第9話 ゲストキャラを何故最強にするのか

 俺たちはボスディン邸に侵入した。出口はなんと初代ガーランド公の肖像画の裏でだ。後で弁償しろと言われても、もうガラクタ屋のジョニーに20万ディアスは払ってしまったので、ほぼ無一文だからどうしようもない。


 静かにボスディン邸の廊下に、着地するヒューゴー以下盗賊団は、足音一つ立てはしない。対してこちらの2人はガチャガチャとミスリルの武具を鳴らす。


「何者だ!」

「せいや!」


 屋敷を警戒していた兵士を瞬時に気絶させるヒューゴーの技は神技といっても過言ではないだろう。他の盗賊団のメンバーは方々に散り、屋敷を警備している兵士の不意を突き無力化させていく。フォーロッド盗賊団を包囲するのに兵力を割いているからだと、また一人敵兵を沈黙させてヒューゴーが伝えてくる。


「敵の配置も展開も同じだな……」

「どうかされましたか? ライジーン様?」

「いや、何でもない。ただ少し引っかかることがあってな」

「私で良ければ相談……いえ話し相手になりますよ」


 アルマは笑みを返してくる。本当に良い娘だ。惚れ直してしまう。


「いや、俺たちが来てヴェルファイアに勝った途端この始末だろ? なんか胸騒ぎがしてな」

「私も、良くないことが、起きそうな気がしていて不安です」

「アルマの勘はよく当たるんだったよな……」

「?」


 アルマはキョトンとした顔をする。アルマ・ゲオルグ途中からアルマ・アーカーシャと姓を変える少女は、並外れた勘の良さ――予知と言っても過言ではない――を持っている。ストーリーが変わり始めている中で、その設定は忘れてはならないものになるかもしれない。


 本来であれば、一度ホルボース・ボスディンに会い、不興を買って追い払われ、その後盗賊団のアジトが包囲される。俺は一抹の不安を覚えた。


「ライジーン様、屋敷の中は制圧できました。後はホルボース・ボスディンの部屋を残すのみになります」

「その前にヒューゴー、お前は俺と一緒に12番街のスラムでごろつきをブチ倒しに行くぞ」

「「「は⁈」」」


 アルマを含めて仲間3人の顔が青ざめる。それはそうだろう。こんな時に何をこの爺さんは言い出すのだとアルグレイン当たりは考えているに違いない。しかし伊達や酔狂でこんなはたからみたら、気が狂っているとしか言えないことはやらない。俺は屋敷をアルマたち3人とヒューゴーの部下に任せて、12番街のゴミ山に向かった。


「よお、良い装備品持ってるじゃねえかよ、置いていくなら命だけは勘弁してやるぜ」


 昨晩来た時と同じようなセリフを吐いて、ごろつきが集まってきた。俺はヒューゴーに敵を最後の1体にするまで倒せと命じる。ヒューゴーは訳が分からないという顔をするが、俺がパーティーリーダーだからか、言うことを聞く。


「旋風螺旋脚!」

「「「「ぐええ!」」」」


 ヒューゴーの固有技で敵が吹き飛ばされる。ゲームではヒューゴーが使えるこのステージだけセーブデータに残す者や不正なデータ改造を使ってヒューゴーをその後の旅にも同行させる者もいる程、人気がある脇役である。ダントツ1位で人気があるのは良くも悪くも俺ことライジーンなのだが。


「こっちに来い、カネヅルがいるぞ!」


 残り1人になったごろつきがそう喚くと、ゴミ山からゴミのようにごろつきが補充される。かれこれ10時間はヒューゴーに倒させている。そろそろアレができるだろうか?


「ヒューゴー、天元紅蓮昇波……使えるようになったか?」

「はい、今まで使えなかった技ですが……不思議と使えるようになったと感じます」

「じゃあ使ってみてくれ」

「分かりました、天元紅蓮昇波!」


 敵のごろつき20人のど真ん中に紅蓮の炎の柱が上がり、敵を天高く打ち倒すヒューゴー。レベルがカンストした証拠だ。これを待ってたんだ。


「今までにない力が湧いてくるようです」

「よし、それじゃあボスディン邸に戻ろう」


 ゲーム的な時間の流れなのか約10時間が経過しても、空は明るくならなかった。イベント中は時間は固定だから仕方ない。まあそのおかげで最強のヒューゴーが作れたわけだが……。


