第6話 大金はガラクタ屋に注ぎこめ!

 機械都市ムスタディオに辿り着いたのは、深夜になってからだった。ムスタディオは1番街から12番街まで区分けされており、1から6番街は住居、7から11番街は太古の機械を掘り出し、主に飛空艇を作る造船ドックになっている。そして最後の12番街は魔石の採掘でいつも濃い魔力が漂っており、蒸気街と呼ばれていた。しかし、その実態は日雇い労働者のスラムであり、治安は最悪である。


 まずは安全にゆっくりと休息を取らなければならない。特にアルマは、何日も気が休まる日がなかったはずなので、すぐに休むべきだろう。取り合えず、俺はライジーン・オルランド伯爵なので、所持金は序盤にしては多すぎる二十万ディアス持っている。


「オルランド様、アルマの体力が限界です。宿で休息を取った方が、良いと思います」


 こっそりとスヴェンが耳打ちしてきた。その通りだなと返事を返す。


「3人とも6番街の宿屋で休息を取ろう。知人というわけでもないが、信頼できる人物が営んでいる宿だ」

「機械都市の6番街とは、貴族が泊まるような宿ばかりだと物語で読んだことがありますが、お金の方は大丈夫なのでしょうか?」

「所持金は20万ディアス程あるから、しばらくは心配しなくて大丈夫だ」


 3人は呆気にとられている。それはそうだろう。ゲームの攻略本の設定集によると、1か月で平民が稼ぐ給料が200ディアスなのだ。その1000倍も所持金として持っているのは驚いても仕方ない。だがすぐにその所持金もなくなる運命にあるのだが……。


「あそこが踊る子馬亭だな、あそこの宿の親父は盗賊団の元リーダーなんだ。金を払えば、素性を明かさなくても泊めてくれるんだ」

「すげえな、ライジーンのおっさんにかかれば、これから先、簡単に敵を倒せるかもな」

「アルグレイン、そうそう物事は上手くいかないのが常なんだ。覚えておけよ」


 俺は竜馬を降りると、先に1人で宿の中に入った。中では黒い眼帯をつけた禿頭の壮年の男性が椅子に座っている。戦闘でできたのか無数の傷が顔中に付いていた。


「こんな深夜に泊まりに来たのかい? 人数は?」


 俺が、1人で来たわけではないことを察したらいい。やはり、元盗賊団リーダー隻眼のガリオスの名は伊達ではないようだ。


「俺を含めて4人だ。竜馬も2頭いる。できるだけ目立たない部屋をあてがってくれ」

「分かった、居心地は悪いかもしれんが、地下の隠し部屋に案内しよう」


 ストーリーでは、ここまで体力が尽きかけていたアルマたちが、この宿の前で気絶し、隻眼のガリオスに助けられるのだ。その時、あてがわれるのが地下室である。


「先に宿代を頂こうか。4人で200ディアスだ」

「良いだろう。ついでに大盗賊ヴェルファイアに会いたい。追加で100ディアス払う」

「あのきかん坊に会いたがる酔狂な奴が、いるとはな」

「育ての親のくせに酷い言いざまだな」


 そう言うとガリオスは目を丸くする。しまった、ヴェルファイアがガリオスの義理の息子だということは、ストーリーを進めないと分からないことだった。


「俺と奴の関係を知っているとは、只者ではないな。良いだろう、奴とはすぐに会わせてやる」

「それとガラクタ屋のジョニーに会えるようにしてくれないか?」

「あんなイカれた野郎に何の用だ? ガラクタと言っても危険な品しか集めていない危ない奴だぞ」

「話す義理は無いな。払った代金分の仕事はしてもらおうか」


 ガリオスは、ふんと鼻を鳴らし、鍵を渡してきた。そして外に出て、アルマたちに中へ入るように言う。地下室に案内するとアルグレインが不満を漏らした。


「まるで独房じゃねえか、オレたち宿のお客様だろ」

「まあ、そんなに怒らないの、アルグレイン。ライジーン様なら1番正しい選択をしてくれるような気がするわ」

「僕もアルマの意見に賛成だな。ガングレリ要塞からここまで、オルランド様がミスをしたところはなかった。むしろ状況が良くなっている」

「で、おっさん、ここからどうするんだよ。ノープランじゃないんだよな」


 俺は勿体ぶって咳をしてから、話をし始めた。ミルディオスの宝剣が壊されてから、次にアルマのことを生贄にする為の道具をザルカバードは探しているはずなのである。別の主人公のルートに入ってしまうが、問題はないだろう。


