。しかしルルガは結界を解こうとはしない。


「どうしたんだよお? エルフのお嬢さん?」


 ヴェルファイアが疑問の声を出す。


「この結界は解くことはできない。心清らかな者しか通ることができないものだ」


 俺は真っ先に結界をくぐり抜けた。このエルフの里は隠しストーリの一つであり、マンドレイクの花を持っていないと、入ることができないのである。


 俺はゲームの中で、攻略のヒントをくれる存在であるエルフの王リヴェルカに、聞いてみたいことがあった。


 それはこれから先、俺がどう行動するかの道標になるものだからである。

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