第8話 難敵を倒す必勝法の確立

 フォーロッド盗賊団の首領ヴェルファイアは、魔銃を取り出し、戦闘態勢に入った。魔銃は、無属性の固定ダメージを、遠距離から与えるというもの。足の遅いキャラクターは近づく間もなく打ち倒されるのが厄介だ。そしてライジーンは、足が2番目に遅いキャラクター。1番遅いキャラクターは、ヴェルファイアだ。しかし実質射程距離無限の魔銃使いの為、足の遅さは不利にはならない。


「勝負に勝ったら要求は呑んでもらうからな」

「男に二言はねえよお」


 本来であれば、序盤に育ったアルマたちのメンバーが、相手をし倒すのであるが、一昼夜かけてこの機械都市ムスタディオに辿り着いてしまった。能力は低いと言っても、ライジーンの方が総合的に見るとマシなのである。


 ヒューゴーの合図で盗賊団のアジトで決闘は開始された。ゲームの世界の都合なのか、外に出て戦うわけではないようだ。戦闘が始まると、ヴェルファイアは物影に隠れた。魔銃使いの厄介な所は遮蔽物があっても、攻撃できるところでもある。仮に投擲攻撃の範囲に入っても、遮蔽物があると攻撃がミスするのだ。


 だから単純な石ころの投擲では倒せない。しかも序盤の鬼門なのは、中途半端にダメージを与えてもポーションで自動回復してしまうところ。石ころのダメージでは、半分も体力は奪えないのだ。


 俺はこの戦闘の為だけに20万ディアスの所持金をガラクタ屋のジョニーに支払った。俺は生前おそらくゲーマーの中で初めてライジーンを初期から使えるバグ技を見つけたという自負がある。【ライジーン一人旅】という名のラスボスを倒すまでの一発撮りの動画も作り、好評だった。それはさておき、ライジーンでヴェルファイアを倒すには2つのアイテムが必要だ。これからそれが正しかったかどうかが分かる。


 魔銃の狙撃音がするが、魔力の弾は俺の体に傷をつけることなく、はね返りヴェルファイアの方へ飛んでいった。


「な、に……魔銃の弾をはね返しただと……!」

「俺はガラクタ屋のジョニーからリフレクトバングルを買ったんだ」

「リフレクトバングルだと⁈ ただ魔法をはね返すだけのアイテムだろうがあ!」

「魔銃の攻撃は魔法と同じ仕様なんだ」

「……仕様?」

「あっ、間違えた。……同じ力なんだ。だからリフレクトバングルでも攻撃をはね返すことができるんだ」


 ヴェルファイアたち盗賊団の連中は驚きで声が出ないようだ。


「俺が遠距離から攻撃するだけの無能だと思ったのかあ⁉ おっさんよお?」


 これが次の鬼門。魔導士などの遠距離攻撃が当たると激昂して、カタナによる接近戦を挑んでくる。普通に魔導士などのジョブの育っているメンバーが戦っていれば、移動速度が低いヴェルファイアは近づく前に倒されてしまうのだが……。あいにく俺は、ゲームのステータス最弱キャラであるライジーンだ。もう単純な石ころの投擲では雑魚敵を倒すのにも苦労する。


「行くぞ、おっさんよお! くたばりやがれ!」

「そりゃ、これで終わりだ!」

「がはっ⁉」


 俺はとある物を投げつけた。それは真っすぐに、ヴェルファイアの顔に直撃する。ガンッと金属音がした。当たったのはこれまたガラクタ屋のジョニーから、大量に購入した不発弾だ。投擲武器の中で序盤から中盤の終わりにかけて、最強の攻撃力を誇る。


 投擲武器の攻撃力は、今俺が装備しているゲーム内準最強武器エクスカリバーに依存する。その上で投擲武器自体の攻撃力も相まって中盤までで最強の攻撃方法を俺は手に入れたのだ。ちなみにリフレクトバングルはライジーンの雑魚の魔法でも一撃死する魔法耐性を補うため、これからほぼずっとつけっぱなしになる。


