第7話 ヒロインは単独行動にお怒りです

「ぎゃああああ、身体が焼ける!」

「に、逃げるぞ、魔導士がいるなんて聞いていない!」


 俺を襲おうとしてきたごろつき共は、皆アルマの魔法によって、退けられた。アルマが使ったのは序盤では大活躍する対集団戦用魔法サウザンドファイアボール。元々魔導士と魔法剣士にジョブ適正があるアルマに、更に賢者オルフェウスの杖で魔力が上がっているのだ。鬼に金棒だろう。


「大丈夫ですか? オルランド様」

「ああ、スヴェン。おかげで助かった。よく場所が分かったな」

「アルグレインが後をつけようって言ったんですよ。1人で行かせるわけにもいかなかったんです」


 アルマの方を見れば、近くをアルグレインが守っている。魔導士は詠唱中が無防備になるから、防御力の高い上級騎士や回避率の高いニンジャで守るのがセオリーだ。ちなみに俺ことライジーンは専用ジョブ剣王に就いている。アビリティの剣王技は全ての剣技を使えるという一見チートのようにみえる、が実態はステータスの低さで、器用貧乏にすらなれないという始末だ。


「おっさん、なに夜にコソコソと出かけていくんだよ。俺たち仲間だろう? 一言なんか言ってくれよ」

「心配してくれたんだな、ありがとう」

「オレよりアルマが1番心配していたぜ」


 ゴミ山から下りてきたアルマと目が合う。少し怒気をはらんでいるような、悲しんでいるようなそんな雰囲気だ。


「ライジーン様、私怒っています。何故行き先も告げずに、危険なスラム街に行ったのですか? 私たちはそんなに信用できませんか?」

「いや、アルマ。これには理由があってだな……話を聞け」

「嫌です、聞きません。これからは1人で何でも抱え込まないでください」


 アルマは俺の胸をポカポカと叩いてくる。涙目になっていて、本気で心配してくれていたようだ。これからは単独行動は、できるだけとらないようにしよう。心配をかけるのは、心苦しい。せめて一言伝えてから行動するか。アルグレインが言うように、俺たちは仲間だ。お互いを信頼しなければ。


「それで……ライジーン様は何故こんなスラム街に、しかもこんな夜更けによる必要があったんですか?」

「それはな……」

 

 来たるヴェルファイア・シープフェザーとの邂逅に、備える必要があったのだ。曲者であり、ゲームでの強者の一角である。ライジーンを初期の仲間にするバグ技を使って、ライジーンのみで、ゲームをクリアしようとした時、一つ目の鬼門だったのが、大盗賊ヴェルファイアとの戦いだった。


「そうだったんですか、時間がなかったんですね。何も知らずに怒ってごめんなさい」

「いや、それは俺が悪い。確かに単独行動は避けた方が良い。これからは気を付けることにするよ」


 もう大分遅い時間なので、アルマたちと踊る子馬亭に戻った。朝にはヴェルファイアとの連絡が付くはず。そこからが正念場だ。取り合えず、俺も一日中動き回ったし、疲れている。宿に着くと、泥のように眠った。


 朝早く、俺たち4人は朝食――と言ってもパンにミルクだけだが――を食べていた。隻眼のガリオスが下りてきて、お目当ての客人が来たと告げる。俺はミルクを飲み干し、客人に会うため地下から上の階に足を運んだ。


「お前さんが、大親分に用事があるって客か? こんな爺だとはな……」

「名前を聞いておこう。ただの下っ端には見えないな」

「俺は疾風のヒューゴー、フォーロッド盗賊団の副リーダーだ」

「じゃあ俺たちを案内してもらおうか」


 ここまでの会話は、ストーリー通りだ。俺は遅れて上がってきた3人に、ヒューゴーを紹介した。盗賊団にしては、優男過ぎる。だが、こちらが相当な装備をしていることを、ちらりと確認しているのが見えた。


