第4話 隠しエリアとショートカット
アルマを助け出した俺は、ガングレリ要塞をすぐには後にはしなかった。要塞の地下の最深部に用事があったからだ。ゲームでは最難関エリアと言っても過言ではなかったが、ゲームのように失敗しては、データロードを繰り返すようなことにはならなかった。ライジーンこと俺の雷鳴無双斬で、敵は全て倒れていたからだ。
地下に続く、隠し通路を進んで行く。もう長い間使われていないからかよどんだかび臭い匂いがする。ゲームでは追手が次々と現れ、味方の体力とアイテムが切れて、全滅することが多かった。
「ライジーン様、すぐに竜馬で逃げるのではなかったのですか?」
アルマが怪訝そうに俺に質問をした。スヴェンもアルグレインも、同じ様な顔をしている。理由を言いたくなったが、驚かせたかったので、今は内緒だ。
「それにしても地下は牢獄なんだな、骨がいっぱいあって薄気味悪いぜ」
「僕もそれは同意する。あまりいい雰囲気ではないな。モンスターが出そうだ」
確か、ゲームの攻略本には、ガングレリ要塞を作った、この国の大昔の暴君が、自分に異を唱えるものを収容するために作ったと書いてあった。ここは序盤が終わると、二度と来れないエリアなのだ。
「うっし、牢番の詰め所があるな。アルグレイン1番古そうな鍵を取って来てくれ」
「俺は使いっ走りじゃねえんだぜ、おっさん。まあ助けてもらったし言うことは聞くけどよ」
「アルグレイン、いつも手より口の方が動いているんだから、ちゃっちゃとこのぐらいの仕事終わらせなさい」
アルマに窘められたアルグレインは、へいへいと不満そうに返事をし牢番の詰め所に入った。
「うわー!」
「どうしたの? アルグレイン⁈」
「モンスターでもいたのか⁉」
俺を除く2人は牢番の詰め所に急ぐ。俺はいたずらに成功した子供の様な気分になる。アルグレインを追いかけた2人も悲鳴を上げた。
俺はゆっくりと中に入ると、3人はしゃれこうべと化した牢番の遺体を見て、腰を抜かしている。俺は白骨死体から、古く錆びた鍵束を奪い取った。
「3人とも、このくらいで驚いているようじゃ、この先が思いやられるぞ」
「だって、骸骨なんて初めて見たんですから……」
「驚くに決まっていますよ、オルランド様」
「知ってたなら、やっぱヒデーおっさんだぜ」
しかし、この先の冒険でアンデッドの代表格スケルトンやゾンビと戦うことになるのだから、これくらいで悲鳴を上げているようでは先が思いやられる。まあ、そうは言ってもストーリーの序盤が終わる頃には、3人ともライジーンのステータスを優に超えるのだが……。
「鍵は手に入れた。後はこの牢獄の最深部に行けば、目的は達成できる」
「ライジーン様は、なんだか大昔の預言者ミルディオス様みたいですね。何でも知ってそう」
「アルマー、それは言い過ぎなんじゃねえのー」
「オルランド様は、さすが長生きされているだけはある」
そして俺は頭に焼き付いているゲームのマップの地下へと続く階段ではなく、その反対側の方へと歩みを進めた。大穴がポッカリと口を開けている。それを見て怯む三人。俺は恐れることもせず大穴に直行する。しかしアルマに引っ張られた。
「ライジーン様、こんな穴に飛び込んだら、死んじゃいます」
「大丈夫、地下深くへの近道だから。俺を信じてくれ」
「お、オレはパスだぜ、こんな深そうな穴に落ちたら、命がいくつあっても足りない」
「そうですよ、時間がかかっても、正規のルートで最深部に向かいましょう」
うーん、面倒なんだよな。何せ地下10階まで、降りなければいけないのだから。
「じゃあ、俺が一人で先に下りる。声が聞こえたら、お前たちも下りてくれば良いだろ」
「それにしてもさー、なんでこんな地下に用があるんだよ? さっさと要塞から出ないと追手が来るかもしれないだろ?」
