第165話 ふゆーせき
「あそこがー、われわれのー、すみかでーす」
ルノアの黒魔法で洗脳された天人、ラスベルクが前方を指差しながら言う。
「ま、街が空に浮かんでいるっ!?」
巨大な鳥となって宙を舞うスラさんの上で、刀華が驚きの声を上げた。
そこにあったのは空の上に築かれた町だった。
「すごいな。どうやって浮いているんだ?」
「あれはー、じめんがー、ふゆーせきとー、よばれるいしでー、できていますー」
Q:浮遊石って?
A:魔力を帯びており、勝手に宙に浮かぶ石。巨大なものは浮遊島や浮遊大陸などと呼ばれる。
「なるほど。その上に町を作ったというわけか」
「そうでーす」
ちなみにラスベルクのしゃべり方が間延びしていてアホっぽいのは、洗脳の副作用である。
「がんばればー、いどうさせることもー、できるのでーす。たいへーん、ですがー」
天人たちが力を合わせれば、この巨大な浮遊石を動かすこともできるらしい。
だが彼らは今日昨日から住み始めたわけではないはずだ。
なのになぜ今になって急にこの空へと移動してきて、しかも地上に降りてきては食べ物を奪い去って行くようになったのだろうか?
そんな疑問を抱いていると、
「ん。こっちくる」
町から天人の二十人程度の集団が飛び立ち、こちらへと向かってきた。
武装していることから、ラスベルクと同じように彼らも町の戦士たちだろう。
レベルはやはり30~40くらいだった。
「ラスベルク!? なぜお前一人なのだ!? それにその人間どもは一体っ……?」
先頭の天人が声を張り上げた。
ベームベルクという名の、ラスベルクと同年代の男だ。どうやら〇〇ベルクというのが、天人族の男の一般的な名前らしい。
レベルもラスベルクとほぼ同じで、ただし武器は大剣のようだ。
洗脳状態のラスベルクが答える。
「かれらをー、あんないしてきましたー」
今にも襲い掛かってきそうな相手に対して、なんとも場違いな返事である。
「案内だと!? 血迷ったか、ラスベルク!」
「待って、彼の様子、どこかおかしくないかしら?」
ラスベルクの名誉のためにも、俺は軽く状況を伝えた。
「黒魔法でちょっと操らせてもらった。ここまで連れて来てもらう必要があったからな」
「「「なっ?」」」
自分たちも洗脳されるのではと恐れたのか、彼らは少し後退する。
「ひ、怯むなぁっ! 怪しげな魔法を使われる前に、一気に叩いてしまえ! 我らの町を護るのだ!」
ベームベルクが喝を入れ、覚悟を決めた天人たちが一斉に襲い掛かってきた。
「我らが得意とする空だ! 鳥に頼って空を飛んでいる奴らなど、恐れるに足りぬ!」
「ん。そうとは限らない」
「なにぃっ!?」
ファンがスラさんの上から跳躍し、天人の集団へと躍りかかった。
最初の一人を一撃で気絶させると、空を蹴って次の敵へ。
「何だ今のは!?」
「空中を跳んだだと!?」
〈天翔+10〉スキルを有するファンは、自由自在に空中を蹴って飛翔することができるのだ。
空中戦の能力は、翼を持つ天人族に勝るとも劣らない。
一方の刀華は〈天翔〉スキルがないため足場はスラさん頼りだ。
だが〈飛刃+10〉スキルを持っており、刀を振るう度、闘気の刃が天人たちへと襲い掛かった。
「があああっ!?」
「なぜだ!? あの距離からどうやってうがぁっ!?」
もちろんルノアは自前の翼を有し、〈翼飛行+10〉があるため空中戦はお手の物だ。
彼女の放つ雷撃が天人たちの意識を奪い、落していく。
俺はというと、フェーネの背中の上で、次々と落下してくる天人たちを受け止めていた。
それをスラぽんが保管庫の中へ入れてくれる。
「ぐはぁっ!?」
最後にベームベルクが刀華の峰打ちでやられ、落下してきた。
これでラストかと思っていると、
「レイジ殿! 第二陣が来たのだ!」