「ライジーン様、もう1時間も経っていますよ」

「2人で仲良く遊んでいたわけじゃねえよな? おっさん?」

「流石にこの状況下では慎むべき行動だと僕は思います」


 3人からお叱りを受けてしまった。しかし、これには意味があるのだ。それが分かるのはしばらく経ってからなのだが、そろそろホルボース・ボスディンに会いに行くか……。ちなみにごろつきが落とす回復ポーションが、山のように手に入ったので、これから先は少し楽ができそうだ。


「ここがホルボース・ボスディンの寝室になります」


 ヒューゴーの部下がそう話す。俺もマップは覚えているので、説明は無用である……とは口が裂けても言えない。


「入ったら、後には引けませんよ?」

「分かった、突入しよう」


 俺はヒューゴーの「はい」か「いいえ」の選択肢を待つようなセリフに答えた。


「我々の他は屋敷に戻ってくる敵兵に備えています。ホルボース・ガーランドに天の裁きを!」


 そう言って先頭をヒューゴーが走ると、一閃が走る。そして血を吐き倒れるヒューゴー。そこに居たのは騎士ザルカバードだった。ヒューゴーは態勢を立て直し腹の傷を抑える。


「愚かな盗賊団の一員よ……ミルディオスの宝珠は私が手に入れる……邪魔をするな!」


 ベッドには血まみれになり、凄惨な骸となり果てたホルボース・ボスディンが倒れている。


「ミルディオスの宝珠……だと!」

「アルマには滅びの神獣の魂が宿っているんだ。それをザルカバードは操りこの世界を滅ぼそうとしている」

「なんですと!」

「1つ訂正です。滅ぼすのではなく、浄化。元に戻すだけです」

「民草のことを滅ぼすなど、義賊フォーロッド盗賊団の副リーダーである、この疾風のヒューゴーが許さん!」


 ヒューゴーは傷を受ける前よりも、素早い動きでザルカバードに迫る。気迫で押されるザルカバード。その隙を瀕死である筈のヒューゴーは見逃さなかった。


「天山爆砕撃!」

「なに⁈ 宝珠にヒビが!」


 ザルカバードの持っていた金色の透き通る宝珠は、一筋のヒビが入りバラバラに砕け散った。


「ま、まさかこんな盗賊ごときに!」

「盗賊を……舐めるな……!」


 俺は不発弾を、ザルカバードに投げれる範囲にいたが、ヒューゴーが前にいて投げられない。奴さえ倒せばシナリオはこちらに有利になるはずなのに……。俺を転生させた神の強制力か何かか?


「くっ、この私の顔に傷までつけるとは! ここは退かせていただきます!」


 ザルカバードは去っていった。そして前のめりに倒れるヒューゴー。俺は、10時間以上ごろつきを倒しに倒した戦友の身体を受け止める。できれば助けたかったが、ヒューゴーを救う裏技もバグ技もない。


「リーダーが……無事に帰って……来たら……俺は……敵にうしろ姿を……見せずに……倒れたと……伝えてください」

「分かった、お前は俺の仲間だ。よくやってくれた」


 想定では別の主人公のストーリーを乗っ取り、宝珠をとある人物に託すストーリーを選ぶはずだったのだが、失敗した。そのルートならヒューゴーは死なずに済んだ。


「ヒューゴー!」

「リーダー……生きて……会えて……良かった……」

「もう喋るな……!」

「どうか……俺の分まで……」


 ヒューゴーは息絶えた。ゲームでもこの屈指の名シーンを好んでいた俺は胸に熱い思いが湧き上がってくる。


 その後、先代のレッドホーク・ボスディンが現れ、事態は収束した。ホルボース・ボスディン公はザルカバードに操られていたのである。アルマを奪うため盗賊団は包囲されたらしい。結局約10人の部下を残して、フォーロッド盗賊団は事実上壊滅してしまった。


 日が夕暮れる中、ヒューゴーの墓の前で、ヴェルファイアは銘酒ヘブンズドロップを、死んだヒューゴーと飲み交わし、何かを決意したようである。


「俺はザルカバードを倒す。仲間に入れてくれねえかあ?」


 レベルカンストのヴェルファイアが仲間になった瞬間である。

 ヒューゴーとヴェルファイア、2人はゲームの容量の都合上同じステータスレベルを共有していたのだ。


 答えは勿論イエスである。

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