『魔王』狩りの『無限龍』、軍訓練校で第三皇女を護衛する ~少女になっても普通の生活がしたい最強と、そんな事情を知らずに愛でる皇女の普通な日常~
海月くらげ@書籍色々発売中!
第1話 『魔王』を狩る者
お久しぶりです。
今回は完全な性癖。
初日はこれと昼にもう一話、そこから一週間くらい0時5分目安に一話ずつ、以降は2、3日に一話くらいのゆっくりペースで更新します。
よろしければ応援いただけると嬉しいです。
――――――――――――――――――――
「お目覚めかい、七生カズサくんっ?」
水底に沈んでいるように
閉ざされていた
どうやら仰向けで寝かされているようだ。
理解しても身体は動かない。
「……ぁ、なん、だ。何が、どうなって――」
恐る恐る右手を喉へ伸ばして撫でると、滑らかな感触が伝わってくる。
混乱が、意識に広がって。
「取り乱すのはカズサくんらしくないですよ? 取り敢えず、ほら。起き上がって鏡見ます?」
声の主が俺の背を抱え上げて上体を起こさせた。
視線の先には
そして、正面に置かれた姿見に自分の姿が映り、
「……なんだ、これ」
「いやー、これには水溜まりよりも浅い事情がありましてー。
てへ、と赤い舌先を出して。
悪気がちっとも感じられない声で告げられた。
そして、薄ぼんやりと気を失う直前の出来事を思い出す。
「おい、神崎エルナ」
「はいはいボクは天才魔術薬師で超絶美少女の神崎エルナちゃんですよーっと」
「俺は確か、お前が作った『変身薬』とやらを飲まされたんだよな」
「だってカズサ君は有名だし? 顔バレしてゴタゴタに巻き込まれたくないでしょ? ってボクの天才的
「だよな。そこまではいい。俺も理解出来る範囲だ。だけど……なんで女になってるんだ。どういう理屈だ?」
俺は鏡を
鏡に映る自分は――目が覚めると見知らぬ少女になっていた。
元の
長い銀白色の髪を
当然ながら、目覚める前。
正確にはエルナが製作した薬を服用し意識を失う直前まで、俺の記憶が正しければ性別は生まれてからずっと男のはずだ。
それが、どうして。
目覚めたら女になっている……なんて、馬鹿なことが起こるのか。
原因を作ったのは、どう考えてもエルナが製作した『変身薬』に他ならないだろう。
「……まあ、アレです。ボクが作った『変身薬』は正常に効果を発揮した。結果、カズサ君が男から女に性別が変わってしまいました。めでたしめでたし」
「めでたしじゃねぇよアホか。どう責任取ってくれんだよ? ん?」
「……結婚ですか?」
「……お前に聞いた俺が馬鹿だった」
思わず深いため息をついた。
馬鹿と天才は紙一重と言うが、コイツは間違いなく比重が馬鹿に偏っている。
もう責任とかは考えないことにしよう。
問題はこの先どうするかだけど――
「そもそもカズサきゅんの魔法で元通りにならない?」
「無理だな。今はこの状態が正常らしく、俺の魔法が作用する隙がない」
「あちゃー。だったら、こんなこともあろうかと作っておいた解除薬を飲むしかない――」
「――断るッ!!」
狂気的な提案に声を荒らげて反抗する。
それは、それだけは絶対に嫌だ。
「えっ、なに。カズサ君は戻りたくないの?」
「……自信満々に持ってきた『変身薬』でこれだぞ? 解除薬とやらで、今度は何になるかわかったものじゃない。俺はまだ死にたくないんだ」
「まさかの失敗前提っ!?」
「それとな、お前は知らないかもしれないが変身時にクソほど痛かった。全身の骨を粉砕骨折して
「ありゃりゃ……うん、とてもじゃないけど
全部お前がやったことだがな。
出来るならコイツにも飲んで頂きたい。
俺と同じ苦しみを味わえ。
「にしても、当面はこのままか。本来の
「可愛いしいいんじゃないです?」
「他人事だと思いやがって」
「実際他人事ですし。それに、任務的には都合がいいのは確かですよ? 男より女の方が警戒心は持たれないと思います」
