第3話 3人の仲間たちと現状把握

 迫りくるデーモンにエリクサーをかけるとデーモンはうめき声を出して、紅蓮の炎に包まれて、灰になった。スヴェンとアルグレインがとあるセリフを吐くまで待っていたのには理由がある。


「オルランド様、さっきのはエリクサーではありませんか?」

「その通りだ、スヴェン。よく分かったな」

「本で、エリクサーは黄金色の液体だと、読んだことがあったからです」


 そうだ。スヴェン・フリオールは、読書好きの静かで知的な少年だ。ジョブ適正があるのは学者か聖騎士だったことを覚えている。ゲームをする時はメインメンバーの一人として重宝していたので、こうして話せるとは感慨深いものがある。


「よく勉強しているんだな、偉いぞ」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ! ライジーンのおっさん、エリクサーだっていうのは分かったけど、デーモンがエリクサーで死ぬなんて聞いたことがないぞ⁈」

「そうだな、僕もそれを聞こうと思っていたところだ」


 あのデーモンはダメージを与えても倒せないのだ。ストーリーが進んでアルマ救出を始めると、4人の影を倒した後、ウルガラン公はザルカバードに裏切られ、デーモンの生贄にされてしまう。そして助け出されたアルマ、スヴェン、アルグレインの3人で戦闘を行うのだが、イベントバトルであり、3人は負けてしまう。二人が負ける時に発する台詞が、とある人物の現れる条件だったので、待っていた。


 とある人物は、謎の黒騎士という名前で、デーモンとイベントバトルに入る。そしてデーモンは身体の中心にある宝珠を破壊され、消滅する……はずだった。


 しかし、恐らくはこのガングレリ要塞を全滅させたため、スヴェンとアルグレインが現れるのが早まってしまう結果に。更に俺がした、あることが原因でガングレリ要塞に到着するのが遅れた謎の黒騎士は、駆けつけられなかったのだろう。


「ライジーン様、何故エリクサーがあのデーモンを倒す武器になったのですか?」


 生贄の祭壇から解放し、俺の緋色のマントで下着姿を隠して、アルマが質問する。他の2人も早く教えて欲しいという顔をした。


「あのデーモンはアンデッドだったんだ。アンデッドには普通の攻撃はほぼ効かないと言ってもいい。聖属性魔法、もしくは回復魔法が一番効きやすいが、あいにく俺の魔力は低くて、倒すことはできない」


 言葉通り、あのイベントボスはアンデッドの状態異常にあり、聖属性魔法や回復魔法、効果の高い回復アイテムでしか倒せない仕様となっている。まだレベルの低いアルマたちでは倒す手段がない。俺は、ゲームのバグ技で初期装備にエリクサーを持っているライジーンを最初から仲間にして、強制的に倒すという俺が初めて編み出した裏技を、使って倒すということに成功していた。


「だから、どんなケガや病も治す最上級の魔法薬エリクサーが効いたわけですね! 流石は大戦での英雄ライジーン様だ!悪魔殺しデーモンキラーの異名は伊達ではないですね!」


 スヴェンが目を輝かせて、言葉を継いだ。


「でもさ、でもさ、どうやってアンデッドだって見抜いたんだよ」


 アルグレイン・ストライフスが肝心なところを突いてくる。勘の良さが素晴らしいアルグレインを、ゲームをしていた俺はサムライのジョブに就かせることが多かった記憶を思い出す。もちろんメインメンバーで使っていたと言いたいが、他に優秀な前衛がいたので、サブメンバーとして運用していた。すまんアルグレイン。


「お前たちが遮二無二攻撃しているのを見て、全くダメージが入っていないことから推測したまでさ」

「なんだよそういうことかよ、俺たちばっか苦労して、やっぱ性格悪いってのは本当なんだな」

「アルグレイン、本当のことでも口にするのは良くない」

「おいおい、スヴェンもアルグレインと同意見なのか……」

 

 アルマはそんな俺たち3人の様子を微笑みながら見ている。


「で、おっさんは、どこでアルマが誘拐されたって話を聞いたんだよ? オレたちは騎士見習いの宿舎に、近所のおばさんが攫われたのを見たのを聞いて、追ってきたんだ」

「要塞に着いたら兵士たちが皆倒されているので、何が起きたのかと驚きました。まるで、計画をあらかじめ知っていたみたいですね」


 正直、困った。ゲームの世界だからとは口が裂けても言えないし、神からお告げがあったとかは、イタイ人に見られてしまうだろう。3人はこちらをじっと見つめてくる。あ、そうだ。俺はあのヒキガエル……ウルガランの奴に幽閉されていたんだったよな。


「俺を謀反の濡れ衣で幽閉していたウルガランが、話しているのを偶然聞いたんだ。見張りの兵士が多くて、誘拐を未然に防ぐことはできなかったがな」

「でもそれじゃあ、ライジーン様はこれからも謀反を起こそうとして、逃げた犯罪者ってことになっちゃうんじゃないかな? 私のせいでそんなことになるなんて……本当にごめんなさい」


 アルマは澄んだ金色の瞳に涙を溜めて、謝ってきた。俺はこのシーンを知っている。ゲームの中盤ライジーンが幽閉された身でありながら、アルマを助ける為、謀反人として扱われることになり、アルマが謝罪するのだ。


 俺はその時ライジーンが言ったセリフをそのまま口にする。俗世で汚れ切ったライジーンの魂は、アルマによって救われるのだ。


「謝らないでくれ、君のおかげで地位や名誉よりも大切なものを思い出すことができたんだ。だから、俺の方こそ、ありがとうと言わせて欲しい」


 それを聞いたアルマは大粒の涙で頬を濡らし、俺が貸したマントで濡れた頬を拭いた。他の二人はその光景を一人は生真面目に、もう一人はいたずらっぽく見つめている。


「さあ三人とも、この物騒な部屋からはさっさと出よう。これからのことも考えなくてはならないしな」

「その前に……なんで私は生贄にされそうになっていたのか、知りたいです」

「僕も同感です。ただの騎士見習いを攫って、こんな大規模な魔法陣を使って何をしようとしていたのか知りたいです」

「オレもオレもー! 分けわかんないまま、進むのはちょっと気が引けるかな」


 俺はゲームの序盤の知識だけを教えることにした。もし全貌を明かしてしまったら、また謎の黒騎士が現れなくなるような、予測不能の事態が起こるかもしれないからだ。


「アルマの母親は、クラリス・アーカーシャだよな」

「はい、下級貴族の家柄です」


 アルマが恥ずかしそうに言う。このゲームの世界は、完全な身分制度なのだ。騎士と言っても下級貴族と上級貴族とでは雲泥の差がある。オマケに俺は伯爵だ。引け目を感じるのは当然か。


「アーカーシャ家の長女は、5000年前に起こったとされる白竜戦争時に世界を崩壊させた神獣の魂が、宿っていると言われているんだ。ザルカバードは、それを狙っているんだろう」

「それじゃあ、これからアルマは敵に、狙われ続けるってことかよ」

「残念ながらそういうことになるな。だが、安心しろ。俺の目が黒い内は、アルマを生贄などに絶対にさせない」

「僕らも微力ですが、協力させてください。足手まといになるようでしたら、切り捨てても構いません」

「スヴェン、アルグレイン……2人ともありがとう。ライジーン様も本当にありがとうございます」

「へへっ、改めて言われると照れちまうな」

「ああ、こればっかりはアルグレインに同感だ」


 そして俺は立ち上がった。3人も頷き、生贄の間を出て行く。


 これからしばらくは逃走劇が繰り広げられるのだ。まだその前にやることがあるのだが……。

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