「ミルディオスの宝珠という、神獣の魂を吸い込み、意のままに操れる秘宝を持っている人物が、この機械都市ムスタディオにいる。ザルカバードより先に手に入れて、守ってくれる人物に託そうと思っている」

「なるほど、では私たちもできる限り、お手伝いさせていただきます」


 3人が寝静まると、俺は隻眼のガリオスに、ガラクタ屋のジョニーにお目通りを願う。本当にイカれた野郎なんだぞ、とガリオスは繰り返しボヤいていた。


 12番街の地図を貰い、合言葉を教えてもらった。ゲームの記憶がある俺は、合言葉もガラクタ屋のジョニーの店の場所も頭に焼き付いている。しかし、ストーリーを飛ばしたら何が起こるか分からない。


 12番街のゴミ山の奥にそのボロ小屋は立っていた。お世辞にも人が住むような建物には見えない。だが、ここで俺はあるものを入手しなければならないのだ。


 ドンドンとボロ小屋の扉を叩く。すると中からかん高い声が聞こえた。


「ラッキービーストの尾っぽは?」

「虹色ではなくにび色だ」


 ガチャリと鍵が開き、腕に獣のタトゥーを入れている天然パーマの男が現れた。目は焦点が合っておらず、夢でも見ているかのようなにやけた顔をしている。


「よお、共和国の同志よ、何かご入用かな? 俺のコレクションは天下ピカイチだぜ!」

「ああ、一番良いやつを頼む」

「ラッキービーストを倒す勇者だな! あんたは! 良いぜ、高くつくが売ってやろう」

「約20万ディアスある。全部買わせてもらおう」

「ひゃほおおおい。こりゃあお目が高い。秘蔵の品もくれてやらあ」


 俺は、ジョニーからラッキービーストボム通称不発弾を可能な限り買った。ついでにゴミクズと言う名のアイテムもかなりの数手に入るが、それは今はどうでも良い。


「秘蔵のリフレクトバングルだ。俺が共和国の兵士だった頃、褒美でもらった宝物だ。ラッキービーストを必ずや倒してくれよ」


 20万ディアスも使って、不発弾とリフレクトバングルを買ったのには訳がある。旅の資金は冒険者ギルドの手配モンスターや賞金首を倒せば、なんとかなるだろう。ちなみにジョニーの言うラッキービーストとは、この世界に一匹しかいないレアモンスターである。


 俺はゲーム中最弱のキャラクターであるライジーンなのだ。要塞で必殺技を使うため、腹を刺した時の死への恐怖は忘れようもない。だから可能な限り、対策は施したいのだ。


 ついでだが、残った20ディアスでジョニーから、ジョニーの飼っているドブネズミの餌を買っておく。夜も更けている。俺は十二番街を後にしようとした。


 しかし、かなりの数のごろつきが行く手をふさぐ。後をつけられていたのか。


「イカれたジョニーの野郎のところで、たんまり金を使った奴がいるって聞いたんだ。まさか騎士様だとはな」

「身に付けているものすべて置いていくなら、命だけは取らないでやるぜ。グヘヘへ」


 俺はずっと装備しっぱなしだった木の棒を握りしめると、石ころを掴んだ。下手をしたら、雷鳴無双斬を使わなければいけないかもしれない。


「ライジーン様、伏せて!」

「⁉」

「燃え滾れ、サウザンドファイアボール!」

「「「ぎゃあああああッ!」」」


 燃えるごろつきの大群。ゴミ山の上にはアルマが杖を持ち立っていた。

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