第5話 黒い竜馬に気を付けろ!
ミスリルの武具を装備したスヴェンとアルグレイン、賢者のローブとオルフェウスの杖を装備したアルマと地下牢獄を出ると、竜馬のいる厩舎に向かった。中には色とりどりの竜馬がいる。一般的に竜馬の色は黄褐色である。だが稀に色が違う個体も存在する。
「オルランド様、どの竜馬に乗りましょうか? 僕は乗り方が分かりません」
「俺に任せろよ、スヴェン。昔から親父に竜馬の世話をさせられていたから、乗るのはお手の物だぜ」
「じゃあスヴェンとアルグレインは2人で竜馬に乗って、俺とアルマも二人で竜馬に乗るか……。後はどの竜馬を選ぶかだが……」
「おっさん、白い竜馬が良いと思うぜ、俺ん家で1番足が速かったからさ」
確かに白い竜馬は足が速い。しかしスタミナが無く長距離には向かないのだ。
「いや、悪いな。今回は黒い竜馬を使う。竜馬に詳しいアルグレインなら、意味は分かるな」
「なるほど、そー言うことか! 冴えてるなおっさんのくせに」
「おっさんのくせには余計だ」
「でもよー、あの腹黒剣王だって思い込んでたけど、ライジーンのおっさんは良い奴だな」
「僕も失礼ながら、身構えていたんですが、信頼できる方だと分かりました」
「2人とも、ライジーン様に失礼よ。私は最初から信じても良い方だと思ってました」
俺はアルマたち3人の頭をくしゃくしゃと撫でた。自分の子供のようにさえ思える。まあ、俺独身貴族だったけど……。
2人乗り用の鞍をつけて、黒い竜馬で要塞を出る。行き先は機械都市ムスタディオ。ゲーム序盤で、拠点にすると便利な都市だ。主に地下にある太古の機械を掘り出して、修理して飛空艇などを建造し、産業にしている都市と攻略本には書かれていたのを覚えている。
「よーし、ムスタディオに着くまでは、追手に気を付けろよ」
「おっさんの作戦なら、必ず成功するぜ!」
「ライジーン様、よろしくお願いします」
アルマは俺の後ろに座っており、身体を強く抱きしめてくる。あーこれが愛しのアルマの抱擁か……などと思っていると、アルグレインがからかってくる。
「おっさん、鼻の下のびてるぞ」
「うっさい、そんなわけあるか」
「やれやれ、先が思いやられますね」
街道に出ると一路ムスタディオに向かう。黒い竜馬は、少しずつ速度を上げていった。
「アルマ、賢者のローブの着心地はどうだ? 冬だし寒くはないか?」
「ライジーン様、何か加護がかかっているのか薄いけど、温かいです。心配してくれてありがとうございます」
「そうか、なら安心だな。これから先のことで不安になったりしていないか?」
「ライジーン様やスヴェン、アルグレインがいれば何とかなる気がします」
アルマは、ストーリーでも涙もろく、情に厚く、そして芯の強い性格だった。それは異世界でも変わらないようだ。中学生のゲームに熱中してた頃は、将来ゲームデザイナーになりたいと夢見ていたことを思い出す。アルマの似顔絵を描いたりもしていたっけな。
石畳の街道を進むこと数時間、そろそろムスタディオの近くの関所に辿り着くだろう。俺はアルグレインの竜馬と並走し、関所が近いことを告げた。そして一計を案じ、みんなに伝える。
「貴様ら、止まれ。通行税を払わなければここは通れんぞ」
槍を持ったむっつりとした兵士が、言い渡してくる。
「私たちは、極天騎士団の騎士見習いである。逃亡した元騎士団長である反逆者ライジーンを捕まえたので、ムスタディオのボスディン公に引き渡したい」
「何⁈ 顔を見せろ? 確かに、ライジーン・オルランドだ。昔見たことがある」
「どうする通すか?」
「ボスディン公に目をつけられるのは避けたいな。よし通せ」
あっさりと関所破りは成功した。スヴェンの演技のうまさには舌を巻いた。そういえば、ジョブ適正はものまね士も高かったっけなあ。