「……それもそうか。不幸中の幸いとは口が裂けても言わないが」
先のことを考えれば、悪影響ばかりでもないのが腹が立つ。
というのも、これから当たる任務が問題だった。
■
月が雲隠れした、薄暗い夜。
遠く続く
闇に紛れるような
もう数えることもやめた
ぼんやりと空を眺めていると、耳にはめていたインカムへ通信が入る。
『――『
よく通る、それでいて気だるさを感じる声。
俺のオペレーター――
『通信良好。いつでもいける』
『――
プツリ、と音を残して通信が途切れる。
意識を切り替え、正面を向いた。
変わらぬ
「……目標捕捉」
荒野を這う、山と見間違う程の巨体。
見た目はブヨブヨとしたカタツムリのようだ。
ギョロリと
ソレは多方へうねうねと無数の触手を伸ばしながら
頭に生える、三本の
『魔王』は頭部の角の数だけ強い個体だ。
『
『魔王』は生物が突然変異……『魔王化現象』を経て産み落とされた異形の生物。
世界を
「さて、と。いくか」
冷たい夜の空気を吸い込んで、作戦対象の『魔王』へ向けて駆け出した。
景色が一瞬のうちに背後へ流れる。
亜音速を超えた速度での移動で発生した衝撃波が地を砕く。
『魔王』が俺へ気づく前に先手を取る。
空中で大きく右腕を振りかぶって、
「――まず、一発」
腰の
拳は
「AAAAGRYRYYRYYYY!!!?!?!?」
夜に
突然の襲撃に怒りを覚えたのか、触手の動きが一段と加速した。
先端を
腹を貫かれれば生身の人間なんて簡単に死ぬ。
というか、威力に身体が耐えられず肉片と化す。
それも俺が普通ならの話だが。
「邪魔だ」
吐き捨て、無造作に腕を振った。
弧を描いた腕がほとんどの触手を
ブチブチと断ち切られた触手が落ち、地面を魚のように跳ねる。
だが、数に優る有利はない。
何本かの触手が俺へ迫り――
「か、はっ」
脇腹と二の腕を触手が貫いた。
かっ、と身が焼けるような熱が指先まで広がる。
喉に詰まった血反吐を吐き出す。
明確な隙。
それを逃さぬように『魔王』が再び触手を
無数の触手を何本かに束ねた。
頭上にかかる黒い影。
巨体の割に
「……なんて、ね」
貫かれた傷口が激しく泡立つ。
――『
俺の固有魔法であり、
即死さえしなければ身体の再生が瞬時に行える。
続いて触腕へ右手を銃のように構えた。
狙いを
「法理反転――『
漆黒の閃光を撃ち放った。
閃光が触腕へ命中すると、変化は瞬時に現れる。
光が照射された場所から触腕が黒ずんだ灰に変わっていく。
それはやがて全体に広がり、ボロボロと脆くなった触腕が粉々に砕けた。
原子単位で死を与える『
人智を超えた存在の『魔王』であっても結果は揺るがない。
『
生と死を司る魔法。
俺が東京人工都市において最強と謳われる『特務兵』の所以だ。
再び『魔王』の
理解できない現象に恐れを抱いたか。
本能的に敵わないと悟ったのだろう。
巨体を
「逃がすわけないだろ」
一度、両足で着地し地を踏む。
鳴る軽い靴音。
間髪入れずに前方へ跳躍。
身を低く沈め、手刀を居合のように構えて『魔王』を見据えて
『魔王』の胴体を容易く一閃し、空へ抜ける。
断面が遅れて変色し始め、風化した岩のように崩れていく。
残心し、ゆっくりと顔を上げて『魔王』を見上げた。
数分もすれば跡形もなく消えることだろう。
どれだけ
これはそういう魔法だ。
『――俺だ。作戦は終了。崩壊を見届けた後に都市へ帰還する』
『
平坦な反応はエマが平常運転の証。
言葉の端々に現れる信頼が身に染みる。
『あ、そうだ』
『ん?』
『室長、話があるって』
『……? わかった』
直々に呼び出しとは珍しい。
十五歳なんて年齢で何度も
非常に
要件は何だろうかとぼんやり考えながら『魔王』が完全に崩壊するのを見届け、俺は
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