「お前さんたちは、随分金がかかる装備をしているじゃないか? そっちの少年たちはミスリルの武具を装備しているな。さぞ名のある騎士団か傭兵団の者なのだろう」

「悪いが、答える気はない。さっさとヴェルファイアのところへ案内してもらおうか?」

「少し話を聞いただけじゃないか? つれないな、世間話だろ」


 随分とやりにくい相手だ。まあ、こちらからボロを出すようなことはないだろう。アルマたちには俺のことはおじ様と呼ぶように言っていた。


「おじ様、これから盗賊団のアジトに行くんですか?」

「まあ、大丈夫だ。昨日話した通り準備は万端だしな」

「おっさんよ、俺たちはアルマを守ってればいいんだよな」

「おじ様に失礼だぞ、アルグレイン」

「あいあい、おじ様、おじ様ね」


 そのやりとりを見て、ヒューゴーは顔色を変えた。ここも予想通りだ。後は盗賊団のアジトに行って、ヴェルファイアと話をすれば、ことはすぐに進むだろう。


「お前の親分の盗賊家業は、最近上手くいっているのか?」


 ヒューゴーの顔色が変わった。おそらくはゲームの設定通りならば、上手くいっていないだろう。フォーロッド盗賊団を私兵のように使っていたボスディン公が代変わりし、冷遇され始めているはずだからだ。


「……おっさんよ、余計なことに首を突っ込むと、親分が黙っちゃいねえぜ」


 凄みを利かせて、ヒューゴーは脅して来るが、こちらは全く怖くない。まだ盗賊団とは対峙しないからである。


 ヒューゴーは12番街に着くと、汽車の走っている橋の下にいる男と話をした。男は、こちらを一瞥すると、ヒューゴーに頷く。


「こっからは秘密のルートだ。目隠しをしてもらうぞ」

「分かった、従おう」


 どぶの腐った匂いがする道を通った後、水路と思しき道を一列になって進む。俺は覚えていた。あの橋の下の下水道への入り口を降りて、地下にあるアジトに招かれることを。


「目隠しを外してやれ、おうおう可愛いお嬢さんまでいるじゃねえかあ」


 赤毛に青い瞳をしたフォーロッド盗賊団の首領、ヴェルファイア・シープフェザーの姿が現れた。ゲームの攻略本の挿絵と瓜二つだ。


「おっさん、あんたは、先の大戦での英雄ライジーン・オルランド伯その人だよなあ?」

「やはり抜け目ない。お前を頼ってきたのは、正解だったようだ」

「俺の名前はそう広くは知られていない筈だ。それを知って、依頼をするとは中々やりづらい相手のようだなあ。要求を聞こうかあ?」

「ボスディン公に会いたい。その場を作って欲しい」


 ヴェルファイアは青い目を細めた。そして豪奢なソファーの上で腕組みする。


「良いだろう、ただしそこの娘を俺の嫁に寄こせよお。意志の強そうな顔が気に入ったあ!」

「「「はあ⁈」」」


 素っ頓狂な声を出す3人を尻目に、俺は交渉した。


「それはできない。もしアルマが欲しいなら、俺と決闘しろ」

「ライジーン様!」

「アルマ、昨日話しただろ。ヴェルファイアは、見初めた女を賭けて戦うだろうと」 


 ヴェルファイアはソファーから立ち上がり、その勝負乗ったと叫んだ。


「決闘のルールは相手に膝をつけさせた方が勝ち。武器、魔法すべて何を選んでも文句はなし。これでどうだ?」

「てっきり、騎士道精神旺盛なルールを求めてくると思ったが、良いだろう。気に入ったぜ、ライジーン様よお」

「では今から始めるか?」

「焦るなよ、準備の時間くらいくれてやるからよお」

「必要ない。お前は俺に絶対に勝てない」

「そうかよ、俺の魔銃の餌食にそんなになりたいのかよお」


 そう言うと、ヴェルファイアは、魔力を打ち出す旧時代の武器、魔銃を背中から抜き出した。

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