「それ以上に、お前たちに必要なものが隠されているのさ」
3人は、俺の行動が理解不能なようだ。まあそれも仕方あるまい。
「取り合えず、俺は下りるからな。それ、やっほ――い!」
前世の俺はスカイダイビングや遊園地の絶叫アトラクションが好きだったので、浮遊感は楽しいとしか感じなかった。数秒で腐った藁の中にダイブする。
「おーい、大丈夫だ! 藁があるからケガもしなくても済むぞ」
やや遅れて、3人が悲鳴を上げながら落ちてきた。怖かったのか、アルマは黄金色に光る目を潤ませている。アルグレインは、たいしたことなかったぜと強がりを言った。
「意外と高い所から落下するというのも、気持ちの良いものですね」
「スヴェン、マジで言ってるわけ?」
アルグレインのツッコミに、スヴェンは何のことかさっぱり分からないという顔をしている。こいつはやっぱり俺と通じ合うものがあるなと親近感が沸いた。
「みんなこっちだ」
風化してボロボロになった白骨死体が多数ある中で、牢獄の最深部に青白く光るスケルトンが、鎖に繋がれていた。アルマをはじめとする3人は驚き、俺の後ろに隠れる。
『……お前たちは……エルグ王の仲間か……?』
「この地下牢獄を作ったその暴君の仲間ではない。賢者オルフェウスよ。お前を解放しに来た者だ」
『……だが……我が魂は……憎きエルグ王の呪いで……この地下牢獄に囚われている……』
「大丈夫だ、ここに彼の滅びの神獣の魂を宿す聖女の血を引く者がいる」
『……おお……では……我は……解放される……のだな……』
俺はアルマの方を向く。そして青白く光る賢者オルフェウスを拘束している鎖を古い鍵で外すように頼んだ。アルマは決意を固めて、青白く光るスケルトンに近づく。
『……おお……感じるぞ……神聖な魂の……旋律を……』
「賢者オルフェウス様、どうか天国へ導かれますように祈ります」
『……ありがとう……無垢なる……乙女よ』
青白く光っていたスケルトンは真っ白な光を発し、浄化され消えていった。
「これで良いんですよね、ライジーン様」
「ああ、ついでにこれを貰っておこう」
「何ですか、その本は?」
「賢者オルフェウスの手記だ。確か、最後のページに……あった。隠された財宝のヒントが!」
「「「財宝⁈」」」
3人は一様に驚いた顔をしている。まあ、今までの賢者オルフェウスとアルマのやり取りは、ゲームでは自然と発生するイベントなんだけどな。
「アルマ、賢者オルフェウスがいた場所の後ろを、魔力を込めて触ってみてくれ」
「はい、ライジーン様。やってみます」
アルマが触れると、神秘的な光る数式に彩られた古代の魔法陣が現れた。そしてアルマが壁に吸い込まれる。
「おっさん、アルマが!」
「慌てるな、隠し部屋だ」
俺たち残りの3人も隠し部屋に入る。中にはミスリルで作られた武具が2人分と、オルフェウスの着ていたであろう賢者のローブとオルフェウスの杖が安置されていた。
ゲーム序盤の最強の装備品だ。これでアルマたちを強化できる。初めてこの地下牢獄のエリアを探索した時は、敵の強さやマップの複雑さで、何度も失敗したのは良い思い出だ。
「オルランド様、これらの財宝は、何なのですか?」
スヴェンの質問には賢者オルフェウスの手記を読みながら答える。
「賢者オルフェウスとその仲間の戦士二人は、その功績とカリスマを恐れたエルグ王に捕まり、この地下牢獄で果てたんだ。だが、賢者オルフェウスは拷問を受けようとも、財宝を最後まで隠し通すことに成功したらしい。まあ、今のお前らには過ぎた品かもしれないが、すぐに腕も追いつくだろう」
アルマは賢者のローブを抱きしめ、大事にしますと呟いた。
こうして俺たちは、ようやくガングレリ要塞を、発つことができたのだ。
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