「やりましたね、オルランド様」
「だが、グルグル巻きに縛られるのは、生きた心地がしなかったよ、二度とごめんだ」
そして段々と山深くなってきた。竜馬にも水を与え、休ませなければならない。
「ライジーン様、池があります。竜馬を休ませたらどうでしょうか?」
「ナイスだ! アルマ、ここから先は休めなくなるからな」
「ライジーンのおっさん、休憩か?」
「ああ、そろそろ敵も追っ手を差し向けてくるだろうからな」
竜馬は尖った嘴で水を飲んでいる。アルマはそれを愛おしそうに撫でていた。将来、美人になるだろうことを約束されたような姿。四十のおっさんと結ばれる可能性はあるのだろうかと夢想にふける。
「よし、そろそろ行くぞ。ここからはこの黒い竜馬の見せ所だ」
「アルマもスヴェンも、振り落とされないように気を付けろよな」
再び山道を竜馬で走っていると、高い笛の音が鳴った。追っ手に見つかったのである。ムスタディオまではあと一山は越えなくてはならない。まだかなり後ろだが、黄褐色の竜馬がこちらを追いかけてくるのが見える。
「いいタイミングになったら、教えてくれよ」
「おう、その時はスヴェンを振り落とさないようにな」
アルグレインと会話をすると矢がヒュンッという音を立てて、近くを飛んでいった。敵の竜馬は10匹で全て黄褐色である、かなりの手練れのようで背中に乗ったまま、矢を放ってくる。
竜馬の能力はスピードでいうと白、赤、黄、黒。スタミナは黄、赤、黒、白といった順番の能力を持っている。本来ならば赤い竜馬を選ぶところだ。黒い竜馬は、スピードもスタミナも黄褐色の普通の種類に負けている。
矢が際どいところまで、放たれる頃になって、俺はアルグレインに指笛で合図を送った。俺とアルグレインは手綱を大きく引き、街道からわきにそれ山肌を走り始める。後ろのアルマが怖いのか力を込めて抱き着いてきた。
黒い竜馬は、能力が低い代わりに、道なき道を走る脚力を持っている。それは
断崖絶壁や傾斜の大きい山肌で、真価を発揮させた。
「山に逃げるぞ、もっと矢を放て! 魔法も使って構わん。取り逃がすな」
背後を見ると騎士たちの服には、ミルディオス教会のマークである聖なるダガーを模したマークが印されている。アルマもそれを見て、一言何かを呟いたが聞こえなかった。
「やったぜ、爺さんの作戦勝ちだな!」
「1日は早くムスタディオに着くことができるはずだ。その間にある人物を探す」
「私たちは元居たアグリアスの街くらいしか、詳しくありません。今までもそうですが、完全にライジーン様頼みになるのが申し訳ないです」
「ふふ、その内戦闘やその他のことでも、君たちを頼ることになるから今は甘えていてくれ」
峠を越えると、地平線に太陽が沈み、茜色に空が染まる。この世界でも夕暮れは綺麗だなと思い、元居た世界のことを思い出す。父さんや母さん、兄貴たちは悲しんでいるのだろうなと。だが、今俺はライジーン・オルランドだ。この世界を混沌の渦に落とそうとしている者つまりアルマを狙う者を、倒さなければならない。それからでも色々と考えるのは遅くはないだろう。
「ライジーン様、都市の灯りが見えます。あれが機械都市ムスタディオですか?」
「ああ、でかい都市だろう。隠れるには丁度良い場所だ」
日が沈むと月明かりの中ゆっくりと山道を竜馬で走る。
目指すは、機械都市ムスタディオの蒸気街を牛耳っている、大盗賊ヴェルファイア・シープフェザーのアジトだ。
夜気の寒さを感じながら、俺はムスタディオに向けて竜馬を加速させる。
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