第160話 探し物は…

「やっぱ戻ってきたかー」


 後日、ジールアの爺さんから連絡がきた。

 フェニックスが再び街道に姿を現したというのである。


 まぁ大方予想していたけどな。

 かなり離れた場所に放置したが、またあの場所に戻ってくるかもしれないと。


 たぶん渡り鳥的な鋭い方向感覚を持っているのだろう。

 これではどこに置いてきても一緒。

 イタチごっこだ。


「クエッ!?」


 俺が街道に転移魔法で飛ぶと、フェニックスがいた。

 いきなり現れた俺を見て、「出たーっ!?」とばかりに驚いている。

 また飛ばされては敵わないと、すぐ逃げようとしていた。 


「待て待て。ちょっと話をしよう」


 俺は〈念話〉を飛ばし、コミュニケーションを試みることにした。


「クエッ?」


 俺の思考が伝わったのか、フェニックスはこちらを振り返る。


 やはり伝説の鳥だけあって、長く生きているのだろう。

 レヴィやルファのように高い(?)知能を持っているらしい。

 何とかコミュニケーションを取れそうだ。


「何でこの場所に執着しているんだ?」

「クエエッ!」


 こちらの考えは伝わったようだが、俺のことを警戒しているのか教えてくれない。

 しかしこういうときこそ、〈洞察力〉や〈慧眼〉といったスキルが生きる。


「探しているものがあるんだな?」

「クエエッ?」


 何でそれが分かるのか、という反応をするフェニックス。


「それは何だ?」

「クエッ、クエッ!」

「絶対に教えられない?」


 というからには、きっと大切なものなのだろう。

 一体何だろうか?


 と、すぐにあるものが頭に思い浮かんだ。

 鳥にとって大切なものと言えば、あれしかない。


「……なるほど、卵か」

「クエッ!?」


 図星のようだな。

 しかし何でそんな大事なものを落としてしまったんだ。


「クエクエクエッ!」

「え? サンダーバードの群れに襲われたからだって?」


 サンダーバードというのは雷鳥のことだ。

 どうやらその縄張りに立ち入ってしまったせいで、追い回されていたらしい。

 逃げても執拗な攻撃を受け続けたので、フェニックスの方も反撃したのだとか。


「戦っている最中に卵を落としてしまって、幾ら探しても見つからない?」


 それでこの辺りをずっと飛び回っていたらしい。

 街道を通る人たちを襲っていたのは、卵を奪われるかもしれないと危惧していたからか。


 うーん……。

 そもそもその卵、無事なのか?

 まぁフェニックスの卵だし、そう簡単には割れたりしないとは思うが。

 もしくは〈自己再生〉スキルのお陰で、たとえ割れても無事かもしれない。


「じゃあその卵が見つかれば大人しく巣に帰るってことだな?」

「クエエッ」

「仕方ない。だったら俺も探してやる」

「クエ?」


 卵捜索ミッションスタート、ってところか……。


 しかし見つかるもんかね?

 この一帯は見晴らしがいい開けた場所だ。

 もし卵が落ちていたら、空から見れば分かるだろう。


 それで見つからないとなると、他に考えられるのは……ちょうど近くを通りかかった誰かが持っていった可能性だ。

 人か魔物か分からないが。


「フェニックスの卵って、たぶんかなりでかいよな?」


〈神智〉スキルを使って確かめてみる。


 Q:フェニックスの卵ってどんなの?

 A:直径一メートルほどの真っ赤な卵。殻は常に高温なので取り扱いには注意。


 大きさは持ち運びできないほどではなかった。

 ただし素手で運ぶことは難しそうだ。


 何者かが持ち去ったのだとすれば、見つけ出すのは容易ではない。


「……これを使うか」


 俺が目に意識を集中させると、目の前の光景がゆっくりと変化していった。

 鳥が後ろ向きに空を飛び、太陽が逆方向に沈んでいく。

 まるで映像を巻き戻ししているかのようだ。


 ――〈過去視〉。


〈神眼〉スキルのレベルアップによって獲得した能力で、その名の通り、過去を見ることができる。

 これによって、フェニックスが卵を落としたときまで遡れば……


「っ、ここだ」


 上空を飛ぶ巨大な赤い鳥。

 その周囲に纏わりつくのは、紫電を帯びた複数の別の鳥たちだ。

 まさにフェニックスとサンダーバードの群れが交戦している最中だった。


 あっ、何かが落ちたぞ。


 空から地面に向かって、球形の物体が落ちていく。

 恐らくあれが卵だろう。


「あっちだ」


 俺は急いでその落下地点へと向かう。

 するとすぐに卵を発見することができた。


 殻は燃え盛る炎のように真っ赤だ。

 かなり高いところから落ちたというのに、罅一つ入っていない。


 ちなみに過去を見ているのは右目だけ。

 反対の左目で現在のその場所を見てみるが、そこには卵が落下した衝撃によるものと思われる凹みはあったが、卵はない。


 む、何か来たぞ?


 さらに見続けていると、卵に近づいてくる人影が視界に入ってきた。

 人間だ。

 二十代から三十代くらいの男三人組である。

 その格好から見て、明らかに堅気ではない。


「盗賊か?」


 恐らくこの辺りの街道を通る旅人や商人を襲い、略奪などをして生きている連中だろう。


 当然、盗賊が出ればその情報は都市へと伝わり、騎士団や冒険者などが討伐に出向くのだが、それでもこうした連中は倒しても倒しても新たに生まれてくるため、なかなか完全には無くならないものなのだ。


 こいつらが卵を持ち去った犯人だな。

 その予想通り、彼らは稀少なものを発見したような顔をして卵を運んでいった。

 最初は無造作に触れてしまってあまりの熱さに悲鳴を上げ、素手では持ち運べないと悟るや、布を何重にも被せていた。


 このまま過去を見ながら、彼らの後を追い駆けてみよう。

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