先陣の敗北を見て取ったのか、新手がこちらへと向かってきた。
先ほどより数が多い。
四十人くらいはいるだろうか。
「何だかんだで空中戦は避けたいな」
何より気を失った天人たちを回収しないといけないのが面倒だった。
「あいつらを突破して、一気に町まで降りるぞ。フェーネ、頼む」
「ぴいぴい!」
任せろ! とばかりに威勢良く鳴いて、フェーネが急降下していく。
いきなり正面から突っ込んできたからか、天人たちが狼狽えたのが分かった。
フェニックスである彼女は攻撃を喰らっても何ともないため、こうした無茶をしても平気なのがいい。熱いけどな。
「負けないの」
俺とフェーネを追って、対抗心を燃やしたルノアが猛スピードで滑空してくる。
ファン、刀華を乗せたスラぽんもそれに続いた。
「ぐあっ!?」
「ぶへっ!?」
「ごふぁっ!」
天人の集団を強引に突破する。
地上――というか、浮遊石でできた島へと無事に着陸した。
それなりの大きさの島だ。
恐らくシルステルの王都よりも広いだろう。
先ほど空から見たところでは、小さな林や丘、あるいは池なんかもあるようだった。
農場らしき一帯もあった。
俺たちが降りたのは、住宅地の真ん中にある広場らしき場所だった。
「に、人間だぁっ!?」
「戦士たちが突破されたぞ!?」
「逃げろおおおっ!」
慌てて逃げ出すのは、広場に集まってきていた天人たちだ。
彼らは総じてレベルが低かった。
「待てっ!」
「一般民に手を出すなっ!」
遅れて先ほどの集団が追い付いてくる。
しかし力の差を悟ったのか、周囲を取り囲むだけで近づいてはこない。
と、そのときだった。
「ブルッドベルク様だ!」
「ブルッドベルク様が来てくださったぞ!」
天人たちが急に勢いづいた。
彼らの視線を追うと、そこにはこちらへ向かってくる一人の天人の姿があった。
かなりの巨漢だった。
身長は二メートルくらいあるだろう。
天人には珍しく鍛え抜かれた筋骨隆々の身体付きで、それでいてやはり美貌を兼ね備えている。
「何の騒ぎかと思えば……まさかここまでやってくる人間がいるとはな」
ブルッドベルクが地面に降り立つ。
その手には巨大な三つ又の槍を持っていた。
「人間どもめ! お前たちもここで終わりだぞ!」
「そうだそうだ! なんたってブルッドベルク様は我ら天人族一の戦士!」
「貴様らごときでは相手にもなるまい!」
どうやら彼らにとっては英雄的な存在らしい。
ブルッドベルク 68歳
種族:天人族
レベル:79
武技スキル:〈槍技+7〉
魔法スキル:〈光魔法+6〉〈雷魔法+4〉〈風魔法+5〉
魔法補助スキル:〈高速詠唱+5〉
攻撃スキル:〈突進+7〉
移動スキル:〈翼飛行+10〉
身体能力スキル:〈怪力+6〉〈俊敏+4〉〈集中力+3〉〈動体視力+4〉〈回避+4〉
特殊スキル:〈聖気+5〉〈指揮+5〉
確かに、今まで遭遇してきた天人たちと比べると格段に強いが――
「刀華」
「了解なのだ」
「ぐおおおおおおっ!?」
――二十秒で決着がついた。
「ブルッドベルク様ぁっ!?」
「ま、まさか、ブルッドベルク様が!?」
天人たちが愕然とする中、地面に倒れ込むブルッドベルクに対して、刀華は息一つ荒らげていない。
「ふむ。悪くはないが、動きが単純過ぎるぞ。恐らく今まであまり強者と戦ってこなかったのだろう。力だけで捻じ伏せることができる者ばかり相手にしていると、次第に考えなくなっていくものだ」
敗者にアドバイスまでする余裕っぷりである。
それにしてもファンとの稽古が随分と良い刺激になっているようだな。
「ん。その通り」
ファンがうんうんと頷いていた。
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