第11話 成長ボーナスの失念
「オルランド様、ここはアベルの大森林のはずですよね?」
「ああ、そうだが……」
「何故レイスがこんなにうようよと現れているんですか⁈」
俺たち5人になったパーティーは、アベルの大森林の中を赤い竜馬に乗って、疾走していた。しかし、群れをなして襲い掛かってくる、レイスの量は半端ではない。途中途中で、レイスと戦闘に入ることが多くなってきている。
「いと慈悲深き神の光、眠れる死者を、蘇らせたまえ! リザレクション!」
『キャアアアアアアアアッ!』
「アルマ、ナイスだ。魔導士のジョブのレベルも、高くなってきたようだな」
「はい、ライジーン様。少し、レイスを浄化するの楽しくなってきました」
それにスヴェンが片眉を痙攣させて、アルマはおかしくなったと呟いていた。
「でもよお、ライジーンさんよお、ここはどうして森のモンスターではなく、レイスばかりが出るんだよお?」
「ここは前の百年戦争の時に、ウィンドレス王国とサンドール共和国が、何度も激戦を繰り広げた古戦場なんだ」
「だから、天国へ行けない魂が悪さをしているってワケかあ……。レイス相手には俺の種ケ島も効果が薄いから、アルマのお嬢さん頼りになっちまうなあ」
そう話している側で、アルマはまた現れたレイスの集団を、蘇生魔法で浄化させている。何だか本当に楽しそうだ。まあ、今まで守られっぱなしだったから、役に立てて嬉しいのだろう。
「リザレクション! リザレクション! リザレクション!」
蘇生魔法を連発し、レイスは付近からいなくなった。上級魔法であるリザレクションを連発しても、大丈夫なのはレッドホーク・ボスディン氏からもらったウィザードバングルの効果である。魔法を使う時の魔力量を10分の1まで減らす効果がある。その分魔法の効果は半減してしまうが、リザレクションは蘇生するだけなので、効果は半減しない。
ボスディン邸の執事にヒューゴーと倒したごろつきからの戦利品のポーションを半分売り、マジックポーションを大量買いしたので、魔力量はそう簡単には減らない筈だ。
「魔法って奥が深いですね! ライジーン様!」
「ああ、アルマ。楽しそうなのは良いんだが、ちょっと休憩した方が良いんじゃないのか?」
「大丈夫です。可哀そうなレイスを天国に、送ってあげたいんです。何だか苦しい、悲しいって言う声が聞こえる気がするんです」
「僕は……アルマみたいに……おかしくはならないぞ……」
スヴェンが頭を抱えて、震えている。確か、攻略本では幽霊の類が大の苦手と書いてあったのを思い出す。それに対してアルマは生き生きとしている。紫紺の賢者のローブを纏い、神聖な魔法を使う姿はまるで麗しい聖女のようだ。
「アルマ! もういい加減休憩しないとだめだぞ!」
「はーい、ライジーン様」
「ほら、マジックポーションだ。魔力量がずいぶん減っただろう」
「ありがとうございます。でもまだ半分も減っていませんよ?」
「へ⁈」
「?」
驚きでむせる俺を、柔和で雅やかな雰囲気を持つ、金髪金眼の少女は覗き込んでくる。どういうことだ? もう30発はリザレクションを放ったはずだ。魔力量が尽きかけていてもおかしくはないのに、どういうことだろう?
「ま、まあ、アルマがいればオレたちは、この森では無敵だな。だよな、ライジーンのおっさん?」
「あ、ああ、だが無理はさせられないから、休憩は充分とってからにしよう」
俺は先に竜馬の背に乗ろうとしているアルマを見つめた。おかしなことはしていないはず……。ゲームでの記憶をさかのぼる。俺も10年間触れていなかったせいで、忘れていることもあるのかもしれない。
アルマは賢者オルフェウスの杖を腰のベルトに差し込んだ。それを見て思い出した。
特定の武器には、装備してレベルアップした時に、成長ボーナスが付くものがある。オルフェウスの杖は魔力と魔力量を上げる効果があった。
「なるほどね、すっかり忘れていた。成長ボーナスもあるんだなあ。ということは、スヴェンとアルグレインも膂力と体力が高くなっている筈だな」
ただし、1人残念ながら、ヴェルファイアは最初からレベルカンストの為、真の最強にはなれないのだ。ごめんな、ヴェルファイアよ。しかし、もう序盤の序が終わる当たりで、アルマたち3人のステータスは俺よりも強くなったということか……。
技や魔法の練度も相当上がっているだろうな……。
技や魔法には練度というシステムがゲームでは実装されていた。技や魔法を使えば使うほど威力や精度が上がる。ゲームでは20レベルまであり、マスターするには一つの技や魔法につき1万回程使わなければならない。1レベルと20レベルでは、大体2倍ほどの効果の差が出る。
これは必殺技にも適用されていた。
何もしなくても強い必殺技を1万回も使うバカは俺くらいだっただろう。しかし【ライジーン一人旅】では必須だった。なので寝る時間を惜しんで、ライジーンをピンチにし必殺技の雷鳴無双斬を1万回使う地獄を見た覚えがある。
休憩中に食事を摂ることにした。ゲームでは食事を摂るとバフ、デバフがかかる仕様であったのを覚えている。バフ、デバフは効果が検証しづらかった。恐らくこの世界でも知らない間に、バフやデバフの効果を受けていたに違いない。
「ライジーン様、サンドイッチ作ったので食べませんか?」
その時悪寒が背筋を走った。アルマの料理……。
俺はイベントで見たことがある。アルマは闇鍋を作ったのかというような、世にも恐ろしい創作料理の数々をアルグレインにふるまうのだ。ケーキを除いて、アルグレインは悶絶し、地獄を見る羽目になる。
「俺は、腹がいっぱいだから、アルグレインに食べさせてやってくれ」
そう言うとアルグレインが目で、やめてくれと訴えかけてくるが、俺は非情にならざるを得なかった。パーティーリーダーが行動不能になったらマズい……。本音を言えば、アルマの料理の破壊力で、再び昇天するのではないかと、本気で心配した為だ。
「うぐぐぐ、腹が痛い。ライジーンのおっさん、いつか同じ思いをさせてやるからな」
アルグレインは恨めしそうに俺を睨んだ。目を逸らす俺。テンションマックスのアルマは鼻歌を歌っている。イベントでは、少しずつ腕が上達し、最終的には、料理コンテストで優勝するまでに成長するのだが、それは遠い未来の話だろう。
「今度はライジーン様だけに、腕によりをかけた料理を作りますね」
「ああ……楽しみに……待っているよ……」
そんなやりとりをしつつ、アベルの大森林の古戦場から離れることに成功した。森は深くなり、大気に満ちる魔力も強いものになってきている。大気に宿る濃い魔力は、景色を歪ませ、感覚を狂わせる効果があると聞く。
そして、濃い魔力がある場所には、強いモンスターが変異主として、現れるのが常だ。
「きゃー! 誰か助けて!」
大森林の深い場所で、女性の叫び声が聞こえた。竜馬を全速力で走らせると、タイラントスパイダーが、エルフの女性を粘着質の糸で、捕えている。
「レイスじゃねえなら、オレたちにも出番はあるぜ」
「アルマばかりが活躍して、退屈していたところです」
「俺はあのエルフのベッピンさんを助けるぜえ」
「私は糸を焼き払いますね」
そして、最後に俺が言った。
「みんな頑張ろう!」
「「「「了解!」」」」
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