「リーダー、大丈夫ですか⁈」

「ああ、俺は負けたのかあ?」

「お前は強いが、俺の計略の勝ちだ」

「ふはっ、ふはははは! こんなに見事に負かされたのは、ガリオスの親父と喧嘩した時以来だぜえ」


 ヴェルファイアは心底愉快そうに笑う。ゲーム中でもカラッとした良い性格のキャラクターだった。


「アルマのお嬢さん、決闘は抜きにして俺の嫁にならねえかあ?」

「嫌です。私、ライジーン様の方がずっとずーっと大好きですから」

「ま、そういうことだ」


 俺はちょっと気分が浮かれた。だがすぐに水を差される。


「お頭、ボスディン公の騎士たちがアジトを包囲しています!」

「なに⁈ 奴め、親父をあれだけ助けてやったのに、手の平を返す気かあ⁉」

「抜け道まで包囲されていますぜ!」

「まあ、安心しろ、お前たち。俺はフォーロッド盗賊団の首領ヴェルファイア様だぜえ! この部屋の裏にお前らにも、秘密にしていた隠し通路がある。ただし抜けた先はボスディン公の屋敷の中だあ。先代には悪いが、現当主には痛い目に遭ってもらわなければいけないみたいだなあ!」

「わ、私たちも手伝います。街の子供たちから聞きました。フォーロッド盗賊団は悪を裁き、弱者をいたわる義賊だって」

「僕も同感です。どうせボスディン公には、会うことになっていたわけですしね」

「まあ、成り行きだけど、オレはヴェルファイアの親分に味方するぜ」


 ヴェルファイアたち盗賊団とアルマたち3人は俺を見つめてくる。


「ボスディン公に早く会いに行こう、何故今のタイミングで盗賊団を潰そうとしたのかも気になるしな」


 フォーロッド盗賊団が現当主であるボスディン公に、襲われるのはもう少し先のことなはずだ。何か間違いを犯してしまい、予定の別ルートに入れなかったのか? とりあえず気になることは山ほどあるが、ガーランド邸へと向かうのが先決だ。


「ヒューゴー! お前がおっさんたちを案内しろお! しんがりは俺が務める」

「リーダー! 危険すぎます! 俺が代わりにやります」

「俺にはこの自慢の愛銃、種ケ島がある。こいつがあれば、10や20の敵くらい赤子の手をひねるより簡単に倒せる。お前は接近戦しかできない。しんがりには適してない」

「……リーダー分かりました。あとでヘブンズドロップの酒を飲み交わしましょう」

「あれは……良い酒だからなあ」


 ドンッと高そうな肖像画の下の鉄板をヒューゴーが開け、盗賊団員に引き続いて、俺たちはボスディン邸を目指した。どうやら地下道のようだ。道は直線に作られていて、さながら防空壕のような雰囲気を感じさせる。


「ライジーン様、あの人、ヴェルファイアさんは大丈夫でしょうか?」

「ああいうヤツは一番長生きするタイプだから、心配しなくて大丈夫だ」

「それにしても、ボスディン公ってのは、ヒデー奴だな。利用していたくせに、邪魔になったら簡単に切り捨てるなんて」

「先代のレッドホーク・ボスディン様は、大局的にものを見て、正義感のあるお方だったのだが……現当主のホルボース・ボスディン様は、金に汚く、上納金を何度も値上げしようとしてリーダーと仲が悪くなっていたんだ」


 ヒューゴーが憤る。それに反して俺は機嫌が少しばかり良い。ここからヒューゴーが仲間に加わるのだ。ククリナイフの使い手で、風属性魔法の使い手であり、ゲーム中盤で強力なジョブであるニンジャに就いている。


 俺はストーリーの変化に戸惑いつつも、ヒューゴーを使ったある実験がうまくいくかどうか少し楽しみであった。

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