第10話 マンドレイクを狩りまくれ!

 レベルマックスのヴェルファイアをパーティーに招き入れ、俺はしばらくアルマたち3人のレベルアップをする為に、冒険者ギルドの手配モンスターを狩ることに時間を費やしていた。ヴェルファイアは普通の魔銃の攻撃こそ固定ダメージだが、固有技、特に乱れ撃ちの威力が半端ではない。


 乱れ撃ちの威力は、武器の威力と使用者の攻撃力に依存する。ヒューゴーをレベルマックスにし、そのステータスを引き継いだヴェルファイアの攻撃力は、最終盤でのレベルになっている。だから、倒すのが面倒な手配モンスターを一撃で葬ってくれるので金策、アイテム収集に貢献してくれている。


「ライジーンさんよお、旅の資金は貯まったかよお?」

「ああ、もう少しだな。アルマたちにも修練を積ませないといけないしな」

「適当にモンスターを痛めつけて、お嬢さんたちに安全に戦わせれば良いんだよなあ?」

「ああ、その通りだ。ここらの敵はまだアルマたち一人で、相手にするのはキツいからな。ヴェルファイアがいてくれて助かるよ」

「男に誉められても、嬉しくなんかねえぜ」


 ……と言いつつ、得意そうな顔をするヴェルファイア。嘘を嫌う、正直者の彼は、気持ちがすぐ顔に出ると攻略本の設定集に書いてあったのを思い出す。生い立ちは、戦争孤児で、先代の盗賊団のリーダー隻眼のガリオスに、拾われ育ったとあった。


「ライジーンの旦那よお、次に行く当てはあるのかい?」

「このウィンドレス王国を出て、アベルの大森林の中のエルフの里に行こうと思う」

「エルフの里だってえ、あそこは認められたものしか、入れない聖域なはずだぜえ」

「大丈夫だ。当てならある」

「そっかよお、まあ、あんたなら上手くやってくれそうな気はするぜえ」


 ゴミ山の上で、アルマたちの戦闘を見ながら、ヴェルファイアと話をする。アルマたちはヴェルファイアの魔銃の固定ダメージで弱った敵を堅実に倒し、レベルがまた上がったようだ。新しい剣技や魔法を使っている。


「ライジーン様、私、新しくリザレクションの魔法を覚えました」

「よし、じゃあ鍛錬は、これで終わりにしよう」


 アルマが蘇生魔法リザレクションを覚えるのを待っていたのだ。俺のやっていたシュミレーションRPGアンリミテッドブレイブタクティクスでは、蘇生アイテムが中盤にならないと手に入らない。これから出るアンデッドモンスターを一撃で倒せるリザレクションは必須だ。勿論仲間が死んだら、使うべきなのだろうかもしれないが、ゲームのように復活できるとは限らない。死なないことを前提で、進めるべきだろう。


「親分ー、レッドホーク・ボスディン様が、皆さんをお呼びです」

「わかったぜえ!」

「うっし、じゃあお遣いクエストをクリアして、このムスタディオからもおさらばだな」

「おっさん、お遣いクエストってなんだ?」


 いつの間にか近くに来ていたアルグレインが質問する。


「この都市の主からの頼みを聞くだけだ」

「ふーん、偉いんだから、自分とこの兵士を使えば、済む話だと思うけれどな」


 ゲーム世界の住人が身も蓋もないことを言う。俺は口角をやや不器用に緩めながら笑うのみだった。


「あなたは、やはり先の大戦の英雄ライジーン・オルランド様でしたか……」


 レッドホーク・ボスディンは静かに驚いている。俺ことライジーンは、政敵ウルガラン公から謀反の疑いをかけられ、リーダーを務めていた極天騎士団から追放されてしまった。極天騎士団の本拠地は、機械都市ムスタディオから北にある魔法都市ラムザにある。支部も当然ムスタディオ程の規模の都市には存在するのだ。


「早くこの都市からお逃げ下さい……と言いたいことろなのですが、孫のルカが熱病に侵されていまして、助けていただきたいのです。報酬は秘蔵の品を差し上げるので、どうか引き受けていただけないでしょうか」

「良いでしょう、熱病ということは、ムスタディオの近くの森のマンドレイクを、一匹狩ってくれば良いですか?」

「流石は大戦の英雄、話が早くて助かります」


 そう言うわけで、俺たちはマンドレイク狩りを行いに、ムスタディオ近郊の森に向かった。森は都市の近くにあるにしては深く、静寂に包まれている。


「おらあ、乱れ撃ち!」


 先ほどからずっとヴェルファイアの乱れ撃ちを使って、植物に足が生えたモンスターであるマンドレイクの乱獲を行っている。マンドレイクから採れる万能薬は、一個レッドホーク・ボスディンに渡せばいい。しかし貴重な状態異常を完全回復させるアイテムなので、序盤ではここでマンドレイクの乱獲をするのがゲームの常識だ。


「ライジーン様! マンドレイクの花というアイテムが手に入りました。どういったものなのですか?」

「ただのレアアイテムだ。だがこれが必要だった。うっし、もうここには用はない。みんなムスタディオに戻ろう」


 大量のマンドレイクの死体を後に、ムスタディオのガーランド邸に向かった。万能薬は既に所持数制限まで手に入っている。その内の1つをレッドホーク・ボスディンに渡すと、寝室で肩で息をしている孫のルカ・ボスディンに飲ませるイベントが発生した。


「お爺ちゃん?」

「おお、ルカよ。目が覚めたか! もう苦しくはないか?」

「うん、身体もだるくないし、熱もなくなったみたい」


 抱き合う祖父と孫のほほえましい場面。しかしそれはすぐに終わることを俺は知っている。


「ボスディン様、極天騎士団の上級騎士が、ライジーン様を匿っているのではないかと現れました!」

「何⁉ 真か?」

「はい、騎士団長であるザルカバード・デュナミス伯のサイン入りの告発状を持っています」

「くっ、息子の仇め。表立ってライジーン様が、行動できないことを知ってのことだな」


 レッドホーク・ボスディンは所持金として1万ディアスと赤い竜馬そして秘蔵のウィザードバングルを預けてくれた。そして屋敷の裏から俺たちに、逃げるように言う。


「それでじゃあボスディン様たちが、危険な目に遭うかもしれないではないのですか?」


 アルマが心配そうに言うと、ヴェルファイアが魔銃を取り出し寝室を乱れ撃ちで破壊した。呆気にとられる一同。


「これだけやれば、脅されたってのも嘘じゃなくなるだろうぜえ」

「恩に着るヴェルファイア……義父のガリオスのことは任せろ。生き残った団員もな」

「それじゃあ、ボスディン様。今度会う時は、とびっきりのプレゼントを用意しておいてくれな」


 俺はそう言うと、ヴェルファイアたちの後を追った。次にムスタディオに寄るのは、ゲームの中盤の終わりになってからだ。ライジーンのみでゲームをクリアした時の経験と頭に焼き付いているゲームの知識を活かして、予測不能のストーリーの展開に対応しなければならない。


「ライジーン様、早く!」

「おお、アルマ。しっかり掴まってろよ」


 俺たち5人の仲間は竜馬を駆り、ムスタディオ南のエルフの里があるアベルの大森林に針路を取った。

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